「限界を押し上げる人」中山雄一がトーヨータイヤで語った、走るという仕事

TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手
TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手全 26 枚

◆トーヨータイヤの本拠地で出会った、ひとりの走る男

TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手

兵庫県・伊丹市にあるTOYO TIRE(トーヨータイヤ)本社。その応接室で出会ったのは、ヘルメットもレーシングスーツもない「中山雄一」という1人の男性だった。物事を論理的に整然と話す彼とは初対面で、もし私が彼について「レーシングドライバーだ」という事前情報を持っていなければ、そこで働く一社員だと思ったかもしれない。

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でも、会話を始めるとすぐに、中山さんが「走る」ということに並々ならぬ情熱を抱いていることが伝わってきた。彼は2025年から、TGRのドライバーとして「TOYO TIRES with Ring Racing」(#160)のハンドルを握っている。単にレースに参戦するというだけではない。

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

トーヨータイヤのフラッグシップブランド「PROXES(プロクセス)」を掲げ、主にニュルブルクリンク耐久レースという試練に臨み、レースタイヤを開発するという重要な役割を担っている。チームドライバーでありながら、タイヤ開発協力者という二軸を持つ。その立ち位置が、この場所に彼がいる理由だった。

TOYO TIRES with Ring RacingTOYO TIRES with Ring Racing

もともと中山さんは幼い頃からカートに親しみ、青春時代もずっとハンドルを握り走り続けてきた、根っからのレーシングドライバーだ。

「僕は2019年から、トヨタ自動車(TOYOTA GAZOO RACING TEAM SARD)の専属ドライバーとしてSUPER GTに参戦していました。SUPER GTは、世界でも唯一と言っていいぐらいのタイヤ開発競争をしながらのレースなんです。今回、トヨタとトーヨータイヤがタッグを組んで、若手育成TGR-Driver's Challenge Programを含むタイヤ開発プロジェクトを行うことになって、僕の“レース×開発”という経験を活かせる機会が開かれました」

◆レースと開発が重なる場所、ニュルブルクリンク

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

闘う場所はドイツ・ニュルブルクリンク。かつては4つの村をつなぐ生活道路であり、昔からの状態で変わらずそこにある、一般のサーキットとは異色の世界が広がる。まさに人とクルマの極限を試す世界一難しいサーキットなのだと、中山さんが教えてくれた。

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

「開発って、レースで優勝を目指すことと同じだと僕は思うんです。250kmくらいのスピードで走って、これ以上ないっていうくらいにタイヤをいじめて、結果を残すっていうことがレースなんですよね。そこで得た感覚やデータが開発につながる。皆で同じ目標に向かってレースで優勝しようとすることが、無駄を削ぎ落としてより良いものだけをつくろうとすることと同義なんです」

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

彼が自身の走り様を生き生きと描写してくれるニュルブルクリンクでの体験を聞いていると、レースと開発が重なり合う現場が見えるような気がしてくる。

◆『最後は、タイヤが助けてくれた』(中山さん)

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

中山さんによると、過酷な現場で「最後はタイヤが助けてくれた」と感じる場面が多々あるそうだ。タイヤをまるで自分の相棒であるかのように表現したことに、彼とタイヤとの絆がにじんでいるように感じた。だから私は「あなたにとってタイヤとは何ですか?」という質問をしたくなった。するとすぐにこんな答えが返ってきた。

「タイヤは路面とクルマ、そして人をつなぐ存在です。唯一地面と接地して、すべての動力やクルマの運動性能を伝える部品なので、その影響力は計り知れません。だから僕は、タイヤってクルマの生命線だと思います。その点、PROXESが持つしなやかさは特徴的で、全開で挑んだとしてもまだ余力を残すことができる。真剣にレースをするあまり、ふと限界値を超えた瞬間、そのしなやかさに助けられたことは何度もあります」

PROXES Slicks(ニュルブルクリンク専用スペック)PROXES Slicks(ニュルブルクリンク専用スペック)

 「しなやかなタイヤ」とは一体。表現に好奇心をそそられた私は、それをもう少し深掘りして説明してほしいと、中山さんにお願いした。「うーん」と唸りながらも一瞬で前を向いた彼は、こう答えた。

「色々ありますが、一例を挙げると、ねじる力が加わっても路面に追従してくれる、自在に形を変えてくれるイメージですね。ハンドルを深く切り込むと、タイヤをねじるんです。反対に、段差や斜めの凸凹、轍などを通して路面側からくるねじりもあります。しなやかさがあれば、そのどちらがあっても、ドライバーに嫌な衝撃が伝わりにくく、快適な乗り心地を保ってくれる。このクルマはとても良いなと思う時、実はタイヤがいいっていう時が結構ありますよ」

レースの現場では、1秒、いや0.1秒を争うがゆえにブレーキを踏むのを遅らせることはよく起こる。ブレーキを早く離し、コーナーへハイスピードで飛び込んでいくことも日常茶飯事だ。その瞬間、タイヤにはかなりの負担がかかる。でもタイヤに余力があるおかげで、曲がったり止まったりが可能になる。改めて、タイヤの占める役割の大きさに気付かされたエピソードだった。

◆怖さを消さないことの大切さ

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

とはいえ、常に限界に挑むことに怖さは感じないのだろうか。怖さは消さない、むしろ怖さを感じられるからこそ速く走れるのだと言い切った中山さんの顔は、まさにレーシングドライバーそのものだった。

「クルマの限界を見極めつつ、コンディションに応じた勇気の持ち方が大切だと思っています。人間だから、いろんな日があって。そういったものを全部受け止めてくれるクルマだったり、タイヤだったりを開発できたらいいですね。これなら大丈夫って、椅子やハンドルから伝わって人間に勇気を与えてくれたらいいな。そして支えてくれる仲間からもらう自信も大きいですね。クルマとチームと一緒に闘うことが成功につながると思います」

◆選ばれなかった時間が、視界を開いた

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だがこうしたチーム論にたどり着くまでに、けっして平坦ではない道のりがあった。レーシングドライバーとしてのキャリアの中で、中山さんは一度「選ばれない側になる」という挫折を経験している。GT300では結果を残せたのだが、GT500にはあがれないと、実質的にシートを失う形となった。そこで、拠点を山口県に移して現地のチームに所属して活動を続けながら、店頭に立ってクルマを販売する日々もあったという。彼は「めちゃくちゃ悔しかった」と当時を振り返る。

それでも、自分の負の感情を全面に出すことよりも、前向きに挑戦し続けることの方を選んだ。ドライバーとしてニュータイヤを試す機会は非常にありがたく、チームメイトとその機会をシェアするそうだが、彼は7割を若手に譲っていた。そのような彼の行動が、のちに関係者の目に留まり、彼はGT500に出場するドライバーとしてのシートを獲得する結果へとつながる。

「自分が思い描いていた道のりとは違う方向性で自分のできることを探すと、思いもよらない形で壁を乗り越えることができて、最終的には目標を達成することができるんですね。これは美談とかではなくて、僕が自分の経験から実際に学んだことです」

◆次世代へのメッセージ、ニュル参戦はGT3マシンで次のフェーズへ

TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手TOYO TIRES with Ring Racing 中山雄一選手

 現在中山さんは、自身が経験してきた挫折や選択を言葉にして、次の世代に手渡す活動も続けている。ゆくゆくは、子どもたちを対象とした運転塾をつくりたいという構想も持っているそうだ。水泳やプログラミングなど、さまざまな塾があるにも関わらず、運転技術だけは18歳以降の運転免許取得までに学ぶ機会がない。子どもたちがもっと早い段階からクルマに触れ、運転の楽しさを知ることは安全にもつながる、と彼は考える。

「僕自身が大好きなクルマで、みんなの笑顔が生まれる瞬間を増やしたいんです」人懐っこい笑顔でそう話す彼の眼差しは輝いていた。

限界は超えるものじゃない。

中山さんと話して知った、新しい感覚だった。レースは個人戦ではなく、いろんな技術と知識を持った人が集まって、限界を押し上げていく営みなのだ。だからこそ、レースドライバーとして速く走ろうとする彼と、その挑戦に応える限界値を押し上げようとするトーヨータイヤとの未来が続く。彼の、来季のニュルへの参戦意気込みは相当なものだ。

ニュルブルクリンク24時間耐久レースニュルブルクリンク24時間耐久レース

現地に移住して、万全の体制を整えて臨もうとしているのだと話してくれた。PROXES開発の実績もまた、GT3参戦を現実的な選択肢として捉えられる段階に入りつつある。来季以降、チーム一丸となってGT3カテゴリに果敢に挑もうとするその最前線で、彼はハンドルを握るのだ。

「壁は越えるほど、高くなる」

見上げた空と青を、中山さんは走りながら確かめようとしている。

《上之園真以》

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