ボッシュがなぜ「しろくまくん」を買収したのか? “熱とAI”が変える、SDV時代の勝算

ジョンソンコントロールズ・日立から買収したHVAC事業
ジョンソンコントロールズ・日立から買収したHVAC事業全 17 枚

ボッシュグループの年次記者会見が6月17日、本社ビル(横浜市都筑区)で行われた。ティア1としてのボッシュと同グループの今後の展開を示すものとして、自動車業界も傾注すべき内容だった。

注目ポイントは、ボッシュホームコンフォートグループが昨年買収した、ジョンソンコントロールズおよび、同社と日立JVのHVAC事業だ。ボッシュグループは、オートモーティブ事業以外に、ホームエレクトロニクス(家電)、ファクトリーオートメーション(FA)、エネルギーと幅広いポートフォリオを持つ。

◆ADAS市場とM&Aで業績を拡大するボッシュ

左:ボッシュ株式会社取締役副社長 松村宗夫氏。中央:ボッシュ株式会社 代表取締役社長 クリスチャン・メッカ―氏。右:ボッシュホームコンフォートグループ アジア太平洋地域プレジデント ウルリッヒ・リスマン氏

会見でクリスチャン・メッカ―氏(ボッシュ株式会社 代表取締役社長)は、「日本は前年比売上高で+7%の4600億円を達成し、4年連続で最高額更新を続けている。成長要因はADAS、ソフトウェアなどモビリティ事業の成長にある」とした。

一方でグローバルは「2025年はグループ売り上げでは910億ユーロ、前年比+0.7%を確保できた。厳しい中でプラス成長を達成した要因のひとつは、事業ポートフォリオ拡大である」と、HVAC事業の買収について言及した。

これを受けて、ボッシュホームコンフォートグループのアジア太平洋地域プレジデント、ウルリッヒ・リスマン氏は、「ボッシュグループ史上最大規模となるジョンソンコントローズと日立会社からの住宅向けHVAC事業の買収は、ホームコンフォートグループの規模を倍増させ、アジア、米国、EUに対するポートフォリオバランスをとる上で極めて重要な役割を持つ」と述べた。

ボッシュが買収したのは、ジョンソンコントロールズと日立が持つ、家庭用エアコンの関連事業一式(「しろくまくん」ブランド含む)。ボッシュはすでに、欧州ブデラス、北米YORKといった家庭用HVAC事業を持っており、これに日立ブランドおよびその生産工場・技術が加わることになる。

◆なぜ住宅用エアコン事業なのか?

日立からは「しろくまくん」のライセンスも受ける

HVAC事業は、ここ数年世界中で新たな需要が高まっている。温暖化は夏場の欧州でもエアコンを必須家電のひとつに押し上げている。ガス暖房によるセントラルヒーティング、ダクトソリューションによるビル空調は、ロシア・ウクライナ戦争以降、電化が進んでいる。エアコン需要が高まっているのは、アジア諸国も同様だ。やはり温暖化と経済発展がエアコン需要を高めている。日本においては直近のエアコン2027年問題(環境基準強化による小型エアコンの消滅)もある。

なによりヒートポンプ、熱交換技術は、自動車産業においても重要テクノロジーになっている。電動車においてこれらの技術は、キャビンの温度管理だけでなく、航続距離、電費性能、バッテリー保護など走行性能に直結する。

ホームコンフォートグループの担当者に聞いたところ、オートモーティブ事業との具体的な連携はまだないとのことだが、リスマン氏は「今回の買収で期待するのは、日本の工場の生産性、ロジスティクス。日本製造業のプロセス調整力と最適化は、全体市場への供給力にどう生かせるかを考えている」とも述べている。

ボッシュの新しいHVAC事業は始まったばかりなので、現状、具体的な話はまだ公開できないのは当然として、日本工場の生産力への期待と、ロジスティクスの強化というリスマン氏の発言と、ボッシュホームコンフォートグループのアジア太平洋地域の中心拠点が日本であることを考えると、グループでの技術交流・連携の他、日本をグローバルな製造拠点のひとつにする戦略が考えられる。

ボッシュホームコンフォートグループのアジア太平洋地域プレジデント、ウルリッヒ・リスマン氏

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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