岡山県倉敷市内でクルマを盗んだ容疑で逮捕・起訴されたものの、記憶喪失を理由に自分の名前などを「わからへん」で押し通した男に対する判決公判が29日、倉敷簡裁であり、裁判官は男に対して懲役8カ月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した。記憶喪失であることは認めつつ、クルマを盗んだ刑事責任は回避できないという判断によるものだが、全国でもあまり例がないという。
判決文などによると、問題の事件は昨年2月に起きた。岡山県倉敷市内のコンビニ駐車場から、キーを付けたままの状態で置かれていたクルマ(70万円相当)を盗んだとして中年の男が逮捕されている。しかし、この男は警察の取り調べに対して本名や年齢を「わからへん」で押し通し、さらには「とにかく記憶が何もあらへん」と繰り返した。本名がわからないため、裁判も氏名不詳のまま受けており、起訴状には留置されていた岡山県警・笠岡警察署の留置番号「6号」を由来とする「通称:ロクさん」を記載することになった。
男は記憶喪失を主張し、弁護側も「心神喪失状態であり、刑法第39条が適用されるケースと考えられ、刑事責任能力はない」として無罪を要求。対する検察側は「記憶喪失は詐病に過ぎず、刑事責任能力はある」と主張し、意見が対立したままの状態となっていた。
29日の判決で倉敷簡易裁判所の武内和夫裁判官は「名前など全生活史の記憶を喪失していることはたしかで、収監中の生活などから病気を偽っていたとは認められない。犯行時も解離性障害による心身こう弱状態にあった」と、被告に記憶障害があることを認めつつ、「被告の主張は終始一貫しており、記憶を失って以後の行動には責任能力があると言わざるをえない」と判断。検察側の懲役1年の求刑に対し、懲役8カ月(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した。