5月31日、セブン&アイ・ホールディングスは、同社独自のプリペイド(前払い)式電子マネー『nanaco』の発行件数が200万件を超えたと発表した。4月23日のサービス開始から、わずか29日目で100万件を突破。その後、10日間でさらに100万件を突破する“快挙”である。
nanacoは、ソニーの非接触IC「FeliCa」を用いた電子マネーサービスで、当初は東京都のセブン-イレブン約1500店舗(町田市を除く)からスタートした。5月14日には対象店舗数はセブン-イレブン約4760店舗(関東・東北・新潟)まで広がり、現在は約1万1730店舗のセブン-イレブン全店で利用できる。
しかし、裏を返すと現状のnanacoは、“セブン-イレブンだけ”でしか使えない。セブン&アイ・ホールディングスは今秋を目処にグループのイトーヨーカドーとデニーズ店舗での利用開始を行う方針だが、グループ外店舗への展開は2008年度になる。
このように利用可能店舗が限られる状況ながら1カ月余りで200万件の発行件数を実現した背景には、nanacoが流通系電子マネーとして店舗と連携した様々なキャンペーンが実施できることがある。
実際、nanaco開始時には、200ポイントの入会特典と、500ミリリットル飲料の購入で20ポイント付与のキャンペーンが行われた(通常は100円1ポイント)。また、流通系電子マネーは、「発行・入金をする場所」と、実際に「利用できる店舗」が同じという地の利もある。これらの要素が、nanacoの出足のよさに結びついた。
◆FeliCa決済市場そのものが急拡大
急速に利用者を伸ばしているのは、後発組の流通系電子マネーだけではない。この草分けである交通系やクレジット、独立系の各FeliCa決済も順調に利用者数を増やしている。
例えば、JR東日本の『Suica』は、カードとおサイフケータイを合わせたSuica全体の発行数は2042万を突破。おサイフケータイ向けのモバイルSuicaの会員数は、5月24日に50万人を突破した。
この背景の背景には、今年3月から始まった首都圏の私鉄・バスで利用できる『PASMO』との相互利用開始がある。周知のとおり、PASMOはサービス開始後、需要が当初の予想をはるかに超えて「カードの在庫が足りない」という状況で新規申し込みを制限するほど好調だ。PASMOと連携するSuicaもまた、需要拡大の追い風を受けている。
一方、Suicaと同じFeliCa決済の草分けであるビットワレットの『Edy』は、5月28日に累計発行数が3000万を超えたと発表した。おサイフケータイ向けの発行数は6月中に600万を超える見込みであり、堅調な成長を続けている。Edyは、今年に入ってからネット決済市場への進出を進めており、5月23日にはeコマースサイトの大手「Amazon.co.jp」がEdy決済に対応した。
FeliCaクレジットの分野では、ドコモと三井住友カードが推す『iD』と、JCBとトヨタファイナンスの推す『QUICPay』が成長を牽引している。
5月28日には、ファミリーマートとNTTドコモが資本・業務提携をすると発表。ドコモがファミリーマートの発行済み株式の約3%に当たる293万500株を約90億円で取得し、今後ファミリーマート全店でドコモの推すFeliCaクレジットiDと、同じくドコモの電子クーポンサービス『トルカ』が利用できるようになる。また、ファミリーマートのクレジットカード機能付きポイントカード『ファミマカード』も、iD対応した『ファミマiD』(仮称)になる予定だ。
QUICPayは今年夏の時点で、nanacoと共用化される形でセブン-イレブン全店で利用可能になる。セブン&アイ・ホールディングスでは、今年秋のタイミングでnanaco、QUICPay以外のFeliCa決済にも対応するが、セブン-イレブンへの展開では他のFeliCa決済より若干ではあるが先行する形だ。さらに現在はトヨタファイナンスが名古屋・中部地域で重点的に行っている加盟店拡大が、全国の主要都市に広がる模様である。
また、QUICPayでは、auのおサイフケータイが増えていることも見逃せない。auでは、今年夏商戦向けの新機種15モデルのうち、11モデルをおサイフケータイにし、すべてにQUICPayアプリをプリインストールした。これまでおサイフケータイ分野はドコモが積極的であり、プリインストールしたiD/DCMXでFeliCaクレジット分野をリードするという構図であった。しかし、今夏、auがおサイフケータイとQUICPayに本腰を入れたことで、「ドコモ=iD」と「au=QUICPay」の“2強体制”が構築されそうだ。
FeliCa決済分野は、今が急成長期。急速に会員と加盟店を増やす一方で、FeliCaならではのポイントやクーポンといった「決済+α」のマーケティング活用が積極的に取り組まれている。今後は自動車ビジネスやロードサイドビジネスとの連携にも、大きな可能性があるだろう。