新型『フーガ』の開発キーワードのひとつに、「止揚(アウフヘーベン)」という言葉があったという。
元はヘーゲルやマルクスに代表される弁証法哲学者がつかった用語だが、「難しい課題や問題が出てきたときに、すぐに妥協するのではなくで、課題克服のために技術を開発し投入することで、さらに高い性能を達成する」(次席チーフエンジニアの長谷川聡氏)ことを目指したという。
アウフヘーベンを実践した例のひとつが、サスペンションの開発だ。新型フーガのスポーツグレード「タイプS」は20インチの大径タイヤと専用サスペンション、そしてフロント4ポッド/リア2ポッドの対向キャリパーブレーキが装着される。見た目は迫力満点だが、その乗り心地は意外にも非常に快適だった。
3.7リットルエンジンの333PSを受け止めるには、強靱なボディと足回りが必要だが、それによって乗り心地が悪化したのでは高級セダンとしては本末転倒。そこで今回の新型フーガでは、リアサスペンションを新開発するとともに、「ダブルピストンショックアブソーバー」と名付けられる新形状ダンパーを新たに採用した。「中央のシリンダー部分にも、油圧の流路を設けることで、振動伝達を抑制する。ダブルピストンショックアブソーバーの採用で路面からの入力の大きさに応じて最適な減衰力を得ることが可能になった」(長谷川氏)。
サスペンションに劣らず力を入れて取り組んだというのがボディ剛性の向上。長谷川氏は、「新開発のサスペンションを装着したテストカーのボディで操縦安定性の試験をしたら、ボディの剛性が不足して全然曲がらなかった。そこでボディの剛性強化には徹底して取り組んだ」と語る。