【伊東大厚のトラフィック計量学】救急搬送時間の地域格差と通報タイムロス

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【伊東大厚のトラフィック計量学】救急搬送時間の地域格差と通報タイムロス
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時間価値の高い救急搬送

重篤患者の救命は一刻を争う。しかしながら救急搬送時間は年々遅延しており、06年は通報から病院収容まで平均32分、97年と較べ6分も遅れている。今回は救急搬送時間について、少し踏み込んで考えてみたい。

救急搬送の重要性を知る上で、治療されずにいた経過時間と救命率の関係を示す「カーラーの救命曲線」が引用されることが多い(図1)。多量出血の場合、30分で生存率は50%に低下、1時間を超えると生存の可能性はほぼゼロとなる。

通報を受け、現場が特定されてから病院収容までの搬送時間は全国平均で32分だが、地域差もある。全国一短い香川県は25.2分、最も長い東京都との間には20分も開きがある(図2)。面積や地形、人口規模など地域それぞれの事情があるが、救急搬送の時間価値を考えると、この差は無視できない。

◆搬送時間の分布と山間地

同じ都道府県内でも時間分布には幅がある。香川県では20 - 30分がピークとなり、殆どは60分以内に病院に収容されているが、東京都や岩手県では30 - 60分がピークとなっており、60分以上かかるケースも増える(図3)。

病院収容まで60分以上かかるというのはちょっとビックリだが、山間地では実際、長時間に及ぶことがある。岩手県の盛岡市から宮古市を対象とした研究によれば、山間地で事故が発生すると病院収容まで平均73分にもなる(図4)。

盛岡市と宮古市は90km以上離れており、両市以外に救急医療に対応できる病院はなく、高速道路もない。両市の中間点で事故が発生すると、病院まで2時間以上かかるケースも少なくないそうだ。搬送距離は50km以上になり、カーブも多く速度は上がらない。気候条件なども考えると、2時間以上かかることも理解できるだろう。

◆通報までのタイムロス

この研究には注目すべき点がもうひとつある。事故の発生から、通報を受け現場が特定されるまでのタイムロスも調査している点だ(図4)。

通報までのタイムロスは、事故現場が都市の場合で7分、山間部では12分かかっている。事故データが少し古い(94 - 98年)ことには留意が必要だが、携帯電話が普及した今日でも、通報者が地理に不案内であるなど10分程度のロスがあるのではないかと思う。地域格差とともに、通報タイムロスも無視できない値だ。

GPS携帯やカーナビから発生地点が自動的に伝わる緊急通報は、地域によらず通報タイムロスを短縮するのに有効だ(図5)。交通事故の発生時刻は、ドライブレコーダーなどで正確に記録され把握しやすくなっている。緊急通報システムの効果を示すには、通報タイムロスの定期的な実態調査が必要となるだろう。

《伊東大厚》

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