トヨタの新コンパクトカー『iQ』の大いなる魅力のひとつに、コロリとした可愛らしいスタイリングがある。実車を間近に見ると、その可愛らしいイメージのボディを実現するため、実に複雑な曲面が随所に採用されているのが印象的だ。
東京モーターショーをはじめ、昨年世界で公開されたコンセプトモデルは顔つきをはじめ、かなりアバンギャルドなイメージだったが、生産型は顔つきもぐっと大人しくなり、ユーモラスさが全面に押し出されている。
「iQはコンパクトさと環境性能はAセグメントでありながら、Bセグメントの室内空間、Cセグメントの内外装の質感を持つクルマに仕上げたかったんです。そういうクルマが欧州にはすでにあります。フィアット『500』(チンクェチェント)やBMW『MINI』(ミニ)がそうですが、とても魅力的なんですよね」(中嶋裕樹チーフエンジニア)
そうした雰囲気を持たせるため、全体のフォルムからディテールに至るまで、緻密なデッサンを与えたという。
「トヨタのデザイン部門では、さまざまなデザイン研究を行なっています。たとえば貝殻ですが、これは幾何学的に見るととても豊かで複雑な曲面を持っているんですよね。それを3Dカメラでスキャンして、断面の形状を数値化したりしています。そうしたデザインのタネはたくさんあるのですが、iQのデザインにあたっては、とくに自然の摂理に則った形状の面作りにこだわりました」(中嶋裕樹チーフエンジニア)
以前、あるトヨタ関係者がiQについて「トヨタブランドで量販を狙うか、レクサスブランドで売るかで迷っている」と語っていたが、その言葉を裏付けるような出来映えだ。単なる環境性能の高いコンパクトカーというだけではなく、プレミアムという記号を与えられたiQは、ボディこそ3m未満と小さいが、これまでのトヨタの最小市販モデルであった『パッソ』の下に位置するモデルではない。
iQは、日本の10・15モードやJC08モードよりはるかに厳しいEU混合モードにおいて、1kmあたりのCO2排出量99gを達成する。独特の価値付けによって旧来のトヨタ・ヒエラルキーから外れたiQは、マーケティング的には同様にクラスレスモデル化している『プリウス』と似た性格付けともいえる。
日産は「ニッサングリーンプログラム」で100kmあたり3リットルの燃料で走れる3リッターカーの開発を表明、本田技術研究所関係者も以前から「現在のハイブリッドと同等の燃費の普通のガソリン車は作れると思う」と語っていた。が、日本陣営で最初に市販車を登場させるのは、その両社ではなくどうやらトヨタということになりそうだ。ある本田技術研究所の若手社員は「iQみたいなクルマこそ、ウチが最初に実現させるべきだったのに」と悔しがる。
iQは登場前からすでに、自動車業界のなかで着実にプレゼンスを上げているようだ。