アイシンが先日、自社の豊頃試験場において報道および関係者向けに「“移動の価値“ 体験試乗会」を開催した。これはアイシンが北海道に保有する同試験場にて、2年に一度のペースで開催する試乗会だ。
開発途中もしくは完成したばかりの技術を、まず座学とプレゼンテーション形式で説明、続いて実際にテストコース上での試乗走行を通じて、その方向性や効果をメディアや関係者に体感させる。すでに市販車に搭載された技術もあるが、今後数年間のうちに搭載が検討される先行開発中の技術が少なくない。
会の冒頭で副社長・CTOの山本義久氏は、自動車業界を取り囲む環境が急速に変化している中で、戦略的には幅広い商品群とグローバル生産拠点に支えられた“ものづくり力”を強みに、「稼ぐ力」と将来への「仕込み」を、スピーディかつアジャイルに進めていくと述べた。パワートレインや走行安全機能、車体やLBS(ナビゲ―ションなどのロケーション・ベースド・サービス)、エナジーソリューションといった、アイシンが携わるクルマの内外の多くの領域で、先進的な技術開発を強化するのと並行して、コスト・コンシャスかつスケーラブルに対応できる態勢を整えているというのだ。
アイシン副社長・CTOの山本義久氏
今回の試乗会で近い将来に、具体的に移動の新しい価値や新機能となるであろう新技術は、北米から東南アジア向けそれぞれのハイブリッドから小型車向け電動のパワーユニット、部分的なギガキャスト構造を車体に導入する「TEKIZAIボデー」、パーソナライズ/コンバージョン/快適性といった異なる方向性による車両運動統合制御の提案、現行世代と次世代の各ブレーキシステムによるバイワイヤ制御の最先端と4輪独立制御、さらに「ストレスフリーエントリー」と名づけられたドアの自動開閉や駐車時のアラート機能など、多彩かつ多岐に及んだだけでなく、いずれも完成度がかなり高かった。
車両の動的性能から静的な使い勝手までもがシステム統合制御されることを前提にしつつも、ユーザーの一連の移動シーンを包括的に捉えて、OEM側の商品企画やコスト管理および生産規模などの仕様要求に対して、いかようにでも対応できるというポートフォリオなのだ。
◆人の動きを“先読み”、触れずにドアが開く「ストレスフリーエントリー」
ストレスフリーエントリーシステムまず紹介したいのは、ミニバンタイプの実験車両に組み込まれた「ストレスフリーエントリーシステム」だ。スマートフォン内のデジタルキーでユーザーの位置を把握し、車体側カメラによってその身体の向きを判別することで、乗りたいドアを先読み予測して自動開閉するというもの。
これまで足元のキック・モーションや立ち止まりを操作トリガーとするシステムはあったが、Bピラーやルーフ、バックミラーに一体型で埋め込まれたカメラが肩から腰、手足を含む関節の向きから、クルマが予測判断して動く点で、完全にインテリジェント制御である点が特徴。ユーザーはデジタルキーを携えて接近するだけで、リアハッチゲートか後席か前席が、両手に荷物を提げた状態でも自動的に開く。車内からでも、ドライバーが運転席の上で後方を確認する動作として上体をひねれば、前席ドアが自動でポップアップして開く。
もちろんドアが開く角度はサイドシル内のミリ波レーダー検知で、障害物に当たらないように制御される。加えてこのミリ波レーダーは、デジタルキーをもたずに車両に接近する不審者も検知し、カメラによる姿勢・動作・滞在時間の判定に切り替えることで、音や光による警告など防犯機能への発展にも繋がる。特定の車種の盗難が相次ぐ昨今、きわめて有用な技術と機能だ。もうひとつのメリットはドアハンドルがフラッシュサーフェス化されること。クロームメッキが施されたグラブ&プル式の従来型より、かなりスマートに見える。
◆ギガキャストを“適材適所”に、既存設備も生かす「TEKIZAIボデー」
3台のテスラ『モデルY』でボディの違いを比較。手前がTEKIZAIボデーをフロントセクションに組み込んだ車両続いて「TEKIZAIボデー」だ。これも車体に関連する技術だが、3台のテスラ『モデルY』で比較試乗することができた。1台はノーマルのスチールボディ、2台目はノーマルのアルミボディ、そして3台目がTEKIZAIボデーをフロントセクションに組み込んだアイシン独自の実験車両となっていた。モデルYは生産時期や工場によって、ギガキャストのアルミボディと通常のスチールボディが併存している。
3台目のTEKIZAIボデー実験車両は、スチールボディのフロントセクションだけを、ボディ本体から温めて接着剤を緩めるところから始め、作業員6人がかりで外して油圧で一時的に押し広げ、TEKIZAIボデーことストラット部を含むフロントサブフレームを移植したそうだ。いわば90点以上ものパーツで構成された市販のフロントセクションを、一体型のアルミダイキャストパーツで実験開発用に置き換えたのだ。
ボディごと一体のギガキャストは些細な板金や修理に難儀するのは知られたところで、当然リサイクルにも労力がかかる。そこでTEKIZAIボデーの考え方は、複雑一体成形したギガキャスト構造をモジュール化することで、そのメリットを採り入れようとする。生産や修理については従来の設備やコストに近く、回収リサイクルもギガキャストより容易で、しかも操縦安定性も向上させられるという。
TEKIZAIボデーをフロントセクションに組み込んだテスラ『モデルY』ノーマルのスチールボディ>同アルミボディ>TEKIZAIボデーの順で周回路を100~120km/h程度で走行した。スチールは舗装が平滑ではない路面で、明らかにステアリング保持を意識しながら修正舵を必要とする。次に乗ったアルミボディはずっと剛性感が高く、確かにステアリング操作に対する横方向の動きは鋭いが攻撃的過ぎる、また縦の振動をも忠実に伝え過ぎる傾向があった。
ところがTEKIZAIボデー、つまりスチール+アルミの組み合わせはロードノイズのフィルタリングがもっとも適切で、高い巡航速度を保ちやすい。外乱に対してボディに適度なしなりが感じられ、車線変更時の舵角ゲインの付き方も揺れの収束も、もっとも自然だった。設計でも生産技術の面でもボディ一体成型のギガキャストはハードルが高いが、こうした部分的・モジュール的ギガキャストなら、既存の設備を活用でき、グローバルに早く展開できる点もメリットになる。
◆「止まる」だけではない、4輪を自在に操る次世代ブレーキ「EMB」
次世代ブレーキシステムと普及版回生協調ブレーキAHB-Cブレーキについてはアイシン・グループのアドヴィックスによる最新の成果として、すでにトヨタ『RAV4』やレクサス『ES』に市販搭載されている「AHB-C」こと電動シリンダー式の普及型回生協調ブレーキ、さらに再来年に開発完了を目標としている次世代ブレーキシステム「EMB」を試した。
AHB-Cの“C“はシリンダーのことで、ブレーキ圧を大流量ギアポンプで作り出していた高機能バイワイヤ(AHB-G)に対する普及型バイワイヤという位置づけ。電動シリンダーで低コストかつグローバル生産に対応するHEV・PHEV用のブレーキシステムだ。前走車との距離に応じて、つまりADAS機能のセンシング情報に基づいて、適切な回生が自動的に効き出す。
さらにドライバーがフットブレーキで停止するための制動をかけると、停止直前にカックン気味の前のめりを防ぐために、リアを少しだけつまんで滑らかにフラットに止まる。同じ効果を狙った制動制御はドイツ系のサプライヤにもあるが、そちらは上手いドライバー同様、最後の瞬間に制動を緩める動作を行うため、制動距離が僅かに延びてしまう。そこを延ばさず滑らかに止めることが、アドヴィックスの技術の特徴だ。
アドヴィックスの普及型回生協調ブレーキ「AHB-C」を搭載するトヨタ『RAV4』この、人間が足で操作するだけでは不可能な制動を、さらに踏み込んで4輪の各輪を制御、つまり両統合制御と併せてより高度なコントロールを目論むのが、次世代ブレーキシステム「EMB」だ。現時点では、前車軸側の左右各輪には電動シリンダー油圧、後車軸側はセンターECUから電気信号によって各輪のブレーキディスクに対しモーター駆動でピストンを押す仕組みで、油圧+電動のハイブリッドとなる。その先には当然、前車軸側もモーター駆動でピストンを制御するフル電動システムが控えている。
EMBを搭載した試乗車で、コーナー旋回中にステアリング舵角を増してみたが、前輪もしくは内輪側をやや制動することで自然な旋回フィーリングが持続する。また純粋に電気的に直接ピストンを押し出す以上、加圧の精度が増し、従来型のブレーキシステムより応答性が+35%も増しているそうで、当然、停止距離も短縮できる。電動車になって回生で減速・停止する割合が増えてくると、ブレーキシステムの役割は軽減されると考えられがちだが、野生動物の飛び出しのような予測不可能なイベントに対する緊急時や、自動運転制御下でも素早く短く車両を停めるには、4輪を細やかに制御できる次世代ブレーキシステムへの進化が求められるという。
試乗を通じて、ブレーキペダルに触れて踏み込んでからの、制動力の立ち上がりの素早さは実感できたが、意外だったのはペダルをゆっくり緩める際にも過渡域が滑らかで、意図的に車両が前のめりの姿勢を保ちやすかったこと。前車軸側は対向キャリパーも使用可能なため、高級車向きの制動フィーリングともいえる。
◆「Google翻訳」のAIがサスペンションを変える? 次世代AVSの実力
AIによってストローク速度を推定する「AVS」を搭載するレクサス『ES』次いで試したのは「AVS」(アダプティブ・バリアブル・サスペンション)だ。すでにレクサスESで市販採用されているサスペンションシステムだが、AIによってストローク速度を推定するという制御ロジックそのものに新しさがある。
というのも従来の電子制御サスペンションでは、バネ上・下それぞれの質量や変位、路面やタイヤといった様々な変数から、人間が運動方程式通じて立てた“近似値的な”アプロ―チでダンパー減衰力は決定されていた。そのため真値と推定値の誤差、そして反応速度のズレがあった。だがGoogle翻訳でも用いられるLSTM(ロング・ショート・ターム・メモリー)推定という、過去の情報を記憶しながら時系列で新しいデータ処理を行うことで、学習データと照らし合わせながらAIがストローク速度を決定することで減衰力と反応性、いずれも推定精度が向上できるというのだ。
翻訳アプリのロジックがなぜサスペンションに? というところだが、入力値と変数から出力値を導く点はまったく同じなのだとか。アルゴリズムの設定によって、出力値をコンフォートやスポーツなど、スタンダードと異なる造りにもできるという。
高速周回路を周りながら、欧州やアメリカなど各地域特有の荒れた舗装を模した路面に入ってみた。100km/h前後でうねりや凹凸の上を走ると、AVSが驚くほど車体をフラットに保ち、直進するためのステアリング修正が最小限で、しかもストレスなく行えることに舌を巻いた。大きさの異なるうねりを3回、次々と乗り越えても走行ラインを乱されることなく、レクサスESにふさわしい穏やかな乗り心地が保たれる。ワンソレノイド制御でここまで完成度が高いのであれば、さらにこの先はツーソレノイドでプッシュプル制御であるとか、あるいはさらにセンシング情報がリッチ化されれば、よりインフォトロニックでアクティブな演算処理に発展していくだろう。
◆EVがスーパースポーツやレジェンドカーに化ける!? 車両運動統合制御の新提案
スポーツカーやレトロカーなど、好みの走りを楽しめる車両運動統合制御「コンバージョン」こうした機能が収斂していくのが車両運動統合制御で、「コンバージョン」と「パーソナライズ」という、2種類のまったく異なる技術的アウトプットをおこなった2台に試乗した。
まず「コンバージョン」は、EVのパワートレインや操作系のパラメーターをパッケージ設定として変えることで、ベース車両の諸元設定を、V10エンジンのスポーツカーから直6エンジンのヒストリックカー、あるいはV8のアメリカン・マッスルやロータリーエンジンのスポーツカーなど、乗り手の気分や好みに応じてそれぞれの走り味・乗り味に近づけて、車両運動統合制御で変えてしまうというものだ。
ヨー、ピッチングやロールといった車体姿勢やパワートレイン特性、ステアリングやブレーキなど操作類の手応えやフィールなど、車両側で変えられる部分は多々あるが、今回のRZではeアクスルとブレーキのみ変えている。その一方で、近年ハイエンドなオーディオの世界で定評を得ている旭化成のDAC(デジタル/アナログ・コンバーター)を通じて、それぞれのエンジンのエキゾーストノートをもスピーカーから再生するという。
スポーツカーやレトロカーなど、好みの走りを楽しめる車両運動統合制御「コンバージョン」最初は半信半疑で乗り込んだが、V10エンジンのスーパースポーツを選択してスタートボタンを押し込むと、LFA特有のくぐもったクランキングからV10エンジンの弾けるようなアイドリングが始まった。Dレンジに入れアクセルを踏み込むと、加速に対してリニアに甲高い音が盛り上がる。続いて直6レジェンドカーに切り替えてみた。再現するマニュアルトランスミッションはもちろん、当時のアイシン精機が供給していたものだ。こちらはより野太く乾いた音だが、エキゾーストノートの伸びに対してトルクが細く、加速が穏やか。十分に引っ張ったつもりで4速にパドルでシフトしたが、谷間の落ち込みに驚く。トルクバンドが狭くてギア比がクロースしていない、昔の高速GTを思い出した。
さらにロータリー・スポーツに切り替えてみた。今度は低く滑らかなエンジン音に変わり、ブレーキ内輪をつまんでいるのだろう、ステアリングを切ると同じFRだというのに先ほどよりも、まるで重心が低くノーズが軽くなったように感じられた。オーバル周回路で試乗したのみで、多分にエンジン音の切り替わりによるプラシーボ効果もありそうだが、車両運動統合制御と音を通じて、ここまで人間の感覚が騙されることに驚いた。
ダッシュボードがスクリーン化している最近の市販車で、OTAで異なるパッケージを商品化できたら、ゲーム感覚で楽しめるだろう。開発陣もそこは強く意識していて、車両運動統合制御で作り出した挙動を確かめられるシミュレーターを、ディーラー店舗に置くことも考えられるという。若い世代へのアピールにもなりそうだ。
◆走り方をクルマが学習、ドライバーに寄り添う「パーソナライズ」
車両運動統合制御「パーソナライズ」は走行シーンなどに応じて車両側が走りの特性を変えてくれるもうひとつの「パーソナライズ」の車両運動統合制御はワインディング路で試乗した。発想は大胆で、従来の車ではドライバー側が車の特性に合わせて運転していたのに対し、この技術では車両センサデータを通じてドライバーの運転特性や傾向を判断、人・走行シーン・車両を繋ぐような動的特性を実現する。つまりクルマが人に合わせ、その日の気分やドライブするシーンに応じて、ドライブトレーン、ブレーキやサスペンション、ステアリングのみならず後輪操舵システムまで「提案していくカタチ」で変わるという。
その効果はてきめんだった。ワインディングを模した周回路を最初の1周、完熟走行して、まず運転傾向を判断。ステーブル1・2/ニュートラル/アグレッシブ1・2とある5段階のうち「アグレッシブ1」と判断され、2周目に切り替わった諸元セッティングで走行してみた。すると明らかにフロント剛性が高まって回頭性が増し、加速時のスクワットが減った。ドライバーの操作に対し、車体の無駄な動きが減じられたため、結果的に修正舵が少なく運転しやすくなったと感じられたのだ。
3周目は異なるロジックの提案によって変更されたセッティングを試した。先ほどと脚の引き締まり方、舵の効き方やフロントの剛性感は似ているのだが、コーナー旋回中の姿勢が微妙に心もとない。アクセルを早めに開けても回れてしまう感覚で、操作しにくくはない。どう制御が変わっているのか訊ねるとリアステア、つまり後輪操舵を積極的に使って姿勢を安定させる方向だったという。なるほど、長距離や雨のような不確実性の高い条件下で有効な提案だろう。
だがドライバーに寄り添うパーソナライズ車両制御とは、運転好きや車好き、ドライバーズカー専用の装備ではない。自動運転下でドライバー以外の制御に運転を任せきりにする際は、クルマの挙動に修正やエラーが少ないほど、ECUでもクラウド上でも演算やデータ処理の負担が少なく、修正のための通信やコマンドの遅れ自体を気にせずに済む。いわば“非人称的”な統合制御にも繋がっているのだ。
◆軽EVがまるでホットハッチに!? 小型・軽量「9in1」の効果
9in1の最新機能統合電動ユニットを搭載した試作車両(手前)と市販モデルの日産『サクラ』(奥)もうひとつワインディング路で試したのは、最新の機能統合電動ユニット、いわゆるXin1の電動パワートレイン。市販の軽EV、日産『サクラ』で市販と開発ユニットを載せた試作車両それぞれを比較試乗した。
ここ最近、軽EVは各OEMから参入が相次いでいるが、サクラのドライバビリティは指標といえるものだ。ところがほぼ立方体に近い形状で、スペースは従来量産品マイナス60%、質量はマイナス40%で部品点数自体もマイナス30%というコンパクトなパワートレインであり、さらに低い搭載位置で締結剛性でも有利な、新しい9in1ユニット搭載車の動的質感のレベルの高さは、まったく別物だ。乗り心地からステアリング剛性、トラクションの質まで、ノーマル比で1.5段ほど上質で、まるでホットハッチのように元気に、鮮やかに走る。
モジュールを最適化配置してスペース効率とエネルギー効率を改良しただけでなく、アクセル操作などに対してギアの噛み込み予測してトルク変動をも滑らかにしているという。減速機、モーター、インバーター、DCDCコンバーター、車載充電器、ACインバーター、統合ECU、電力分配器、熱マネジメントデバイス、これら9点がひとつの総合電源モジュールにまとめられている。もちろんOEM側の要請によってモジュールを間引くこともできるが、9点フルパッケージの方が小型化の恩恵に俗することはいうまでもない。
9in1の最新機能統合電動ユニットを搭載した試作車両◆三菱とジープに見る、アイシン「地域最適」ハイブリッドの現在地
最後に、アイシンの最新の市販パワートレイン搭載車だが、日本市場にはまだ輸入されていない2台にも試乗した。まずマレーシアで現地生産され、東南アジア市場で好評を得ている三菱『エクスフォース』。こちらは1.6リットルエンジンにアイシンと三菱自動車の共同開発によるシリーズパラレル式ハイブリッドトランスミッションが組み合わされている。基本的にエンジンは発電機で、高低2速のギア段をドグクラッチで切り替え、前車軸を駆動するFFだ。
ドグクラッチ機構はもうひとつ、走行モーターの引きずり抵抗を切り離すためにも使われている。もちろん燃費を向上させるためのもので、約70~100km/hの速度域で定速巡行に入ると、エンジンから駆動輪へのメカ伝達モードに入りさえする。それでいて低中速域のマナーも滑らかで力強く、まさしく求められる走りに応じて、効率だけを巧みにとり出すようなパワートレインだ。
大容量FF2モーターハイブリッドトランスミッションもう一台は、昨秋に北米市場向けに発表された新しいジープ『チェロキー』だ。第6世代となる最新のチェロキーはじつに興味深い成り立ちで、ステランティス内でジープ起源のSTLAラージ・トランスバース、つまりエンジン横置きプラットフォームを採用。そこに懐かしのBMWと旧PSAが共同開発したプリンスこと1.6リットルターボエンジン、そしてアイシンがデンソーとのジョイントベンチャーであるBluE Nexusを通じて供給する初の北米市場向け電動ユニット、大容量FF2モーターハイブリッドトランスミッションが組み合わされている。
6速あるいは8速ATをプジョーやシトロエンに供給していたアイシンからすれば馴染みのパワーユニットだが、THS IIに限りなく近いモジュールを組み合わせ、チェロキーのエンジンルームに収めるのは簡単ではなかったそうだ。しかも北米ならではの仕様要件として3500ポンド(1590kg)の牽引性能、それでいて燃費重視のための引きずりロス低減、サイズの横方向スリム化までもが求められた。駆動と発電の両モーターをコンパクト化し、オイルポンプやオイルクーラーなど冷却用オイルラインを内蔵化することで、幅長の短縮と駆動力の向上を両立させたという。
北米生産とアメリカ市場への対応は今、難しい条件が多々あるが、ジープならではの大らかなシャシーに、吹け上がりの早い回転フィールの欧州起源のエンジン、そして日本ならではのキメ細かな制御で一拍おいてトルクが盛り上がって来る感覚は、得もいわれぬ滋味深さだった。しかも1回給油あたり800kmの走行距離燃費を実現しているという。今も昔もアメリカは人種のるつぼと言われるが、アイシンは自動車のカルチャーを丁寧に積み上げている、そう思える体験だった。
アイシンの最新ハイブリッドトランスミッションを搭載する三菱『エクスフォース』(手前)とジープ『チェロキー』(奥)アイシン 2028年中期経営計画 ページはこちら



