ゲームエンジンが変えるクルマづくり――Unreal Engineがもたらす自動車開発の未来とは

Unreal Engineのデモムービーより次世代コックピットのイメージ。
Unreal Engineのデモムービーより次世代コックピットのイメージ。全 13 枚

8月5日、Unreal Engineの自動車業界向けイベント『Build: Tokyo '25 for Automotive』をEpic Games Japanが開催した。ゲーム開発から生まれたUnreal Engineが、いかに現代のクルマづくりを変えつつあるのか、その最前線について語られた。

EV、SDV(ソフトウェア定義車両)への移行が加速し、ソフトウェアが車両価値を定義する時代において、ゲームエンジンの役割は急速に拡大している。実際、世界のトップOEMの8割がUnreal Engineを活用しており、その技術はHMIからデザインレビュー、シミュレーションまで多岐にわたる。

同イベントで行われたEpic Games Japan 向井秀哉氏による講演「自動車業界におけるUnreal Engineの技術」を基に、Unreal Engineの特徴と具体的な活用事例を解説する。

◆「ゲームエンジン」がなぜ自動車業界で注目されるのか

「ゲームエンジン」と聞くと、多くの自動車業界関係者は自らの業務とは無関係だと感じるかもしれない。しかし、その認識はもはや過去のものとなりつつある。講演の冒頭で向井氏は、Unreal Engineを「3Dコンテンツを作成するための機能が揃っているもの」と定義し、プレゼンテーションソフトのPowerPointに例えて説明した 。誰もがPowerPointを使って企画書や報告書を作るように、Unreal Engineを使えば、専門家でなくともインタラクティブな3Dコンテンツを効率的に構築できるというわけだ。

ゲームエンジンは、3Dコンテンツを作成するための機能が網羅された統合開発環境だ。プレゼン資料をPowerPointで作るように、インタラクティブな3D体験を構築できる。

もちろん、その機能は単なるCGツールにとどまらない。美しいビジュアルを生成するレンダリング機能に加え、物理法則に基づいたシミュレーション、ユーザーの操作に反応するインタラクティブ性の実装、サウンドやエフェクトの追加など、デジタルコンテンツ開発に必要なあらゆる機能が一つの環境に統合されている。この統合開発環境としての側面こそ、自動車開発の現場で注目される最大の理由である。

Unreal Engineには、3Dシーン(ステージ)の作成、オブジェクトの配置とアニメーション、ライティング、エフェクト、映像編集、サウンドなど、3Dコンテンツを作成するための機能のほとんどが網羅されている。

事実、その採用は世界規模で急速に進んでいる。講演によれば、世界のトップ20に数えられる自動車OEM(完成車メーカー)の実に80%が、デザイン、シミュレーション、マーケティングなどの工程でUnreal Engineを何らかの形で活用しているという。また、車載インフォテインメント(IVI)やメータークラスターを構成するHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)の分野では、すでに30車種以上でUnreal Engineが採用され、市場に投入されている。

世界の主要自動車メーカーの多くが、デザイン、シミュレーション、マーケティングなどの分野でUnreal Engineの活用を進めている。

なぜこれほどまでに普及が進んでいるのか。その答えは、Unreal Engineが掲げる「1つのデータを様々な用途に」というコンセプトに集約される 。従来、自動車開発ではデザイン、設計、試作、テスト、マーケティングといった各工程で、それぞれに最適化された異なるツールとデータ形式が使われてきた。これにより、部門間でのデータ変換や再作成に多くの時間とコストが費やされていた。Unreal Engineは、デザイン部門が作成した車両の3Dデータを核として、それを開発のあらゆるフェーズで一貫して活用するワークフローを可能にする。この「デジタルデータの民主化」こそが、開発プロセス全体を効率化し、新たな価値を創造する源泉となっているのである。

企画段階の3Dデータを基点に、HMI、シミュレーション、マーケティング映像など、開発のあらゆるフェーズで再利用できるのがUnreal Engineの大きな強みだ。

◆デザインとエンジニアリングを加速させるビジュアライゼーション

自動車開発の出発点はデザインだ。Unreal Engineは、この最も重要な工程において、デザイナーやエンジニアの意思決定を強力に支援する。その中核となるのが、外部の3Dデータを高品質にインポートする「Datasmith」という機能だ。これにより、自動車業界で標準的に使用されているAlias、CATIA、NXといったハイエンドCADのデータを、ネイティブフォーマットのまま直接取り込むことが可能だ。データ変換の手間や、その過程で生じる品質劣化のリスクを最小限に抑え、デザインの初期意図を忠実にデジタル空間へ持ち込めるのである。


《根岸智幸》

メディアビジネスコンサルタント、ソフトウェアエンジニア、編集者、ライター 根岸智幸

メインフレームのOSエンジニアを皮切りに、アスキーで月刊アスキーなど15誌でリブート、リニューアル、創刊を手がける。クチコミグルメサイトの皮切りとなった「東京グルメ」を開発し、ライブドアに営業譲渡し社員に。独立後、献本付き書評コミュニティ「本が好き!」の企画開発、KADOKAWA/ブックウォーカーで同人誌の電子書籍化プロジェクトなど。マガジンハウス/ananWebなどWebメディアを多数手がけ、現在は自動車とゲーム、XRとメディアビジネスそのものが主領域。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

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