【池原照雄の単眼複眼】恐るべし、中印新興メーカーのM&A戦略

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吉利汽車グループのLi Shufu会長とフォードのルイス・ブースCFO
吉利汽車グループのLi Shufu会長とフォードのルイス・ブースCFO 全 2 枚 拡大写真

吉利にとっては大きな買い物

破談の可能性も見えていた米フォードモーターと中国の民営メーカーである浙江吉利のボルボ乗用車部門買収交渉が合意に達した。フォードのボルボ売却は、インドのタタ・モーターズが受け皿となった英ジャガーおよびランドローバーに次ぐ案件。

いずれも新車市場が急成長している国の新興メーカーが買い求めた。自動車産業の担い手が先進諸国の大手企業から、成長国も加わった企業群へと転換する時代を象徴している。中国やインドの新興メーカーが日米欧の既存勢力を脅かす日は、想定外に早く到来しそうだ。

吉利による買収額は約1650億円。1999年にフォードが買収した際は現在のレート換算で約5000億円を投じていたので、ボルボの価値も落ちたものだ。

だが、2009年の生産台数が30万台強にとどまる吉利にとっては大きな買い物となる。恐らく2009年の売上高に匹敵する金額だろう。中国企業の自動車事業買収は2009年来活発化しており、年末には北京汽車が米GM(ゼネラルモーターズ)傘下にあったスウェーデン「サーブ」の資産を買い上げた。

◆華僑の国の経営マインド

また、結局は破談となったものの、四川謄中重工はGMの「ハマー」ブランド買収で一時合意していた。中国企業は、こうした完成車事業だけでなく部品メーカーや生産設備である金型メーカーなどにも意欲的に触手を伸ばしている。

吉利やBYDオート(比亜迪汽車)といった民営企業は、ここ10年ほどの間に自動車生産を始めたばかりだ。日本の自動車メーカーの発展過程に当てはめると、戦後の混乱期を経て自主技術の確立が進んでいた1960年代当たりだろうか。

仮に当時、今のような買収案件があり、何とか資金調達のメドが立ったとしても日本のメーカーは、リスクの伴う買収には二の足を踏んだはずだ。国境を苦にしない華僑の国との経営マインドの違いだろう。

◆半世紀前の日本メーカーのように挑戦

中国の新興メーカーにとって、すでに巨大な自国マーケットが開花した現状では「時間を買う」必要性に迫られているという事情もある。

海外企業の買収は、先進諸国メーカーへのキャッチアップが必要な環境や安全、品質面の技術獲得だけでなく、外国での工場オペレーションを通じたグローバル経営のノウハウ吸収にもつながる。

新興メーカーが、ボルボやジャガーといった高級車事業を手に入れて「何になる」などと考えていたら、とんでもないシッペ返しを食らうのではないか。中国やインドの新興メーカーからは、半世紀前、まだフリーウェイを満足に走れない乗用車を持ち込み、米国市場開拓に挑み始めた日本メーカーのような活力が伝わってくるからだ。

《池原照雄》

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