「スチームパンク」を連想
『MINI 50カムデン』を見て、SFのジャンルのひとつである「スチームパンク」を連想した。
スチーム=蒸気機関がもしも歴史のなかで淘汰されずに発展していたら……と、レトロフューチャーなストーリーを展開するのがスチームパンク。それはBMWの手によって現代に蘇ったMINIの在り方に符合する。
1959年に生まれた元祖Miniが、もしも何度かのモデルチェンジを経て進化しながら今に至っていたら、こういう姿であるはず。それがMINIのデザイン・コンセプトだった。言わば「たら・れば」の発想で、そこがそもそもスチームパンクに似ている。
その「たら・れば」を、少し未来に向けて引っ張ったのが50周年記念車の50カムデンのデザイン。グリルの横バーを取り去り、ヘッドランプの内部はメッキに代えて黒塗装にするなど、レトロな要素を減らしている。偉大な過去を原点に未来を描くスチームパンク的な指向が、そのぶん鮮明になった。
◆純粋に創造性を発揮できた時代
過去の名作をモダナイズしたという意味では、フィアット 500も同じ。MINIも500もいわゆるレトロモダンなデザインだが、MINI 50カムデンにはむしろレトロフューチャーという言葉のほうが似合いそうだ。
フィアット 500が振り返ったのは、57年の2代目チンクエチェント。市場動向や競合車など考える必要もなく、作り手が純粋に創造性を発揮できた時代に生まれた。それは元祖ミニも同じだ。そしてどちらも60年代の経済成長期に多くの人々にモビリティの自由を提供した。
そんなバラ色の時代の精神を再現するところに、MINIと500のレトロモダンなデザインの意義がある。両車のレトロな要素を言えばキリがないし、具体的に説明する必要もないだろう。ひと目で「あっ、ミニだ」、「あっ、チンクだ」とわかるだけの工夫がしっかり盛り込まれている。
◆レトロなデザインに含まれるモダンな要素
むしろ見てほしいのはモダンな要素だ。MINIでは例えば、盛り上がったフロントフェンダーとそれに続くボンネットの艶やかな曲面、楕円変形のヘッドランプとそれより少し前に突き出したグリルの立体的な表情。元祖ミニのボディサイドは肩からストンと垂直に面を降ろしていたが、現代のMINIはそのイメージを受け継ぎつつ張りのある曲面を作っている。
ただ、モダンさの点ではフィアット500が上だろう。変形ランプや張りのある面構成に加えて、ベルトラインやその下のキャラクターラインをウエッジ(前傾)させている。ウエッジは60年代にはなかった要素だ。そして今回あらためて500を眺めて感心したのが、ボディサイドのプランカーブ(俯瞰で見た曲率)の丸さである。60年代も丸っこいスタイルが多かったが、それは主としてボディの四隅や断面の丸さ。プランカーブを丸めるのはカーデザインのモダンな手法だ。とくにドアからリヤに向けて絞り込んでいくカーブを見ると、「MINIよりモダン」との印象が深まる。
◆50カムデンの斬新さ
しかしMINI 50カムデンとの比較となれば、話は違う。レトロな要素を減らしたエクステリアは、まだ序の口。インテリアを見れば、黒と明るいグレーのクールな内装色がいわゆる「古き良き英国車」の雰囲気を見事に消し去っている。圧巻はインパネのフィニッシャーだ。透明樹脂の表に白のストライプ、それに重ねて裏にシルバーのストライプをプリントし、さらに裏に白を塗装したもの。なんと斬新な表情だろう!
しかもドアミラーも同じ処理でコーディネートしていて、これまたお洒落で新しい。フィアット 500のインテリアは、インパネにボディ共色のフィニッシャーを張ったことを除けば、意外にモダンなデザインだ。例えばオーディオやヒーコンは円と長円を組み合わせた幾何学調で、スッキリと整然としている。ただ、「普通にモダン」で、500ならではの味はやや薄い。今回の取材車がオーソドックスなブラック内装だったせいもあるのだが……。
それに対してMINIはずっと個性的だ。メーターやベントグリルの円形をいくつも並べ、コンソールのスイッチもあえてひとまとめに見せない。一体化・統合化というモダンデザインのセオリーを破っている。
思えば蒸気機関は、燃料を燃やすところ、蒸気を作るところ、その動力を取り出すところなど、いくつかの要素 がそれぞれ独立したカタチを持っていた。もしもそれが一体化・統合化しなかったら……。MINIはインテリアは、まさしくスチームパンク的なのだ。その本来の味を、クールな色使いや斬新なフィニッシャーでグッと濃厚に見せてくれるのが50カムデン。レトロモダンを超えたレトロフューチャーなデザインである。