FeliCa決済採用に見る「道路公団民営化」

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FeliCa決済採用に見る「道路公団民営化」
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1日、西日本高速道路および西日本高速道路サービス・ホールディングスが、九州エリアのサービスエリア(SA)とパーキングエリア(PA)の53カ所で少額決済システムの導入実験を開始した。

今回、採用されたのは、ビットワレットの電子マネー「Edy」、クレジット決済サービスとしては、三井住友カード=NTTドコモのクレジット決済サービス「iD」、JCBの「QUICPay」、UFJニコスの「スマートプラス」である。これらは互換性はなく、各SA・PAが1方式のみを選択して導入実験を行っている。

これまでのITS計画では、ロードサイドのキャッシュレス決済市場はETCを進化させたDSRCの活用が考えられてきた。

しかし、民間に目を向ければ、FeliCa決済が急成長を遂げており、デファクトスタンダード(事実上の標準)になっている。コンビニエンスストアやファミリーレストラン、コインパーキングなど、民間ロードサイドビジネスにはFeliCa決済が着実に浸透してきている。西日本高速道路および西日本高速道路サービス・ホールディングスが前向きにFeliCa決済導入に臨んだことは賢明な選択だと言えるだろう。

今回、西日本高速道路サービス・ホールディングス 代表取締役常務執行役員の鷲崎勝氏にインタビュー。FeliCa決済導入実験の狙いと、民営化後の高速道路ビジネスにおけるSA・PAの位置づけと将来戦略について聞いた。


1
 “アイランド”の導入で、FeliCa決済の効果を検証

FeliCa決済は公共交通を軸とした“都市型のサービス”としては数々の成功事例がある。しかし、ロードサイド市場は開拓の途上である。そのような中で、西日本高速道路がFeliCa決済に注目した理由は、日本道路公団時代に「成功事例」をひとつ手にしていたからだという。

「あまり知られていないのですが、04年に沖縄のSAで電子マネー『Edy』を導入していたのですよ。これはテナント側の要望があって始めたことで、我々も最初は気づかなかったのですが、(電子マネー導入により)売り上げが10%近く向上していた。ここでFeliCa決済の『効力』に気づいたのです」(鷲崎氏)

電子マネーなどFeliCa決済を導入すると、顧客単価が10−20%ほど向上する。これは筆者が取材した導入事業者の多くで共通する数字であり、それが公団時代の沖縄で、ロードサイドでも実証されたのだ。

「FeliCa決済導入による売り上げ向上効果があるので、我々としては早くいれたい。しかし、全国一斉というのは難しいので、西日本(高速道路)、中日本(高速道路)、東日本(高速道路)の3社で話し合った結果、『大きなアイランドである九州で実験しよう』となりました」(鷲崎氏)

ここでひとつの問題が生じた。それがFeliCa決済の方式が乱立・競合状態であり、相互互換性がないことだ。

現在、代表的なFeliCa決済方式は、電子マネーがビットワレットの「Edy」、JRグループの「Suica電子マネー」(JR東日本)/「ICOCA電子マネー」(JR西日本)、スルッと関西の「PiTaPa」、クレジット決済サービスは三井住友カード=ドコモの「iD」、JCBの「QUICPay」、UFJニコスの「スマートプラス」などがある。

これらのうち、iDとSuicaは加盟店のリーダーライター(読み取り機)の共用化が正式表明されているが、それ以外は今のところ相互互換性がない。また、Edy、Suica電子マネー、iD、QUICPay、スマートプラスの5方式は勢力が拮抗している。

「当初は(Edyの)ビットワレットが積極的だったのですが、その後、三井住友カードやJCB、UFJニコスも実験に協力していただけるという話になりました。それにより今回の4方式による導入実験になりました」(鷲崎氏)

JR東日本のSuica電子マネーは東京圏のみのFeliCa決済であるため、西日本高速道路が実験する4方式は「全国展開できるFeliCa決済の主要サービス」でもある。九州エリアのSA・PAにそれらが揃い、ロードサイド市場で展開することは意義深い。


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 九州は全国展開を睨んだ実験

今回の九州エリアにおける実験は、FeliCa決済導入の効果測定を行うとともに、もうひとつの狙いがあるという。それがFeliCa決済業界の帰趨が決するのを見守る、という点だ。先述の通り、現在FeliCa決済は全国規模でも4方式が乱立し、つばぜり合いをしている。そして、どのFeliCa決済事業者も「'06年が(加盟店獲得と勢力拡大の)正念場」(クレジットカード会社幹部)という見方で一致している。

「(FeliCa決済システムを導入する)我々としては、この1年間でFeliCa決済市場の趨勢を見守り、加盟店に設置するリーダーライターの共用化に向けて業界が収れんするのを待ちたい。これはテナント側の投資負担軽減にも重要なことです。また我々も、PRの方法やお客様に利用促進を図る手法を学びたい。これら(1年間の実験)は将来的な『全国展開』を睨んだものです」(鷲崎氏)

導入実験というと、今回、参加したFeliCa決済4方式から「どこかを選ぶ」ような印象を受けるが、西日本高速道路としてはそれは避けたいという。

「SA・PAから見れば、お客様すべてが利用できる体制が好ましい。複数のFeliCa決済が共通で使えるシステムが必要であり、(実験期間中を通して)その早期実現に期待しています」(鷲崎氏)

JR東日本のSuica電子マネーは、「駅を使う人はSuica乗車券・定期券の利用率が高い」ところに立脚し、"Suica電子マネーだけ"でも高い利用率と顧客満足度を実現している。しかし、クルマは様々なドライバーが存在する。ひとつの決済方式だけに収れんするのは難しいだろう。西日本高速道路が強く「FeliCa決済方式の相互互換性とリーダーライターの共用化」を求めるのは当然であり、これはロードサイド市場全体に広がる上での条件でもある。


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 ドライバーの利便性向上に貢献

FeliCa決済が売り上げ向上に貢献するのは、もはや周知の事実になっている。これはSA・PAの収益を重視する今後の高速道路会社にとって大きな導入メリットであるが、一方で、ドライバーのメリットはどこにあるのだろうか。

「お客様にとっても普及すれば大きなメリットがあります。最も大きいメリットは、混雑緩和です。SAなどは観光シーズンになるとレジが非常に混雑しますが、FeliCa決済はスピーディーなのが特徴ですから、(お客様の)利用率があがれば混雑緩和に貢献します」(鷲崎氏)

FeliCa決済は1−3秒程度で終了し、釣り銭も発生しない。そのため混雑緩和への貢献は大きい。例えばJR東日本の駅のコンビニエンスストア「NEW DAYS」では、Suica電子マネーの利用率が平均20%程度、時間帯によっては30%以上になり、レジの混雑緩和に効果が出ている。

「とにかく今は普及と利用率向上が重要です。我々も積極的にPRをしていきますが、ドライバーの皆様にもぜひ試してもらいたいですね」(鷲崎氏)


4
 民営化後、SA・PAの位置づけが変わった

西日本高速道路はFeliCa決済の導入実験を、SA・PAの高付加価値のひとつとして位置づけている。FeliCa決済は民間主導で進む分野であり、かなり先進的な取り組みと言えるが、これが実現した背景にはやはり「道路公団民営化」の影響があるという。

「(道路公団時代の)今まではSA・PAは『高速道路の中の空間』、『道路に付帯する休憩施設』だった。それが民営化後は、道路の中の空間という考え方じゃダメだということになった。商業転地、すなわち(SA・PAの)『商業施設化』が重要になったのです

SA・PAを商業施設として考えるならば、それにふさわしい店舗や設備が必要になってくる。これまでは『休憩施設として最低限のサービス・設備でいいんだ』という発想が我々の中にあったと思うんです。しかし、これからは商業施設としてお客様に来ていただくという考え方が必要です」(鷲崎氏)

このマインドの変化は、国鉄民営化後のJRを思い出すとわかりやすい。旧国鉄では「駅」はあくまで電車に乗るための施設に過ぎなかった。しかし民営化後、JR東日本など各社は、「駅ナカ」や「駅ウエ(駅ビル)」を鉄道の輸送力を集客力に繋げる商業施設に転化した。JR東日本が「Suica」や「モバイルSuica」に熱心な理由のひとつには、改札機や券売機スペースなど駅機能設備を縮小し、その空間を店舗スペースにするという狙いがある。

交通の付帯施設であるという点では、SA・PAも駅に似た部分がある。各高速道路会社が商業施設化に注力するのは、自然な流れだろう。

「SA・PAの商業転地を進めていくというのは、高速道路会社のビジネスモデルにおいてとても大切なことなのです。高速道路の建設管理は『利益を生むような事業ではない』と法律上、位置づけられています。その中で民営化後の高速道路会社各社が取れるビジネスモデルとしては、道路関連事業であるSA・PAの収益力を高めていくしかない。我々にとってSA・PAの商業施設化は最優先の課題です。また、ここは公団時代に潜在力が生かし切れてなかった領域でもあるのです」(鷲崎氏)

この取り組みの中で重要なのは、「多機能・複合型の商業施設化をはかり、リピーターを増やすこと」(鷲崎氏)だという。今回、FeliCa決済システムが実験的に導入された背景にも、FeliCa決済が持つCRMや異業種連携のしやすさという部分がある。

「公団時代のSA・PAは(ビジネス的に)『閉鎖空間』でした。これを解放していく、多くの企業と連携する『開かれた空間』にしていきたい」(鷲崎氏)


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 SA・PAの2010年ビジョン

道路公団民営化を契機に、大きく変わろうとしている高速道路のSA・PA。その将来はどのようになるのだろうか。

「SA・PAの将来を例えば2010年頃で考えますと、我々の中長期計画では『集客力の高い商業施設としての完成している』となります。SA・PA関連事業の売り上げは現在の3倍が目標です。これらを実現するため、ユーザーニーズをしっかりと見据えながら、サービスや設備の改善を行っていきます」(鷲崎氏)

高速道路に隣接する休憩所から、魅力的な商業施設へ。各高速道路会社はその実現のために、FeliCaのような最新の技術・サービスもためらうことなく採用し始めた。明らかに“スピード感”が変わり始めたといえるだろう。高速道路関連を筆頭に、ロードサイドビジネスの高機能化や先進技術への取り組みは、今後、目の離せない分野になりそうだ。

《神尾寿》

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