「カーナビが『iPhone』よりもプアなUIであってはならない」---マイクロソフト清水尚利氏

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「カーナビが『iPhone』よりもプアなUIであってはならない」---マイクロソフト清水尚利氏
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『Windows Automotive』は、カーナビを主とした車載機器用に用意されたマイクロソフトの組み込み用プラットフォーム(オペレーションシステム)である。マイクロソフトの製品にしてはめずらしく、マイクロソフト本社があるワシントン州レドモンドではなく、東京都調布市に開発拠点を置いている。いわばメイド・イン・ジャパンのOSなのだ。調布で生まれたOSは日本のナビメーカー、自動車メーカーと共同開発され進化を続けている。開発の最前線に立つ清水尚利シニアアカウントマネージャから次の進化の方向性を聞き出した。

---カーナビ開発メーカーは、『Windows Automotive』採用によりどのように開発を効率化できるのか。

清水) 『Windows Automotive』には、AUITK(Automotive User Interface toolkit)とAST(Automotive System Tools)が用意されている。AUITKは、UI(User Interface)開発をサポートするツールだ。現在、ほとんどのカーナビ開発メーカーでは、製品開発工数の50%以上がUI開発となっており負担が非常に大きい。AUITKにより、この部分を効率化できる。ASTは、ハードウェアのリソースを限界まで効率的に使用することを実現するための、ツール群を揃えて提供している。

---AUITKにより、具体的には、どのように開発が効率化するのか。

清水) AUITKにより、アプリケーション本体とUIの開発を切り分けることが可能となる。UIは、AUITKを使うことで、XML形式のスキンファイルとして開発できる。したがって、プログラミングの素養のない開発者、たとえばデザイナーであっても、グラフィック作成ソフトを併用してUI開発が可能となる。

---ASTについてはどうか。

清水) ASTでは、CPU時間測定ツール、メモリ使用量測定ツール、エラーハンドリングツールなどを用意して、高度かつ効率的な開発を実現している。つまり、CPUの能力とメモリを有効に使い切ることが可能となる。また、起動の高速化には特にこだわり、高速化に寄与するメソッドや起動時間計測をサポートするライブラリ群を提供している。

---来年、2Qにリリース予定の『Windows Automotive』の次期バージョンの方向性は。

清水) AUITKの発展系を提供すること、信頼性をさらに高めることを予定している。『Windows Automotive』の現バージョンは5.0。次期バージョンは『Windows Automotive 5.5』と呼ぶ予定である。

---AUITKの発展系とは、どのようなものか。

AUITKは、『Windows Vista』PCアプリケーションの開発環境と統合していく。たとえば、PCの画面設計ツールである『Microsoft Expression』に『Windows Automotive』用コントロールを追加する。Excelで画面に紐付けられた数値情報を管理し、『Visio』で画面の遷移を定義するといったことが可能となる。デザイナー/プログラマーは、『Adobe Photoshop』や『Director』、『Flash』、統合開発環境である『Visual studio』を利用できる。

現状と比べても、開発における実装工数を激減できるため、開発効率もさらに上がることになる。

『iPhone』が発売されたことで高品位なUIに関心が集まっている。いま開発中の製品がリリースされるのは、2010年頃になる場合もある。2010年の製品が、『iPhone』よりプアなUIというわけにはいかないはずだ。

---いっそうの信頼性を高めるということは。

清水) 『Windows Automotive』はクルマの情報系のOSである。しかしITS装備が発達するにつれ、制御系との連携が不可欠になってくる。クルマが走る、止まる、曲がるに絡んでいく部分であれば、高い信頼性が必要とされる。たとえば、車載カメラの情報を画像認識して駐車支援する場合などである。自動車メーカーが必要とされる信頼性レベルを切り分け、セキュアOSを別に持たせることを考えている。

---新AUITKもセキュアOSも合わせて投入するとなると、OSとして相当野心的なステップアップであり、5.0から5.5へのマイナーバージョンアップの域を超えると思うが。

清水) そのとおり、調布の開発チームは二つの意味で燃えている(笑)。『Windows Automotive 6.0』とならず、5.5としたのは『Windows Embedded CE 5.0』をコアとして利用しているからだ。

---これからのカーナビ市場はどのようになっていくと考えているか。

清水) 欧米でPNDがヒットしていることから、カーナビの低価格対応が求められてきている。つまり、カーナビの情報系とクルマの制御系の融合を目指すITS協調カーナビと、日本円で10万円以下の低価格製品に二極化していくのではないか。

『Windows Automotive』は、自動車メーカーが求めるITS協調カーナビに対応できるように進化していく。一方で、低価格製品に対応できるかは、低価格ハードウェア用のチップセットに対応できるかどうかで決まってくる。これは、『Windows Automotive』のベースとなる『Windows Enbedded CE』のサポートに準ずるため広範囲で可能になるはずだ。

---フィアットやフォードが採用している『Microsoft Auto』との統合についてはどのように考えるか。

清水) 2009年に統合したいと考えているが、具体的な内容は決まっていない。クライアントの要望を聞きつつ、ビジネス面、および技術面で検討する必要がある。『Windows Automotive』の立場から『Microsoft Auto』がうらやましく思うのは、標準のハード、ソフトが多くのクルマに実装されているのでサービスの展開では有利であること。実際にアメリカでは、FMラジオ電波のサブ波を使ったインフラが整備されており、『MSN Direct』という情報配信サービスが可能となっている。一方、現状の『Windows Automotive』は、サービスについては、自動車メーカー、ナビメーカー次第という姿勢を貫いている。

---『Windows Automotive』は、日本のカーナビ開発メーカーに積極的に採用されているが、海外のメーカーに対してはどうか。

清水) 『Windows Automotive』の実績、知名度が上がるに従い、問い合わせが増えている。とくにアジア地域からの問い合わせが多い。たいへんありがたいことだ。

《小林直行》

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