【池原照雄の単眼複眼】「高コスト体質」是正が国内投資を復活させる

自動車 ビジネス 企業動向

鮮明になってきた国内再装備

トヨタ自動車の車両組立子会社であるセントラル自動車が、神奈川県相模原市の本社工場を東北地区に新設移転する検討を進めている。実現すれば、トヨタ車の組立工場新設は1993年以来となる。

能力増よりも新鋭設備の導入による質の向上に主眼を置くそうだが、ここ数年の潮流である自動車生産の国内回帰が鮮明になる。こうした動きは、日本の「高コスト体質」が、この10年で大きく是正されたことと無縁でなく、国内での生産力強化は今後も進みそうだ。

自動車の国内設備は、バブル崩壊後に余剰問題が表面化、90年代半ばから今世紀初頭まで設備調整が続いた。しかし、2005年末にはトヨタが関東自動車工業の岩手工場とトヨタ九州の能力増強を図り、「国内再装備」の動きが始まった。

◆日米の労働コストはすでに逆転

同年にホンダが寄居工場(埼玉県寄居町)の新設を決めると、スズキの相良工場(静岡県牧之原市)、ダイハツ工業の大分第2工場(大分県中津市)といった新規計画が相次いだ。能力増を図るだけでなく、各社とも先進的な生産技術の導入など生産改革は、国内工場に主導させるという方針からだ。

一方で、国内市場の縮小による過剰能力のリスクや、コスト面で競争力は維持できるのかという懸念もある。しかし、後者のコストをめぐる環境は、この10年で大きく変わっている。90年代半ばに頻繁に使われた日本の「高コスト体質」という言葉は、現状では死語に近くなった。

内閣府が8月に公表した2007年度版の「経済財政白書」(旧経済白書)が、そのあたりをよく分析している。米国との比較による製造業の労働コスト(単位労働費用)は、05年から米国を下回る水準となっているのだ。

◆内外の投資判断に選択の幅が

この間のドル・円レートが円高から円安方向に振れたほか、日本ではバブル崩壊後に賃金が抑制され続けたことが大きい。雇用形態も期間従業員や研修目的の外国人労働者など、非正規従業員が増加し、コストの押し下げにつながっている。

日米間の労働コスト差がもっとも開いたのは95年で、日本は米国の1.8倍だった。しかし、米国側の一貫した賃金上昇もあって05年には実に20年ぶりに逆転。06年には米国を1とすると日本は0.85と、15%割安になっている。新興諸国に比べれば、なお高コストにあるわけだが、先進諸国では「並」の国となった。

自動車の場合、成長を託すのは海外市場であるため、生産拠点の新設も海外が主体だ。日本の労働コストが相対的に低下したからといってその基本は変わらない。だが、10年ほど前にはとても考えられなかった国内での増強投資は、はるかにやりやすくなった。自動車産業は幅のある選択肢を得たわけで、より柔軟な経営判断も可能となる。

《池原照雄》

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