日産 e-POWERの泣きどころ?「高速燃費」は第3世代で変わるのか、新型『キャシュカイ』で新旧比較

第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』
第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』全 16 枚

日産自動車が今年、欧州向けクロスオーバーモデル『キャシュカイ』を皮切りに展開を開始する新ハイブリッドシステム、第3世代「e-POWER」。ごく短い距離ではあるが、第2世代e-POWERの現行キャシュカイと第3世代を搭載する試作車を比較試乗することができた。

メディア向けの試乗イベントの会場は追浜試験場内のテストコース「グランドライブ」。発進後のドライブパターンは次の通り。

(1)100km/hまで全開加速
(2)ヘアピンバンク手前で40km/hまで急減速
(3)バンクを抜けた後80km/hまで急加速
(4)30km/hまで急減速し、高低さのある屈曲路を通過
(5)60km/hまで緩加速
(6)緩いカーブを通過後さらに80km/hまで緩加速
(7)高速コーナーを通過後10km/hまで減速。
(8)スタート地点を無停止で徐行通過し(1)へ戻る

速度変化はWLTCの高速モードに似ているが、加速度はテスト時のほうが格段に大きく、燃費には結構厳しい条件である。

◆日本にこんなに向いたモデルをなぜ?

第2世代e-POWER(現行)を搭載した日産『キャシュカイ』第2世代e-POWER(現行)を搭載した日産『キャシュカイ』

e-POWERの前にキャシュカイそのものの寸評を。

車体寸法、室内容積、デザイン等、日本市場への適合性がいかにも高そうでありながらいまだに具体的な導入計画がないという同モデルだが、実際に乗ってみても「日本でのラインナップ拡充にこんなに向いたモデルをなぜ?」という疑問しか思い浮かばなかった。

グランドライブの荒れた舗装面における乗り心地はおおむねハイレベルで、動力性能も十分。パワートレインからの透過ノイズも第2世代、第3世代とも非常に小さかった。唯一感じたウィークポイントは目の粗いコンクリート舗装においてフロアの共振ノイズがやや大きく出たこと。制振材を貼るなどの対策でこれを解消させれば十分トップランナー群に入るという印象だった。

第2世代e-POWER(現行)を搭載した日産『キャシュカイ』第2世代e-POWER(現行)を搭載した日産『キャシュカイ』

◆「X-in-1」構造の静粛性をモロに体感

ではe-POWERについて触れていこう。2020年に『ノート』に搭載された際、ロードノイズが大きく出ている時に積極的に発電を行うことで通常走行時のエンジン停止時間を長く取り、静粛性を上げるという制御が盛り込まれた。その特性はキャシュカイも同じだが、エンジンコンパートメントと車室の隔壁の防音処理をかなり頑張っているという印象で、エンジン回転数が高まる全開加速でも3気筒エンジンのノイズが耳障りに感じられるということはなかった。

元々静粛性の高さはe-POWERの長所のひとつで、筆者の長距離ロードテストにおいても静粛性に関してはトヨタ自動車、日産、ホンダの3社のフルハイブリッドの中でe-POWERが最も静かというのが実感。それを再認識することとなった。

第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』

ここからどう進化するのか興味を持ちつつ第3世代搭載の試作車を運転してみたところ、まずインパクトを受けたのはエンジン起動時のパワートレインからの振動がほぼゼロになったこと。エンジンユニットと電動ユニットを後から結合していたのを「X-in-1」と称する一体構造に変更したことで固有振動の増幅がなくなりノイズ、バイブレーションを抑制できたとエンジニアが説明していたが、それをモロに体感することとなった。

エンジンは1.5リットル3気筒ターボだが、全開加速においてもノイズレベルはきわめて小さかった。興味深かったのは音質で、クランクシャフトが240度回転するごとに1回爆発する3気筒特有の“ビイイーン”というノイズが高回転においてもほとんど聞き取れなかった。当日は強めの横風が吹き、風切り音が普段より強めに出るというコンディションだったこともあってか、後席に乗っていたレスポンスのスタッフは「どのノイズがエンジン音なのかほとんど知覚できない」と印象を語っていた。

◆高速燃費15%改善は間違いなさそう

第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』

走行したのはテストコース3周で、総走行距離は第2世代、第3世代とも11.4km。オンボードの平均車速値および平均燃費計値は第2世代が50km/h、15.2km/リットルであったのに対し、第3世代は53km/h、5.4リットル/100km(18.5km/リットル)だった。

第3世代のほうが平均車速が高いのは最初のフル加速で伸びきり感を試すため110km/h台まで加速するなど、運転パターンがややハードだったことによる。フルハイブリッドは距離が短いとスタート時のバッテリー残量が燃費値に影響するため単純比較はできないが、それを勘案しても高速燃費15%改善という目標は十分達成できていそうな感触だった。

日本ではこの第3世代e-POWERはラージサイズミニバンの次期『エルグランド』に搭載される見通しだが、燃費改善効果の大きさからみてSUV『エクストレイル』など他のモデルにも積極展開すべきと思われた。

第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』第3世代e-POWERを搭載した日産『キャシュカイ』

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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