【インタビュー】EVはライフスタイルを変えます…日産フランソワ・バンコン部長

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「journey-to-zero.com」フランソワ・バンコン氏
「journey-to-zero.com」フランソワ・バンコン氏 全 12 枚 拡大写真

日産は、今年後半に予定されている電気自動車(EV)リーフの発売を前に、ゼロエミッションへの道のりを追求するウェブサイト「Journey to zero」を立ち上げた。仕掛け人は、同社でゼロエミッション事業本部マーケティング&コミュニケーショングループ部長兼商品戦略・企画グループ部長を務めるフランソワ バンコン氏だ。

バンコン氏は1999年にルノーから日産に移ってきた。デザイン課のゼネラルマネージャーを経て、2005年から現在の役職にある。興味深いのはルノー入社前のキャリアで、フリーのグラフィックデザイナー、広告コンセプター、メディアコンサルタントとして活躍していた。

現在活躍中の建築家やデザイナー、芸術家とコラボレーションし、豊かなインスピレーションを引き出すことで「ゼロエミッション革命」を推進しようとする「Journey to zero」は、こうした経歴から生まれたものといえよう。

「ゼロエミッションは終着点ではありません。イントロにすぎないのです。私たちはクルマだけじゃなく、ライフスタイルを変えたい。EVがこれまでの自動車と違う価値観を持つこと、モビリティに変化が起きていることを知ってもらうことが大切です。そのためにウェブサイトでコミュニケーションするという手段を選んだのです」

大胆なカラーとグラフィックが印象的なサイトは、ニューヨークのクリエイターの発案。今回は欧米のスタッフが共同で制作したが、次回は日本人も参加してほしいと語っていた。サイトに登場するクリエイターは、グラフィックデザイナー、建築家、ビデオプロデューサーなどから、「よりよい世界」を提案し、グローバルに理解しやすく、ユニバーサルなメッセージを選んだという。

「反応はアメリカがいちばんいいですね。彼らは話し好きだからでしょう。そこへいくとヨーロッパは保守的です。アジアは電気のインフラが整備されていないのが課題です。日本は地方のほうがいい反応ですね。この国の人たちは新しモノ好きなので期待しています」

日産がこうしたサイトを立ち上げたのは、EVが持つ可能性ゆえだ。EVの特徴は、排気ガスを出さないことや、充電が必要になることだけではない。ITを駆使することで、コミュニケーションツールになり得ることこそ重要だという。だからこそライフスタイルを変える必要があるというのだ。

さらにEVが備えるコミュニケーションツールとしての可能性は、若者のクルマ離れの解決にもなるのではないかと、バンコン氏は考えている。

「この国の若い人たちは、クルマを運転しないし、必要ともしていない。こんな状況にあるのは日本だけです。でも私はモビリティの自由は普遍的だと考えています。東京は物理的な手段ではなく、デジタルを通して世界と接触するという、デジタルジェネレーションが多い。EVはIT的な要素を持っているので、こういう人たちとつながるツールになり得ると思っています。iPhoneならぬiCarをつくるのです」

「我々はクルマが好きなことを恥じてはいません。運転の楽しさでは、『リーフ』は『GT-R』にも負けない。クルマ好きのためのリアルカーです」と同じ電動車両でもゴルフカートとは明らかに違うことも、バンコン氏は強調していた。

デザインは同クラスのガソリン車に近いが、これは日産が量産メーカーで、EVについてもニッチ狙いではなく、地球上の誰もが毎日乗れることを念頭に置いた結果だという。それが世界を変えるための近道であるからだ。将来はもっと挑戦的なデザインもあるだろうが、まずはノーズとキャビンがあり、4つのタイヤを持つ、従来のクルマと近いカタチに仕立てたとのことだ。

ところでEVといえば、日本では満充電での航続距離の短さが話題に上りがちである。なにごとも悲観的に考える傾向のある国らしい状況だが、バンコン氏はまったく心配していないという。

「日本での一日の走行距離はたった35kmです。私から見たら、ほとんどゼロに近い。リーフは満充電で160km走れますから、まったく問題ありません。だって35kmしか走らないんでしょ。なにが心配ですか? と思ってしまいます」

ハイブリッドカー(HV)についても聞いてみた。日産は今年、リーフとともに『フーガ』のHVを発表する予定もあるからだ。同じ時期にHVも出して、EVの存在価値が薄まるという心配は抱かないのか。

「日本のユーザーは、HVにはガッカリしているのではないでしょうか。なにも変わらないからです。そもそもゼロエミッションじゃない。日本流にいえばカイゼンといったレベルでしょうか。ただしハイパフォーマンスカーには向いた技術です。だから日産は、そういうカテゴリーにはHVを導入します。HVだけでは世界を変えられないけれど、世界は1日じゃ変わらないですから」

急速充電システムについては、クルマではなくモビリティシステムを提供するという観点に立ち、数を増やすだけでなく、街の一部になるようなデザインを心がけるとのこと。将来は携帯電話やパソコンの充電はもちろん、ドリンクの注文やエンターテインメント情報の受信も実現したいという。

これらが実現すれば、たしかにまったく新しいライフスタイルが誕生する。バンコン氏の言葉は、EVが本来は夢多きクルマであったことを思い出させてくれる。クリエイター出身ならではの柔軟な発想が、もしかしたら日本のモビリティシーンを根本から変えてしまうかもしれない。

《森口将之》

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