【Road to the Star:Lap 2】 富士24時間レースが映し出すそれぞれの役割、己との戦いの先に見えた新しい景色

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倶楽部MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム
倶楽部MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラム全 93 枚

24時間。

その数字を聞いただけで、気が遠くなる。サーキットを、昼も夜も、そして再び朝が来て午後半ばを迎えるまで走り続ける。ドライバーは交代できても、レースは止まらない。クルマも、人も、休むことなく動き続ける。

通算9回目の開催となるスーパー耐久 富士24時間、過去最高の6万4900人の観客が来場した通算9回目の開催となるスーパー耐久 富士24時間、過去最高の6万4900人の観客が来場した

スーパー耐久、第3戦目のチャレンジは、6月5日から7日に開催された富士スピードウェイを舞台とした「第3戦 富士 24時間レース」だった。(5日:予選/6-7日:決勝)

耐久レースは、チームで戦う競技だ。けれど、富士24時間の現場に身を置いて感じたのは、まず何よりも先に「己との闘い」があるということだった。

疲労。焦り。不安。プレッシャー。それに否応なく眠気も襲ってくる。

左から、山田遼/三宅陽大/加藤達彦/Hana Burton 選手左から、山田遼/三宅陽大/加藤達彦/Hana Burton 選手

選手たちはもちろんのこと、監督も、メカニックも、チームスタッフも、それぞれが自分自身と向き合い続けていた。そして、その闘いを乗り越えた先にしか、チームへの貢献は存在しない。

倶楽部MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER(#120)倶楽部MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER(#120)

倶楽部MAZDA SPIRIT RACING チャレンジプログラムで、『倶楽部MAZDA SPIRIT RACING ROADSTER』(#120)を操る6人の選手にとっても、このレースは大きな試練だった。

Chapter 3:6人全員で挑む、大きな舞台を前にして

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富士24時間を目前に控えて行われた座談会では、選手それぞれの口から、チームの変化や現在の心境が語られた。3月に初めて顔を合わせてから約3ヶ月が経ち、その間に2回目の走行テストも終えた6人は、もう最初の6人ではなかった。

テストや第1戦もてぎを経て、それぞれが課題を見つけ、自分に足りないものと真剣に向き合ってきた

山田遼(やまだ・りょう)選手山田遼(やまだ・りょう)選手

「ドライバー間のレベルの差が少なくなってきた」

そう語るのは山田遼(やまだ・りょう)選手だ。ラップタイムだけの話ではない。各テストやレースの度に行われるミーティングでは、1人1人が感じた課題を共有し、仲間からの意見を受け取る。自分だけでは見つけられなかった弱点を知り、それぞれがその課題に自主的に取り組んできたという。

石谷豪志(いしたに・つよし)選手石谷豪志(いしたに・つよし)選手

石谷豪志(いしたに・つよし)選手もまた、「1人の課題はみんなの課題」と話す。初対面だった頃に比べて、チーム全体の課題を明確に指摘し、互いに解決策を提案する関係へと変化してきた。

その変化を支えていたのが、昨年のチャレンジプログラムから継続参戦する加藤達彦(かとう・たつひこ)選手吉田恭将(よしだ・やすまさ)選手の存在だった。

加藤達彦(かとう・たつひこ)選手加藤達彦(かとう・たつひこ)選手

昨年も富士24時間を経験した2人は、このレースが単純に速さだけでは戦えないことを知っている。長いレースウィークの過ごし方、他の参戦車両へ常に気を配ること。そして何よりも、24時間という時間の中でチーム全員が同じ方向を向き続ける難しさもある。

加藤選手は、手探りだったドライバー交代の段取りなどの課題に対してどう対処するかが見えてきて、「もっと楽しくレースができるはず」と笑顔を見せていた。

吉田 恭将選手(左)Hana Burton選手(右)吉田 恭将選手(左)Hana Burton選手(右)

一方の吉田選手は、選手それぞれが、お互いの目標や挑戦を尊重し合う関係になっていることにチームの成長を感じていた。実際、吉田選手はHana Burton(ハナ・バートン)選手と共にサーキットへクルマを持ち込み、自主練習を行ったそうだ。ライバルでもありながら仲間でもある。そんな関係性は3ヶ月前にはまだ存在していなかったものだ。

三宅陽大(みやけ・はると)選手三宅陽大(みやけ・はると)選手

寡黙な三宅陽大(みやけ・はると)選手もまた、自らの走りと向き合い続けていた。仲間たちがチームの変化を語る中でも、その関心は「自分がどう走るべきか」に向いていた。

そして、誰もが口を揃えたのは「自分の役割が見え始めている」ということだった。速さだけでは勝てない24時間の耐久戦。マシンを最後まで守ること。安定して周回を重ねること。仲間へ確実にバトンをつなぐこと。

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富士24時間を前に、6人は「チームとして戦う」ということの意味も、前より一層はっきりと理解し始めていた。そして、各自の役割が本当に試される時が、すぐそこまで迫っていた。

Chapter 4:富士24時間が突きつけた試練、チームの総力が試される

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しかし、その準備はレース開始早々に試されることになる。6月6日 午後15時、予選6位でスタートした本戦だが、確実に順位を上げ、一時はクラス2位を記録するほどの順調な滑り出しだった。

初回の選手交代も終わり、少しホッとしたのも束の間、120号車は他車との接触によりダメージを負った。大きなクラッシュではなかった。しかし、その影響は確実にマシンに残っていた。

足元で衝撃を吸収したことで、幸いマシンの大きな損傷には至らなかった足元で衝撃を吸収したことで、幸いマシンの大きな損傷には至らなかった

本来のパフォーマンスを発揮できない状態のまま、まだゴールまで残り約22時間もの長い時間を戦わなければならない。それは、ドライバーたちにとっても、チームにとっても想定外の事態だった。

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レースは待ってくれない。監督や副監督の指示を仰ぎつつ、マシンの状態を見極めながら走り続けるドライバー。無線を聞きながら、マシンの扱い方を話し合う控えのドライバーたち。状況を分析し続けるエンジニア。ダメージに合わせた修復のプランを練り、いつでもリペアできる状態を整えるメカニック。

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絶対に最後までマシンを持たせるんだ、絶対にチェッカーを受けるんだ」言わずとも溢れる想いが声になり、全員に聞こえていたように思う。だから誰もが、誰に言われるでもなく、自らの持ち場で最善を尽くしていた。

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やがて、ブレーキの交換作業、およびアライメントの取り直しが行われ、マシンは本来に近い状態を取り戻した。予備セットがあったのは、メカニックの徹底した準備のおかげだ。しかし、それまでにかかってしまった時間も、失ったポジションも戻ることはない。

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それでも誰ひとりとして下を向く者はいなかった。レースの後に、廣田賢興(ひろた・けんこう)副監督は「チームの誰ひとりとして、絶対に諦めていなかった」と、この時の状況を振り返った。

富士24時間は、速さだけで勝負が決まる世界ではない。思い通りにいかない状況を受け入れ、その中でベストを尽くし続けること。そしてその「ベスト」は状況によって常に変化する。

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このレースが彼らに突きつけた試練は、まさにそこにあった。その試練は、それぞれが胸に抱えていた不安や葛藤をも容赦無くあぶり出していった。

Chapter 5:己との闘いの先に見えた、新しい景色

三宅選手(中央)の走行後に、駆け寄る山田選手(左)と加藤選手(右)三宅選手(中央)の走行後に、駆け寄る山田選手(左)と加藤選手(右)

めちゃくちゃ大変でした

汗だくでピットへ戻ってきた三宅陽大選手は、めずらしく感情をにじませた。普段、多くを語らない彼の口から出た言葉だからこそ、よりストレートに大変さを感じ取った。それも無理はない。ダメージを負った120号車に、修復を入れないまま最初に乗り込んだのが、彼だったからだ。

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富士24時間を前に行われた座談会で、三宅選手は自身の心境を「葛藤」と表現していた。デビューレースへの期待。24時間という未知の舞台への高揚感。その一方で、チームの一員として確実にバトンをつながなくてはならないという責任感。楽しみと緊張。その狭間で揺れる感情を、彼は「葛藤」という言葉で表現した。

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しかし、レースが始まると、その葛藤に向き合っている余裕すらなくなる。接触のダメージを抱えた120号車は、本来とは異なる挙動を見せていた。思い通りに曲がらない。ブレーキの利きに難がある。それでも壊さず、少しでも速く、そして次のドライバーへとつながなければならない

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ドライバーにできることは限られている。だからこそ、その状況を受け入れた上で最適解を見つけていくしかなかった。

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そのスティントの最中、サーキットには富士24時間名物の花火が打ち上がった。実は座談会の中で、三宅選手は花火を楽しみにしていると話していた。あとでその時間帯のことを尋ねると「綺麗だなと思って見てましたよ」と静かに振り返っていた。

もちろん、花火を楽しんでいる余裕などなかっただろう。それでも、思い通りにならないマシンと向き合い続ける長い夜の中で見えた花火は、ほんのひとときだけ彼の心を軽くしてくれていたのかもしれない。

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やがて修復作業によって、120号車はほぼ本来の走りを取り戻した。翌日の昼間に再びコクピットへ乗り込んだ三宅選手は、自らの走りを楽しんでいるように見えた。レース後、抱えていた葛藤に変化はあったかという質問に彼が返した答えは意外なものだった。

「走っているうちに全部消えました」

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爽やかに言い切ったその言葉に、彼らしさが表れているように思えた。24時間という長い戦いの中で、自分の迷いや不安に向き合う時間はなかったのだろう。目の前の一周に集中する、マシンを守り抜く、バトンを確実に渡す。ただそれだけを考え続けた先で、彼の中にあった葛藤はいつしか消えていた

富士24時間は、三宅選手に答えを与えたわけではない。だが少なくとも、自分が何に集中すべきなのかを教えてくれた。

山田遼(やまだ・りょう)選手山田遼(やまだ・りょう)選手

一方で、同じ24時間を別の角度から見ていたドライバーがいる。山田遼選手だ。120号車がダメージを負った速報を耳にして、真っ先に声を上げたのは彼だった。

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「どんな状態のクルマでもちゃんと操縦して、少しでも速く走らせることが、僕たちドライバーの仕事だから」

本来のパフォーマンスを発揮できないマシンの状況。それでも彼の視線は、失ったものではなく、その状態で何ができるかへ冷静に向けられていた。富士24時間を終えた後、山田選手はこう振り返った。

山田遼(やまだ・りょう)選手山田遼(やまだ・りょう)選手

「各々の役割が明確になったと思います」

その言葉は、レースを通して彼が見ていたものを象徴しているようだった。

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取材中、彼のお母様から幼い頃の話を聞く機会があった。初めてカートに乗った日のことを、今でもよく覚えているという。目を輝かせながら走る息子の姿を見て、この世界が本当に好きなのだと感じたそうだ。もちろん、レースには危険が伴う。我が子の命の心配がないと言えば嘘になる。

それでも「いろんな方の助けを得ながら、夢中になれるものがあることは幸せなことだと思います」と、穏やかに微笑む姿が印象に残った。真夜中のスタンドから一心に息子にエールを送る姿は、きっと山田選手にとっても大きな励みになっただろう。

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レースの後、山田選手はSNSでこう綴っていた。チームの誰ひとり欠けても、120号車の完走は成し得なかった、と。そこには、自分の走りを語る言葉よりも、メカニックやエンジニア、監督たちへの感謝の言葉が並んでいた。

富士24時間を通して見えたもの。それは、自分ひとりでは決して走れないという事実だったのかもしれない。そして山田選手自身もまた、「チームとして戦う」という意味を、誰より深く理解したひとりだった。

Hana Burton(ハナ・バートン)選手Hana Burton(ハナ・バートン)選手

そしてもうひとり、この24時間を通じて大きな変化を感じさせたドライバーがいる。Hana Burton選手だ。第1戦の頃と比べると、その表情は明らかに柔らかくなっていた。笑顔が増えた。チームメイトと談笑する姿も増えた。そして何より、自分の走りに対する迷いが少なくなったような印象を受けた。

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当初、Burton選手は120号車のマニュアル操作に苦戦していた。サーキットへ自ら購入したロードスターを持ち込み、データと向き合いながら、何度も何度も練習を重ねてきた。そんな彼女が今では、「ロードスターはとても運転しやすいクルマ」と笑う。その言葉に至るまで、どれほどの時間と努力が積み重ねられてきたのか

前半で触れた座談会では、「速さとクルマを安全に守ることを、一貫して両立しなければならない」と、彼女は語っていた。速さはもちろん大事だ。でも、守ることだけ考えていても前へは進めない。そのバランスこそが、富士24時間の難しさだった。

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レース終盤。雨が降り始めたコースで、最後のスティントを任されたのはBurton選手だった。路面状況に応じてタイヤを替えることも想定しながら、走り出しはスリックタイヤだった。徐々に強まる雨。濡れていく路面。それでも彼女は走り続けた。190km/hを超えるスピードで。むしろ雨が強まれば強まるほどに、クライマックスに向けてスピードをどんどん上げているように見えた

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そして6月7日午後15時、とうとうチェッカーフラッグを受けた。大勢のチームメイトに見守られながら、みんなの笑顔を全部まとめたような彼女の笑顔は、ヘルメット越しにでも十分伝わってきた。もちろん、それはひとりの力で掴んだ瞬間ではない。だが、チームが最後を託したことにも意味がある。

第1戦では見えなかった自信。24時間を走り抜いたことで得た確かな手応え。チェッカーの先に見えたあのとびっきりの笑顔は、その証だったように思う。

Chapter 6:「個」が輝く瞬間、次なるスタートラインへ

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富士24時間を終えた今、改めて6人を見渡してみる。

山田選手は、自らの役割を見出した。
三宅選手は、葛藤を置いて前へ進んだ。
Burton選手は、自信を手にした。

だが、変化したのは3人だけではない。

加藤 達彦選手(左)三宅 陽大選手(右)加藤 達彦選手(左)三宅 陽大選手(右)

「1人の課題はみんなの課題」と語った石谷選手。
経験者として、ひとりずつ丁寧にアドバイスを送り続けた加藤選手。
仲間たちをつなぎ、チームの空気をつくり続けた吉田選手。

それぞれが異なる立場で、異なる役割を果たしていた。

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24時間という長い時間の中で見えてきたのは、単に速くてスキルのあるドライバーが集まったチームではない。スタッフまで含めて、それぞれが自分に求められていることを理解し、それを真摯に果たそうとする集団だった

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結局、120号車はクラス4位という結果でゴールを果たした。順位は望んだものではなかったかもしれない。でも、24時間という果てしない時間、634周、2,893kmの旅路を皆で終えたのは、紛れもない事実だ。そして、誰もが決して諦めずに己との闘いを乗り越えた先で、自分の役割を見出していた。

3月、初めて顔を合わせた時の彼らは、まだひとつのチームではなかった。そして今も、さらに上を目指して、チームを完成させてはいない。それでも確かに変わったことがある。ひとりひとりの「個」が輝き始めたことだ。「共に挑んだ」彼らの表情が、それを何よりも物語っていた。

次戦のスーパー耐久は7月4日/5日(土日決勝)「第4戦 菅生」が4時間耐久で開催される次戦のスーパー耐久は7月4日/5日(土日決勝)「第4戦 菅生」が4時間耐久で開催される

Road to the Star。富士24時間で得たものを胸に、彼らはまた次のスタートラインへ向かう。道のりは、まだ続いていく。

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《上之園真以》

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