混乱がなければ崩せなかった「暫定」の壁
「暫定」といいながら34年も続いた硬直税制に風穴が開いた。ガソリン税など道路特定財源の暫定税率解除は1か月の短命に終わる可能性もあるが、自動車ユーザーがいかに過重な負担を強いられてきたかを知る絶好の機会となった。
これからの焦点は、4月29日以降に可能となる衆院再可決による暫定税率の復活と、道路財源の「一般財源化」の2点だ。風穴が開いたと喜んでばかりいられない。
「政治のツケを国民に回す結果を、心よりおわび申し上げます」。31日夜の会見での福田首相の陳謝に、違和感を抱いた「国民」も多いのではないか。国民の大半は、異常事態とは思いながらも暫定税率の解除を歓迎しているからだ。首相が陳謝したのは国民でなく与党議員や自治体の首長、官僚に対してだったのだろう。
確かに「ガソリン値下げ隊」などと、はしゃいでこの問題を進めてきた民主党の「人気取り」政策には首を傾げるし、ガソリンスタンドや自動車販売業界の混乱という問題もある。だが、こうでもしないと、暫定税率の壁が崩せなかったのも事実だろう。それほど、お上は1度取り始めた税金を下げることはしないのだ。
◆重量税も暫定が撤廃されていたら…
道路特定財源を少しおさらいしておく。税金は6種類あり、うち5種類に1974年ないし76年から暫定税率が適用されてきた。いずれも本来の税率の2倍前後だ。もっとも注目されている「ガソリン税」は「揮発油税」と「地方道路税」を合わせたもので、暫定分は1リットル当たり約25円。
これが今回の撤廃(値下げ)分となるのだが、実はガソリン税は、税に税を課す「タックス・オン・タックス」という、いびつな課税にもなっている。つまり、購入時には揮発油税部分にも消費税を払っている。このため、厳密に言うと暫定税率解除による値下がりは26円余りとなる。
このほか、新車購入時の「自動車取得税」は、本来は車両取得価額の3%なのだが、暫定で5%となっていた(軽自動車と営業用車両は3%のまま)。さらに、今回は解除対象となっていない「自動車重量税」は本則税率の約2.5倍が課せられている。
重量税は、創設のタイミングから現行の暫定税率が切れるのは4月末となっている。今回、重量税も暫定税率が解除されたら、ユーザーへのインパクトはより大きなものとなっていただろう。
◆消えていない「10年間」の暫定復活
今後注視すべきは2日に始まる国会での審議だ。与党は暫定税率の延長法案を衆院で再議決し、暫定税率を復活させる構えだ。いま提出されている延長法案は、暫定期間を従来の5年でなく、10年としている。
このまま通ると、暫定ではなく「恒久重課税」という最悪の展開になってしまう。仮に一部の税目で暫定を継続するにしても、期間を短縮した新たな法案とするよう野党は全力をあげるべきだ。
もうひとつの問題は、特定財源の一般財源化だ。民主党は当初から暫定税率を撤廃したうえでの一般財源化を掲げている。これに対し、局面打開を図ろうと、福田首相も2009年度からの全額一般財源化を打ち出してきた。
道路特定財源は本来、国が納税者に「道路整備のためと」約束して課税を始めたもの。「受益と負担」の原則をないがしろにして一般財源化が進められるのなら、ユーザーは「今まで何十年やってきたのは何だったんだろう」(張富士夫日本自動車工業会会長)と思うはずだ。
仮に一般財源化で与野党が合意するなら、すべての税目で暫定税率は撤廃するというのが、納税者に対して最低限スジの通った対応となる。穴の開く財源は、消費税の引き上げを中核とする税制の抜本見直しで手当てするのが、改革の王道であろう。