アウディに限らず、ドイツのメーカーはグリルというか、クルマの顔つきに強いこだわりを持つようで、ある意味ではそれが明確に、ブランドのポジションを決めてきたといっても過言ではない。
象徴的なのはBMWのキドニーグリル。メルセデスは、近年はかつての『300SL』風グリルにしているが、それまではロールスロイスよろしく、パルテノン神殿風を採用していた。そんな、ブランドの顔を持たなかったVW、アウディなど他のブランドは、どうしてもメルセデス、BMWのようなハイエンドの領域に入り込めなかった。そこでアウディは、「シングルフレームグリル」をもって、ハイエンドの仲間入りを果たしたというわけである。
◆「枠」がなくてもシングルフレームグリル
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロ
ところが近年、このグリルという概念が希薄になり、代表的な例ではトヨタがハンマーヘッドデザインを採用して、グリルを意識させない穴ぼこだらけの顔つきを作り上げてみたり、プジョーもグリルを意識させず、どこがヘッドライトでどこがグリルなのかわからないデザインを採用し、独自性を打ち出してきた。
グリルというのは本来、「装飾的な意匠のある鉄格子」などを意味するのだそうだが、明確にラジエターが存在し、そこを通る水路を冷やすという目的のためにこのグリルが存在するのだが、BEVが少なからずシェアを持ち始めると、このグリルの存在意義は消えた。特に不必要になったのが、いわゆるフレーム、即ち枠である。
その枠に拘りを見せるシングルフレームグリルを今も採用するアウディなのだが、最新の『Q3』には、そのグリル、即ち枠がない。もちろん彼らはこれを今も、シングルフレームグリルと呼ぶそうで、アメリカ流のストロングフェイスにも似た、大きくて象徴的なグリルが、枠がないにしても厳然と存在する。
果たしてこのフェイス部分、今後トヨタ、プジョーのような枠の存在そのものを消したデザインが主流になるのか、あるいはハイエンド車の特徴として、今後もグリルが残り続けるのか、新しいアウディQ3を見て感じたことである。
◆新しさに満ち溢れたインテリアと操作系
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロ少なくともスタイリングに関して、新しいQ3はアウディの基本的スタイリング言語の元に作られているから、これはどこからどう見てもアウディそのものであって、誰でもそれをアウディと認識できるものだ。しかしインテリアを見ると、エクステリアとは打って変わって、新しさに満ち溢れていた。
例によって横長の巨大なディスプレイがダッシュボードを占有する景色は、いかにもドイツのブランドを感じさせるのだが、違っていたのは「インテグレーテッドスイッチモジュール」という、ステアリングコラムから生えている操作系である。かつてはそこにレバーがあり、それを上下させたり、先端を回したりして操作をしていたが、このインテグレーテッドスイッチモジュールは、幅広のバーのような存在で、レバーという概念のものではない。
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロもっとも操作そのものはレバーと変わらないが、アウディもついにこの部分にトランスミッションを操作するシフトレバーをインテグレートさせた。もちろんウィンカーは左のバーを操作するのだが、そこには巧妙にワイパーの操作系を忍ばせている。昔のサテライトスイッチの進化系のようにも思えるが、使い勝手は悪くない。少なくともディスプレイのタッチパネルを操作するよりは遥かに使い勝手が良かった。
驚くべきは「デジタルマトリクスLEDヘッドライト」と称する灯火系である。以前からLEDを使って、対向車がいても部分的にハイビームを維持したりして、視野を広げてくれていたのだが、今回のQ3には、なんと2万5600個ものLEDが使われている。それを巧みに操ることによって、路面にピクトグラムを投光して、車線逸脱を知らせ安全性を高めるような機能などを持つ(ほかにもある)。とはいえ半分の役割はギミックであるが…。
◆このサイズでも欧州では「Aセグメント」
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロ今回試乗にチョイスしたのは、クーペ風スポーツバックのTFSIモデル。エンジンは2リットルの直4ターボで、電気に頼らないICE(エンジン)のみの潔いモデルである。ドイツメーカーは、数年前に一様に電気に舵を切ったが、このところまた、一様にICEに舵を切っている。ついでにディーゼルも復活させれば尚良しだが、そこには至っていない。
この4気筒エンジン、昔からそうだが実に軽快に回り、スムーズでかつ力強い。正直言えば動力源に関しては文句なしである。組み合わされるトランスミッションも、7速のSトロニックと呼ばれるいわゆるツインクラッチの電子制御マニュアルだが、これも熟成が進んで素晴らしくスムーズで、硬軟両方の走りで満足させてくれる。
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロ乗り心地については、「2バルブ式電子制御ダンピングコントロールサスペンション」と呼ばれる、ダンパー中央付近に上下に二つのバルブを装備して、バウンド側とリバウンド側を巧みにコントロールするダンパーが装備されていた。今回の試乗では荒れた路面にほとんど遭遇しなかったせいか、その良さを顕著に実感することはなかったものの、普通に乗っていてとても快適なものであったことは確かである。
3サイズは全長4530×全幅1860×全高1570mm。初代から順調に生育して、ジェネレーションごとに少しづつ、大型化している。しかも何よりもびっくりしたのは、このサイズで本国ではAセグメントに属するというのである。日本のインフラではこのあたりのサイズが限界に近く、アウディ流のCセグメントやDセグメントだとどこまで大きくなるのか、不安を禁じ得ない。
アウディ Q3スポーツバック TFSI クワトロ■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




