【AutoStanding】SSC=業務分離・代行で事業を拡大する

自動車 ビジネス 企業動向

日産の「ビジネスセンター」が利用販社拡大へ

自動車メーカー各社が国内販売網の再編を進める中で、日産自動車の販売スキームを見直す動きが目を引く。

一つは、系列52販社、約1300拠点の総資産約4000億円を分離・分社化し、資産管理会社「日産ネットワークホールディングス」に統合する動きである。二つは、今回取り上げる販社の機能を代行するシェアード・サービスセンター(以下SSC)「ビジネスセンター」拡大の動きである。

以前弊社長谷川はコラムの中で、前者に関して資産管理業務と販売・サービス業務を分離・分社化することで販社の営業力を強化する狙いがあると指摘しているが、後者の狙いもそこにあると考える。

※弊社長谷川のコラムは以下を参照頂きたい。
http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/hase/hase0090.html

一般に企業における経営活動(業務)を4つに大別すると…
(1)資金調達。銀行交渉、株主対策など
(2)事業資産の取得・管理。不動産・動産取得、在庫仕入など
(3)資産を活用した対顧客活動。マーケティング、販売、サービスなど
(4)諸活動の記録。経理登録、売掛・買掛管理など
…に分けられるであろう。

日産は、自社系列国内販社が元々行ってきたこれら4つの経営諸活動のうち、(1)と(2)の業務を資産管理会社に移管、(4)の業務を今回取り上げるSSCに移管させることにより、販社の限られた経営資源を(3)の対顧客活動に集中させることを企図している。また、これにより販社の役割や責任を明確にし営業力を高めようとしていると考えられる。

ただ資産管理会社とSSCへの業務移管が可能な販社の対象範囲には違いがある。資産管理会社への業務移管の対象となる販社は日産と資本関係のある52販社であるのに対し、SSCへの業務移管の対象となる可能性があるのは、日産車を取り扱う全ての販社の143販社である。

メーカーにとってみればSSCの効果を最大化するためには、より多くの業務移管事業者を確保することにより「規模の経済」を働かせることが肝要である。よって、地場系販社へのSSC導入は大切である。

一方、販社にとっても「ビジネスセンター」に自動車登録や受発注など販売事務に関する業務や、会計や債権・債務管理など経理に関する業務をアウトソースすることでマーケティング、販売、サービスといった業務に特化できるという意味でSSC導入は検討の価値があるように思える。

以降では地場系販社へのSSC導入に伴う課題や今後の方向性について考えていきたい。

◆地場系販社へのSSC導入の課題

地場系販社へのSSC導入を考えた場合、以下のような課題があるだろう。
●資本関係がないことによる経済合理性の説明責任
●小規模事業者向けであるが故の収益性確保
●地理的要因による効果的なコミュニケーションの維持

●資本関係がないことによる経済合理性の説明責任

実質連結決算範囲内でありメーカー本体と一体経営がなされているメーカー資本販社と異なり、地場系販社に対するSSC導入は個別の導入契約における経済合理性が重要になる。SSC導入の必要性やSSCへの業務委託料を上回る効果をより一層訴求していくことがポイントになるであろう。

●小規模事業者向けであるが故の収益性確保

地場系販社には小規模事業者が多いと言われている。小規模事業者はSSC対象業務を極少ない人員で対応していると考えられることからそもそものSSC導入効果が低いことや、支払可能な業務委託料金額が低いと想定され、結果的SSCとして、若しくは地場系販社としての収益性確保が難しくなる可能性がある。

●地理的要因による効果的なコミュニケーションの維持

一部のオープンポイントを除きメーカー各社の販売エリアは全国に広がり、販社も全国に拡散している。特に地場系販社は所謂5大都市以外のエリアに多いと想像される。しかしSSCをメーカーが全国に展開することは費用対効果の面から考え難い。日産の例でも東京、名古屋、大阪、福岡の4拠点である。全国に拡散している販社とどのようにコミュニケーションを取るかは大きなポイントになるだろう。

◆今後の方向性

これまでSSCを導入してきたメーカー系販社と地場系販社は性質が異なるため、地場系販社へのSSC導入にあたっては、SSCの業務委託料と導入効果の見合い、業務委託料の設定、全国に拡散する販社にどう対応するかがポイントになると述べてきた。

これらを踏まえたうえで、今後のSSCの導入を検討する事業者には以下のような方向性の内容を検討してはどうかと筆者は考える。
●サービスを絞り込む
●サービス対価の受領方法を工夫する
●地域コミュニティや業界団体を活用する

●サービスを絞り込む

販社業務の量や特性を分析し、販社側での業務変更等による追加コストを最低限に抑え、導入効果が見込める業務のみを対象としたサービスを行う。販社の業務内容や処理方法により、導入効果が見込める業務も異なるであろうから、いくつかのプレパッケージ的なパターンを設定する。

SSC対象の業務を絞り込むことで販社から見れば一定の効果を発揮しながら業務委託料を低減させることが可能となるであろうし、SSC側としてもパターンを設定することでサービス開発の費用を下げることでき、結果的には業務委託料の低減や自社の収益性向上に繋げることが可能となるであろう。

●サービス対価の受領方法を工夫する

SSCが提供する業務に対する対価を、業務委託料だけでなく別の形で求めることも考えられる。

例えばSSCをメーカー単体で設立するのではなく、各販社が一定比率を出資する形で新規設立する。これにより、仮にメーカーが設立するSSCに利益が蓄積され販社は逆にコストダウン余地が少ないといった事態や、その反対に販社のコストは削減されたものの、SSCは大きな赤字を蒙るといった事態を、両者がWIN/WINを自然と模索する形に整える。つまり、SSC事業の結果として得た利益が各販社へ配当の形で還元される形である。

短期的には販社の負担は増えるかもしれないが、長期的には販社がSSCの経営に参画することで、サービス品質が高まることやコスト意識が高まり業務委託料の低減に繋がることも考えられる。

●地域コミュニティや業界団体を活用する

少ないSSC拠点で全国に拡散している販社に対応することは一部ITツールを利用することで可能かもしれないが、自ずと限界があるであろう。また、販社側でもITツールの導入など追加投資も発生するだろう。

こうした事態を回避するひとつの可能性として、むしろ全国に拠点を持つ行政や業界団体と共同でSSCを設立・運営することはできないだろうか。行政や業界団体が専門性を必要とするSSCのサービスに直接携わることは難しいかもしれないが、場の提供やネットワークを通じた顧客開拓など活躍できることはあるだろう。

以前に筆者は販社を強化、活性化できるのは自動車メーカーだけではなく地域コミュニティや業界団体にも可能性があることを述べたが、SSCの設立・運営に関わることは具体的取り組みの一つではないだろうか。

《》

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