築25年総戸数225戸のマンションで『全駐車枠』EV基盤整備を実現---管理組合が踏み出した大きな一歩

「グレーシアパーク八王子みなみ野」のエントランス
「グレーシアパーク八王子みなみ野」のエントランス全 15 枚

集合住宅向け充電サービスを展開するWeCharge(ユビ電)は、八王子市内にある集合住宅「グレーシアパーク八王子みなみ野」において、敷地内の全駐車枠274区画にEV用充電コンセントを設置し、サービスを開始した。

【画像全15枚】

さまざまなハードルをクリアしないと実現しない集合住宅における充電設備設置の経緯をレポートする。

◆駅からの距離と駐車需要、全区画設置の背景

「グレーシアパーク八王子みなみ野」の駐車場エリア。全274区画に充電設備を備えた「グレーシアパーク八王子みなみ野」の駐車場エリア。全274区画に充電設備を備えた

グレーシアパーク八王子みなみ野はJR横浜線「八王子みなみ野」駅より徒歩15分ほどの場所にある総戸数225戸の大型集合住宅だ。駅から少し離れている立地から、マイカーを複数台所有する人もいて、当然ながら訪問者もクルマを使うことが想定される。駐車枠が総戸数よりも49区画多いのはこれらの需要に対応することを目的としたからだ。

とはいえ、すべての居住者が駐車枠を借りているわけではない。集合住宅の駐車場はあくまで共有スペースであり、利用するには管理組合と賃貸契約を結ぶ必要がある。つまり、駐車場については利用者もいれば、利用しない世帯もあり、そうした状況下で、本来なら受益者負担であるはずのEV充電設備設置を全区画に備えた、グレーシアパーク八王子みなみ野の取り組みは注目に値すると。

しかも、グレーシアパーク八王子みなみ野管理組合によれば、驚いたことに現時点で充電設備を直接必要としているのはPHEV(プラグインハイブリッド車)を所有する2人だけで、BEV(電気自動車)所有者は一人もいないという。しかし、このマンションでは充電設備設置の合意ができた。その理由はどんなところにあったのだろうか。

◆合意形成を後押しした東京都の大型補助金

全区画に設置された200V/3kWh出力のコンセント全区画に設置された200V/3kWh出力のコンセント

管理組合によれば、年に一度、居住者向けに住環境改善のための大規模なアンケートを実施してきているが、その中でEV用充電器の必要性を初めて訊ねたのは6年前のことだったと話す。ただ、このときはほとんどの方が必要性を感じないと回答。議論は盛り上がらなかったそうだ。

風向きが変わったのは、東京都がEV充電器設置に対する手厚い補助金を出しているという政策を知ってからだ。2030年から純粋なガソリン車の新車販売が制限されることなどを背景に、アンケートを繰り返すうちに興味を持つ人が徐々に増加。さらに年一度開催してきた意見交換会でも必ずこのテーマを採り上げて議論を重ねていく中で、最終的には総会直前のアンケートで7割以上の方が必要だと回答するまでになった。

◆事業者選定のプロセスとユビ電採用の決め手

274区画すべてに充電設備を用意したため、変電施設「キュービクル」が準備された274区画すべてに充電設備を用意したため、変電施設「キュービクル」が準備された

充電器設置の方針が決まれば、次の議論は施工会社をどこにするか。そこで2023年に東京都環境公社に帰属する東京都地球環境温暖化防止活動推進センター(クール・ネット東京)を通じて、充電サービス事業者5社によるプレゼンテーションを実施。検討を重ねた結果、輪番充電といったコントロール技術のほか、ランニング費用が無料であったり、管理組合が個別に電気代を負担する必要がないユビ電を選択するに至ったという。

とはいえ、充電設備設置に至るきっかけとなった最大のポイントはやはり東京都から支給される補助金だ。東京都では2023年4月より新築マンションに充電設備の設置を、マンションの規模や駐車場の台数によって設置すべき規模を決めている。グレーシアパーク八王子みなみ野は2000年11月に建てられた既築住宅であるが、「ゼロエミッション・ビークル普及拡大連携プロジェクト(チャレンジZEV2030)」の取り組みの一環として、この施策の延長で補助金支給の対象とされた。

充電器の配電盤に役割を果たす「EV充電器盤」。各ブロックごとに設置されている充電器の配電盤に役割を果たす「EV充電器盤」。各ブロックごとに設置されている

驚くのはその支給額だ。充電コンセント274口を設置する工事費総額は1億3324万円。そのうち東京都から支給された補助金は1億1298万円と、実に84%に及ぶ。これによる管理組合の実質負担額は2026万円で済み、これは管理組合が修繕積立金などを切り崩して支払ったそうだ。ここまで支給されるとなれば「ウチでも整備したい!」との声が出そうだが、残念ながらこれは東京都だけの話。ほかの道府県ではこうはいかない。

◆“今やる”という意思決定

大規模な充電設備となったため、専用に設置された電柱から電気を引き込む大規模な充電設備となったため、専用に設置された電柱から電気を引き込む

ユビ電によれば「国の補助金だけだと支給されるのは最大20区画までで、補助額も設置工事の6割程度にとどまる」という。つまり、東京都では他の道府県では得られない、まさに“大盤振る舞い”の補助金が支給されているというわけだ。管理組合もこの点について言及しており、「この補助金は政策的な側面が強く、いつ支給の条件が変更されるかわからない。それなら補助金が厚い今のうちに実行しよう」との判断に至ったという。

管理組合に話を聞いていくと、補助金で恩恵を受けた実例が過去にもあった。それは二重窓サッシ工事に対する経済産業省から支給された省エネ対策の補助金で、まだ建設費が安かったコロナ前の施工に対して支給されたものだった。コロナ禍が終息すると建築費が高騰したため、今の状況下ではとても補助金では賄えなかったと話す。この経験が「補助金が支給される今のうちに……」との思いを強くさせたというわけだ。

◆利用フローと料金設計、アプリ認証と還元スキーム

WeChargeのアプリを使って充電するユビ電の集合住宅向け充電サービスWeChargeのアプリを使って充電するユビ電の集合住宅向け充電サービス

では、グレーシアパーク八王子みなみ野における充電設備の利用体系はどうなっているのか。このサービスではいつでも好きな時に充電が可能であるのが特徴で、利用者はWeChargeアプリからQRコードを読み取って認証することで充電が可能となる。

このアプリにはあらかじめ支払うクレジットカードが登録されており、充電から課金までスマートフォンのアプリ上ですべて完結する仕組みで、まさに共同住宅でありながら、まるで戸建てに設置した充電コンセントのように必要なときに必要な分だけ充電が行えるのだ。

利用料金は月額の駐車料金に加えて基本料金2000円/月を支払い、利用した電気代を従量課金で支払う。また、この2000円はユビ電に一旦支払われるが、半年に一度そのうちの8割(1600円/月)がマンションの修繕積立金の口座に還元される仕組みとなっており、将来的に発生する設備のメンテナンスや更新費用はこの還元金でカバーしていく計画。これによって10年~15年程度で初期費用を回収できるよう設計されているという。

◆将来需要に備える制御技術と運用

配線は将来の6kWh充電に対応できるように準備された。埋め込まれていないのはこの工事が補助金内に含まれていないため配線は将来の6kWh充電に対応できるように準備された。埋め込まれていないのはこの工事が補助金内に含まれていないため

また、管理組合によると、受電設備はマンションの資産として設置するものの、電力の契約はユビ電が行う形になっているそうだ。将来の充電利用が拡大したときの対応も、ユビ電が提供する制御技術が活かされる。充電の需要が高まるのは夕方~朝に至る時間帯であるが、そんな時でもシステムが駐車ブロックごとに複数のコンセントを電気容量内で順番に充電するように制御する。朝までには充電が完了できるようにコントロールされるという。

ここまでEV充電器の整備に東京都の補助金を使ったグレーシアパーク八王子みなみ野の例を紹介してきた。では、東京都のように住宅に補助金を出せない他の道府県で充電設備を設置する場合、ユビ電としてどのように考えているのだろうか。

◆他道府県での現実解:“ニコイチ”と日別の共用

取材当日は試乗会ということで、最新の電動車が用意された取材当日は試乗会ということで、最新の電動車が用意された

ユビ電の共同創業者&COOである白石辰郎氏は、「国からの補助金は6割とどまり、残りの4割を自己負担しなければならないこのハードルは高く、共同住宅での合意形成は難しい」と話した上で、「ユビ電としては2区画に1台の充電器を設置して共有する“ニコイチ”方式や、奇数日/偶数日で使用を分ける運用方法を提案している」と話す。

確かに現状を踏まえれば、電動車の数はまだまだ少数派であり、アプリ上でこれらのコントロールができれば実用上、大きな支障は発生しないかもしれない。むしろ、まだ多くない集合住宅における充電設備があることで、資産価値を高める要素につながる可能性すらあるとも言える。

◆充電設備がもたらす資産価値と普及効果

東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター クール・ネット東京による出展東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター クール・ネット東京による出展

一方で、充電設備の設置がEV普及の後押しになるという調査結果もある。ユビ電によれば、現在、国内の乗用車におけるEV保有率は0.8%にとどまるが、WeChargeを導入した集合住宅においては基礎充電インフラの契約率が5.0%に達し、これは全国のEV保有率の約6倍になっているというのだ。

実際、管理組合が集約したアンケートでも同様の結果が示されている。充電設備が整うことで次の車の買い替え時にEVやPHEVの購入を検討すると回答した人が約64%もいたというのだ。これらを踏まえれば、まずは充電設備の設置の第一歩を踏み出すことが重要なのではないだろうか。

《会田肇》

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