稀代のライトウェイトスポーツ、いよいよ現役に幕! アルピーヌ『A110』最終モデル×3に蓼科で緊急試乗

アルピーヌ A110 R 70
アルピーヌ A110 R 70全 30 枚

創業は1955年だから2025年は70周年。ちなみに『A610』の生産を終えルノー・スポールに統合されたのは1995年だから、17年もの休眠期間を経た2012年にWEC、つまりモータースポーツ活動から復帰し、5年後の2017年には市販モデルの発表にこぎ着けた。日本市場への上陸は2018年だったから、ついにアナウンスされた2026年6月いっぱいの生産終了までに丸8~9年もの長寿モデルとなる。

【画像】アルピーヌ A110 最終モデル

しかも『A290』次いで『A390』が欧州で発売されるまでの7、8年間は、市販車としては単一車種ブランドだったことを思えば、ますます21世紀のライトウェイトスポーツカーとして、その特異性と偉大さが浮かび上がってくる。他でもない、アルピーヌと『A110』のことだ。日本でのオーダーの受付リミットは2026年3月いっぱいまでだが、ディエップ工場の生産枠の埋まり方次第で、締切が早まることは考えられる。

ついに最終モデル×3グレードが揃ったということで、蓼科で11月中旬、最後の試乗会が行われた。日本市場には25台の限定車となる「A110アニバーサリー」と、従来のSとGTの利点を組みあわせた「GTS」、そして世界限定770台で70周年の節目と、A110現在の到達点を示す「A110 R 70」だ。南アルプスや中央アルプスを遠望する試乗コースは、確かにアルピーヌの最後を飾るにふさわしい舞台だった。

◆ル・マン仕込みのGT性能が光る「GTS」

アルピーヌ A110 GTSアルピーヌ A110 GTS

まず乗り込んだのはA110 GTSだ。試乗車の外装色はアトリエ・アルピーヌの一環で用意されたヘリテージカラーこと「ブルー・ポン(孔雀の青)」。1960~70年代のA110にあった外装各色が110台分だけ施せるという台数限定オプションで、52/110台目であることを示す刻印プレートが室内、センターコンソールの根元にあった。GTSとは最後の追加グレードで、早い話がGT+S、でもオプションでR並の空力パッケージをも追加できる仕様。ノーマルグレードより約1.5倍の足まわり剛性を与えられたシャシー・スポールに、従来のGTから受け継いだリクライニングとシートヒーター機能を備えたスポーツシートが組み合わされ、何なれば“R”に限りなく近いカーボンエアロキットがオプションで用意される。

とはいえ淡いグレーのレザーシートに山並みを連想させるステッチパターン、緑ががかったブルー外装の組み合わせは初披露で、ハイパフォーマンスGTの側面を強めた優雅な仕様だ。従来の「A110 S」といえば、自動的にアルカンターラのバケットシートしか選べなかったので、快適装備を充実させたシャシー・スポールという点に、GTSの魅力がある。

アルピーヌ A110 GTSアルピーヌ A110 GTS

いざ走り出すと、これまでもGTやS、Rに共通だった340Nm・300psのエンジンに、GTS専用アクラポヴィッチのチタンマフラーがオプション装着され、より乾いた、適度に力強いエキゾーストノートを発する。乗り味としては、ノーマルのシャシー・アルピーヌよりほんの4mmだけ低く、ダンパーやスタビライザーも固められ、ステアリング操舵に対して横方向に素早い反応を返してくる、Sらしいアジリティの高さと硬質のロール感は健在だ。

その分、レザーシートの上で身体が滑る感覚もなきにしもあらずだが、新車ゆえの表皮張りの固さゆえ、身体に馴染んでくれば問題はないはず。何より蓼科高原での朝一番に、シートヒーターを頼りにできる事実は、寒がりには堪えられない。ライトウェイトスポーツとはいえ、使いやすいサイズの荷室と、長距離にめっぽう強い空力や快適性。そこがル・マン仕込みのGT性能であり、アルピーヌらしい持ち味でもある。GTSのベース価格は1200万円、ヘリテージカラーは+72万円、アクラポヴィッチ・マフラーは+100万円のオプションだ。

◆ファーストカーで乗れるライトウェイトスポーツ

アルピーヌ A110 アニバーサリーアルピーヌ A110 アニバーサリー

次に試乗したのはA110アニバーサリー。前期型でいえばピュアやリネージ相当の320Nm・252ps仕様で、内装にはアルカンターラ張りでボルト固定式のバケットシートが組み合わされる。今や25台の限定で、車両価格は960万円となった。

ところで今回の試乗会の後、アルピーヌ・ジャポンはさらに70台限定の日本専用モデルとして「ブルーアルピーヌ」計70台の受注開始をアナウンスした。内訳は30台・30台・10台で、「A110」、「A110 GTS」、後に説明する「A110 R 70」(価格は順に999万円・1200万円・1850万円)となる。A110ブルーアルピーヌは、ブラックレザーにブルーステッチのリクライニング&ヒーター付きのスポーツシートを備え、実質的には前期型でいうリネージに近い内容となる点が、アニバーサリーとは異なる。その分、アニバーサリーより+36万9000円高となるが、ブレーキキャリパーも赤仕様となるなど、装備面でのお買い得感はある。

アルピーヌ A110 アニバーサリーアルピーヌ A110 アニバーサリー

試乗車のアニバーサリー、ベース価格960万円は、ブランイリゼの白外装が眩しい1台だった。シート固定のボルト位置が、3穴の真ん中だったため、着座位置と視界がやや高くて落ち着かなかったが、オーナーなら初めに合わせてしまえば問題のないところ。ヴロロロロという野太くキレのいいエキゾーストノートと、GTSに多少は譲るとはいえ非力さは微塵も感じさせないトルク&パワー感が、心地よい。

何より、ステアリングからノーズの動きに反映されるまでの絶妙な矯めと豊かなロール感、自分の骨盤を中心に旋回する感覚は、現行アルピーヌの軽快きわまりないドライバビリティの基本で、申し分のない爽快感だ。それでいて荒れた路面をトレースしても乗り手の身体に突き上げを伝えず、しなやかにいなしてしまう懐の深さをも併せもつ。ファーストカーで乗れるライトウェイトスポーツとして、いまだ右に出るものがない。

◆“トランポが要らないだけ”のレーシングカー

アルピーヌ A110 R 70アルピーヌ A110 R 70

最後に乗ったのはA110 R 70。これまでも、さらなる軽量化モデルとしてカーボンを多用したRは存在してきた。しかしR 70は創業70周年を記念し、世界770台限定で最初期のRが備えていたデュケーヌ社製のカーボンホイールを、ボディ同色のライン入りで再び採用したのだ。これは、すでに完売してしまったがボンネット、ルーフ、リアフードのカーボンパネルを青・白・赤のボディと同色とし、“A70”の記念ロゴをルーフにカーボン目地の透かしであしらった「A110 R 70ブルー(同ブラン、同ルージュ)」に準じる仕上げといえる。ボディパネルはカーボン地のままだが、カーボンホイールのリムがボディと同じマットシルバーで彩られているのだ。車両価格は1790万円となる。

先述のアニバーサリーが「シャシー・アルピーヌ」、GTSが「シャシー・スポール」であるのに対し、A110 Rは「シャシー・ラディカル」だ。低く構えた外観は、ZFレーシング製のアジャスタブル・ダンパーや強化スプリング、スタビライザーによって10mm低い、専用の足まわりによるもの。フロントリップスポイラーにサイドスカート、リアディフューザーとスワンネックステーによるリアウイングまで、高速域でのダウンフォースを確保した空力パッケージも、禍々しい。

アルピーヌ A110 R 70アルピーヌ A110 R 70

内装に目を移せば、シートは他のグレードと同じサベルト製だがカーボンモノコック構造で、薄いパッドを貼っただけのようなバケットシート。ドアを閉め、ステアリングのテレスコピック調整のロックを済ませてから、5点式ハーネスを締め上げないと、前2者に手が届かない。ちなみにオプション装備ながら、アルピーヌではなくアルパイン(電源ONの時にミラー上に表示されるロゴが異なる)の、液晶バックミラーがR 70では選べるようになった。従来のRやRチュリニでは、走行中の後方視界はカーボンのリアフードに塞がれていたのだから、小さくない変化だ。

アルピーヌによれば、レーシングではなくラディカルのRで、あくまでもストリートにこだわったのがA110 R。たが走り始めると即座に、チューニングカーというよりは歴史あるモータースポーツ・ブランドならではのバランスのとれた、しかし過激なセッティングが際立ってくる。

乗り心地は、不思議と角がなく、路面の凹凸や車の見た目の過激さとは裏腹に、優しげな印象さえ抱かせる。初期減衰から滑らかにストロークする高性能ダンパーによくあるタイプのそれだ。低速域ではハーシュネスもなくはないが、逆にひとたび速度域を上げた方が、速くて強い入力をピタリと収めるような質の高い動きに変化する。

アルピーヌ A110 R 70アルピーヌ A110 R 70

4輪のしなやかな接地を感じながらドライバーの腰を中心に旋回していく感覚は、アニバーサリーやGTSと地続き。だがそれは軽快というより切れ味の鋭さで、さらに後車軸が素早く盤石のスタビリティで追従してくるがゆえに、どうしてもアクセルを早く開けては、速度がのってしまう…。

これこそがA110 R 70がドライバーにもたらす正のスパイラルであり、おそらく免許証にとっては危険なスパイラルだ。しかもR専用アクラポヴィッチのチタンエキゾーストが、ヌケよく乾いた、昇りつめるような吹け上がりサウンドを聴かせてくれる。ストリート・リーガルとはいうが、それは単純にローダーやトランポが要らないという意味で、本質的にはサーキット・オリエンテッド・カー。それがA110 R 70の本質といえる。日本市場では展開されなかったが、A110カップカーやGT4ら純競技仕様のようにフロントラジエーターが上抜きになっていないため、アニバーサリーやGTS同様にフロントトランクに荷物を運べる点も、A110 R 70の大きな利点ではある。

アルピーヌ A110 R 70アルピーヌ A110 R 70

◆21世紀のフレンチ・アイコンとなった

かくして最終モデルに至っても、アルピーヌは3種類の異なるシャシーをラインナップとして維持した。全モデルサイクルを通じてこの中に含まれないのは、後期型GTにあったシャシー・アルピーヌ+300ps仕様と、シリーズ中でもっとも尖ったシャシー&パワートレインとして全世界110台でリリースされたA110 R ウルティムのみ。

とりわけ後者はオクタン価102のガソリンで420Nm・350psに達するチューンがメカクロームの手で施され、大容量トルク対応の6速DCTを組み合わせるため、サブフレームまで手が入れらた。加えてテールフィンやカナードなどエアロパッケージも超高速域に対応、内装のすべてもワンオフとなる究極のA110ベルリネットだが、4200万円を軽く上回る車両価格にもかかわらず、日本で5台の受注があったとウワサされている。

BEVの時代になると、エンジンと違って動力源による個性を出しにくくなる分、シャシー制御、あるいは自動運転の出来・不出来が差別化要素になるといわれる。アルピーヌが今後BEV専業ブランドとなっていくことは惜しいようにも思えるが、シャシーに強みをもつブランドとしてロジックでもあるのだ。

アルピーヌ A110 R 70アルピーヌ A110 R 70

ただ、A110のシャシーの良さに着目されるあまり、あまり指摘されてこなかったことだが、ルノーでいうM型ファミリーに属する1.8リッター直4ターボは、日産でいうMR型の系譜。旧ルノー・スポール以来の長年のチューニング・ノウハウに磨かれたパンチ力と粘り強さ、淀みない回転フィールは、他のライトウェイトスポーツと比べても頭ひとつ抜きん出ている。何せA110 R ウルティムのニュル北コースでのラップタイム7分15秒は、ポルシェ『718ケイマンGT4 RS』から5.5秒落ちでしかない。排気量差として2倍以上のギャップがあることを思えば、シャシー・ウルティムもしくはそのベースとなったシャシー・ラディカルの尖り具合が想像できるだろう。

すでにフランスではA290、A390がリリースされ、いずれも5ドアながら動的質感の範となっているのは、A110だ。同じくBEV化がアナウンスされているA110ベルリネットの後継車種はまだ先のようだが、ICEの現行A110は生産終了を待たずして21世紀のフレンチ・アイコンとなった。同じ時代に生きている以上、経験しておくことを強く勧めておく。

アルピーヌ A110 アニバーサリーアルピーヌ A110 アニバーサリー

<A110アニバーサリー>
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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