トヨタ“意図せぬ加速” 潔白の証明は困難

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発端となったのは、2009年8月末のレクサスES350が暴走したとされる死亡事故
発端となったのは、2009年8月末のレクサスES350が暴走したとされる死亡事故 全 3 枚 拡大写真

フロアマット、スロットルペダル不良、ブレーキシステムのチューニングと、続出するリコール、不具合問題に揺れたトヨタ自動車。豊田章男社長が米国の公聴会に招致される24日は、これ以上ブランドイメージを傷つけたくないトヨタにとって、この日はまさに天王山である。

現時点で、トヨタが最も頭を痛めているユーザークレームは、ユーザーが別段スロットルを深く踏み込んでいるわけでもないのにクルマが急加速し、場合によっては事故につながってしまうという、いわゆる「意図せぬ加速」問題だ。

意図せぬ加速の原因として疑われているのは、電子制御スロットルだ。今日のクルマの多くは、スロットルペダルからの信号をコンピュータが解析し、モーターでスロットルボディの開度を調節するドライブ・バイ・ワイヤを採用している。そのシステムが設計不良や電磁波干渉により、誤って加速するというコマンドを出してしまっている可能性が指摘されているのだ。

トヨタは昨年、クレーム問題でバッシングを受けて以降、クレームの原因解析を全力で行っている。他のクレーム問題については、様々な調査、検証を行うことで、原因を突き止めたり、相当明確化することができたが、意図せぬ加速の犯人ではないかと嫌疑をかけられている電子制御スロットルについては、「いくら検証をしても原因と思われるものが出てこない」(電子制御スロットル開発エンジニア)というのだ。

電子制御スロットルは、ハイテクの塊となりつつある自動車の電子部品のなかでは、比較的“枯れた”技術だ。スロットル単体での単純な弁の開閉でトラブルが出ることはまずない。弁のモーターが故障した場合には、バネで全閉になるよう設計されている。ハードウェアについてはセンサー、信号処理の判定などを2系統とし、故障はほぼ確実に自己診断できるようにするのが設計のセオリー。トヨタもその文法は守っているうえ、ECUにもサブコントロールチップを装備し、相互監視させるという念の入れようだ。

機構的な問題以外では、電磁波の影響やソフトウェアの欠陥が考えられる。が、電磁波についてはテスターが防護服を着用するような強電磁界でのテストや現地テストを行っている。ソフトウェアについては再び、車両安定装置やクルーズコントロールなどとの相関も含め、トヨタと部品メーカーの双方でデバッグを徹底的に行ったが、そこでも異常が発見されなかったという。

そもそもソフトウェアは、設計時のデバッグは大変な手間がかかるが、異常加速など明確な現象が起こっている場合はあっという間に不良箇所を見つけ出すことができるもので、発見に手間取ること自体おかしい。

「今の私たちにとっては、それでだけやっても異常は絶対ありませんと言えないのが辛いところです」と、システム設計者の一人は言う。

「基本的に、NHTSAのクレームはユーザーの書き込みがベースになっています。そのユーザーには、トヨタ側からはアクセスできません。本当にぜひ、意図せぬ加速が起こった現場で再現試験をやりたいところなのですが、それも事実上不可能です。どうやったら証明が可能なのか…」(システム設計者)

もちろん、意図せぬ加速がスロットル本体の異常とは限らない。トヨタバッシングの引き金となったレクサス『ES350』の暴走死亡事故について、電子制御スロットルに原因があるのではないかという嫌疑が及んだ。米高速道路交通安全局(NHTSA)は、この事故についてはフロアマットが原因と判断を下した。が、他のクレームについても意図せぬ加速が電子制御スロットルの異常や設計不良によるものではないという結論はまだ得られていない。

製造物責任法の下では、証明義務は製造者であるトヨタ側にあるのだが、ユーザーの自己申告による再現性のない一度限りの現象について、すべてその理由や潔白性をトヨタが証明することは事実上不可能に近い。焦点はもはや、NHTSAはじめ、アメリカの公的機関の公平性が保たれるかどうかに移りつつある。豊田社長の公聴会での発言も、その流れを左右する重要なファクターとなる。果たしてトヨタは流れを引き寄せられるか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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