宮園拓真の「120%で挑むという選択」、グランツーリスモ世界一決定戦、日本開催の熱狂

宮園 拓真選手
宮園 拓真選手全 86 枚

プロドライバーになりたい。ハンドルを握り、スーパーマシンを意のままに操り、超高速でサーキットを駆け抜ける。そんな夢を一度は思い描いたことがあるという人は、多いかもしれない。けれどその夢は、リアルの世界ではあまりにも遠く、狭き門だ。一方で、バーチャルの世界には、もう少し違う扉がある。世界中のドライバーが同じ条件で競い合い、速さと判断力が結果を分ける場所だ。

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Gran Turismo World Series 2025 WF - FukuokaGran Turismo World Series 2025 WF - Fukuoka

2回目の日本開催となった「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025 ワールドファイナル福岡」。私はこの会場で、“eモータースポーツ”という言葉だけでは片付けられない、確かな熱と緊張感をひしひしと体感した。

1997年の誕生以来、「グランツーリスモ」は、リアルな挙動と再現性を武器に、多くのクルマ好きを惹きつけてきた。その頂点を決めるワールドシリーズは、単なるゲーム大会ではない。世界中のトッププレイヤーが集い、国の名を背負って闘う“本気のレース”だ。

◆意識を全集中、120%と80%では異なる景色

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2025年シリーズのワールドファイナルは、12月20日と21日に福岡国際会議場で開催された。レースが始まるや否や、想像していた以上に空気が張り詰めていることに、私は少し驚いた。観客の視線は大きなスクリーンに釘付けで、わずかな操作ミスにもため息や歓声が漏れる。その中心にいたのが、宮園拓真(みやぞの たくま)選手だった。

宮園 拓真選手宮園 拓真選手

宮園選手は、2020、2022、2024年のグランツーリスモ・ワールドチャンピオンとして輝かしい戦績をおさめている。バーチャルの世界で頂点に立つ一方、リアルではTOYO TIRE(トーヨータイヤ)の社員ドライバーとして、ドイツ・ニュルブルクリンクで開催されるNLS耐久シリーズを中心に挑み続けている。

NLS耐久シリーズ(NLS7+8)NLS耐久シリーズ(NLS7+8)

彼自身、幼少期にグランツーリスモに出会い、ワールドシリーズ出場を目指して、日々猛練習を重ね、2018年にようやくリアルでモータースポーツ活動を行う夢を叶えたのだという。

取材で彼と向き合うと、言葉を選びながら、でもありのままに自分の状態を語ってくれることにホッとする。福岡での実戦直前、私は以前から気になっていたことを率直にぶつけた。「リアルとバーチャルをやっていて、感覚が混同することはありませんか?」と聞いてみるとこんな答えが返ってきた。

宮園 拓真選手宮園 拓真選手

「ありますよ」と、彼は少し笑って即答したのだ。

「2025年は、それを課題として取り組んできました。バーチャルは120%の感覚から入って、徐々にレベルを落としていく。リアルは、80%くらいからスタートして、少しずつ上げていく。その切り替えが難しくて。実際、リアルの時にレベル120%から入ってしまって、マシンを壊してしまうこともありました」

同じレースでも求められる思考は全く違う。その言葉を聞いたとき、私はネイションズ・カップでの彼の走りを、これまでとは少し違う目で見ようと思った。

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ネイションズ・カップは全3レース行われる。第1レースでは、宮園選手は日本を象徴するマシンとも言えるマツダ787B(出力532PS、車重830kg)を選択した。この組み合わせがアナウンスされた時、会場からは「おーっ!!!」と歓声が上がっていた。第2レースでは、グランツーリスモ専用のフォーミュラマシン(F3000ベースにV10エンジンを換装した90年代のF1マシンを再現したもの)での戦いが行われ、宮園選手は2位でフィニッシュ。安定した走りでポイントを積み重ねていく。

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そして迎えた最終レース。レッドブル X2019コンペティションに乗った総勢12名の選手が、ニュルブルクリンク24時間コース(1周25.378km)に現れた。このサーキットを7周する戦いで、宮園選手がスタートに選んだのはソフトタイヤだった。彼はリアルでもこのサーキットを知り尽くしている。燃料をセーブしながらも、序盤から前へ前へと出る。スクリーン越しでも、その攻めの姿勢ははっきりと伝わってきた。「ああ、これが彼が言っていた120%なんだ」私はそう思いながら、自然と前のめりになっていた。

◆バーチャルとリアルの境界線は、もう意味を持たない

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レース終盤、会場の空気はさらに濃くなる。画面の中のマシンに合わせて、身体がこわばる。周囲から聞こえる、息を呑む音が自分の鼓動と重なる。バーチャルでもこんなに熱くドキドキして観戦できることに、正直驚いた。最終ラップ、宮園選手は2位でゴールラインを通過した。

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優勝との差は、僅か5.831秒。結果だけを見れば2位だが、その走りは確かに観る人の心を掴んでいた。レース後、宮園選手は穏やかな表情でこう語った。

宮園 拓真選手宮園 拓真選手

「バーチャルに必要な取り組み方で臨めたとは思います。でも去年ほどの爆発的な速さも出せず、小さなミスも重なって、優勝には届かない実力だったなと。今は正直、2位という結果を迎えて、晴々した気持ちでいます。優勝は難しいとわかっていたから。でも来年は、ムラをなくして自分の軸をしっかり強くしないといけないですね」

2回目の日本での開催について尋ねると、彼はこう続けた。

「多くの日本のファンの皆さんの前で走ることができたのはとても幸せでした。みなさんの声援はレース中、僕にちゃんと聞こえています。自分を落ち着かせる方法は、あえて集中しない瞬間をつくって周りを見る余裕をつくることなんです」

宮園 拓真選手宮園 拓真選手

リアルでもバーチャルでも。走る場所は違っても、レースに向き合う姿勢は変わらない。そのことを、宮園選手の言葉と走りが物語っていた。

TOKYO AUTO SALON 2026TOKYO AUTO SALON 2026

2026年のグランツーリスモ・ワールドシリーズ初戦はアブダビで開催される。配信を通じて、その戦いを体感することができるはずだ。また、1月10日には、東京オートサロン トーヨータイヤブースにて、宮園選手とゲストドライバーによるグランツーリスモ対戦イベントが行われた。白熱した接戦に、観客も思わず声を上げる場面が多くあった。

バーチャルかリアルか。その境界線を意識する必要は、もうないのかもしれない。福岡で私が感じたあの熱狂は、間違いなく「本物のレース」だった。

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《上之園真以》

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