ワセダのEV…短距離、非接触にこだわる電動バス

エコカー EV
旧型日野ポンチョをベースとした早大の電動バス。これは2号車のWEB-2。
旧型日野ポンチョをベースとした早大の電動バス。これは2号車のWEB-2。 全 10 枚 拡大写真

早稲田大学では積極的に電気自動車(EV)プロジェクトを推進している。大学発ベンチャー企業、早稲田環境研究所の超軽量EV「ULV(ウルトラ・ライト・ビークル)」、そして理工学術院の紙屋雄史教授が進める電動バスだ。今回は、大学院環境・エネルギー研究科にある自身の研究室で設計・開発・実験を行っているというこの電動バスにスポットを当てる。

それは大学の研究というレベルを超えた存在である。これまで製作したバスは、キャンパスがある埼玉県をはじめ、千葉県、奈良県など全国各地で実証実験を行っており、多くの乗客を運んできたのだから。

紙屋教授の研究で特筆すべきは、EVには長所だけでなく短所も存在することを冷静に認識し、その特性に見合った車両の開発を行っていることだ。

「EVが充電時間や航続距離などの面で課題を抱えていることは、最初からわかっていました。だから短距離走行用のコミューターや路線バスなどに専念すべきと考えたのです。必要最低限のバッテリーを積み、1走行ごとに充電すれば、車両重量や価格を抑えられるだけでなく、充電時間の短縮も図ることが可能になります」(紙屋教授・以下同)

この考えに基づき、2002年からNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け、電動バスの開発と導入可能性に関する調査が始まった。

ベース車両には全国各地でコミュニティバスとして活躍していた旧型日野『ポンチョ』を選定し、2年後に試作車『WEB-0』を完成させる。WEBとはWaseda advanced Electric micro Busの頭文字で、バッテリーにはゼブラ電池(ナトリウムニッケル塩化物電池)を用いていた。

続いて2005年には、「WEB-1」、「WEB-2」の2台を製作する。WEB-1ではゼブラ電池を基本としつつ、アシスト役としてスーパーキャパシタを併用したハイブリッドパワーを採用。WEB-2ではゼブラ電池とリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッドバッテリーとして、性能向上を実現していた。

さらにWEB-1では、充電方式にも新しい技術を盛り込んだ。非接触式だ。「運転手が1往復ごとにクルマから降り、コードをつないで充電するのは面倒ですし、安全面でも課題が残ります。非接触式なら運転席に座ったまま、ボタンを押すだけで充電作業が行えますから、充電時間の短縮にもつながります」。

電磁誘導の原理を活用していることからIPS(Inductive Power Supply)システムと名づけられたこの非接触充電装置は、昭和飛行機工業などとの共同開発で、送電部と受電部に10cmの間隔を有しながら、送電効率は92%に達する。

送受電部が露出していることから、雨天時などの漏電を心配する人がいるかもしれない。しかし非接触充電は潜水艦にも使われている技術であり、コンセントとソケットで接続する通常の方式より安全性は高い。

電動バスはその後も進化を続けている。たとえば2009年にはWEB-1が、バッテリーをゼブラ電池からリチウムイオン電池に換装した「WEB-1 Advance」に発展しており、充電効率を向上させた。従来は20分の充電で30分走行可能だったが、進化型では7分で同じ時間を走れるようになった。

今年1月下旬に埼玉県のさいたまスーパーアリーナで開催された「彩の国ビジネスアリーナ2010」では、このWEB-1 Advanceが展示されるとともに、WEB-2は来場者を乗せて周辺の一般道を走行した。

筆者も試乗したが、圧倒的に静かなだけでなく、発進・停止のマナーがスムーズである点が印象に残った。大学の研究室が製作したということで、プロトタイプ然とした乗り味を想像していたのだが、実際は自動車メーカー製EVに遜色のない完成度の高い走りを備えていた。

しかし紙屋教授の研究はこれで終わりではない。さらに大きなステージへ進もうとしている。

「現在、新型ポンチョをベースにした『WEB-3』を開発中なのですが、自動車メーカーや電池メーカーの協力を得て、2012年をめどに量産を考えています。われわれの研究は単なる打ち上げ花火ではありません。そもそも短時間の充電を高頻度で行うというコンセプトは、バッテリー搭載量を最小限にとどめ、価格を下げることが目的だったのですから。本気で普及を考えた結果なのです」

紙屋教授の研究で注目すべきは、既存のEVが追求してきた航続距離をあえて見切ることで、充電時間や価格などの課題を解決しようとしている点だ。しかも高頻度になる充電については、非接触式という回答も用意している。逆転の発想といえるこの考え方、今後のEVに一石を投じるのではないだろうか。

《森口将之》

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