大矢アキオ『喰いすぎ注意』…VW印のケチャップ

自動車 ニューモデル モーターショー
テヒノクラシカで。1950年、つまりデビュー年のタイプ2
テヒノクラシカで。1950年、つまりデビュー年のタイプ2 全 9 枚 拡大写真
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カレーヴルスト

4月7 - 11日にドイツ・エッセンで開かれたヒストリックカー・ショー『テヒノクラシカ(テクノクラシカ)2010』会場でのことだ。このイベントには、毎年ドイツ系各メーカーがいずれも広いブースを設営し、「今年は○周年」という、いわば「年車」を祝う。

フォルクスワーゲン(VW)の場合、今年は「タイプ2」、つまり『トランスポーター』の誕生60周年で、歴代モデルやバリエーションを展示した。

そのVWブースの一角に、不思議なカウンターを見つけた。何かといえば、「VWのケチャップ」の売り場であった。VWの歴史コレクション部門『VWクラシック』が、今回のテヒノクラシカ会場で限定販売しているのだという。1000本限りだが、値札を見ると、価格は1本3ユーロ(約370円)ぽっきりである。さすが“国民車”のメーカー。懐に優しい設定である。

「なぜVWがケチャップか?」 それにはワケがある。前段階として、「VWのカレーソーセージ=カリーヴルスト」が存在したのだ。

Currywurstとは原則として、輪切りソーセージにカレーパウダーとケチャップをかけて食べるものである。戦後広まった、いわばドイツ版ファストフードだ。ドイツ人のちょっと古いクルマの愛好会でも、必ずといっていいほどカリーヴルストが振る舞われる。

英紙『イヴニング・スタンダード』紙が記すところによれば、VWの工場従業員用ソーセージの歴史は戦前にまで遡るという。さらに、ドイツの有名紙『フランクフルター・アルゲマイネ』によれば、1974年、VWはウォルフスブルク本社工場敷地内に、現在ある社員食堂用ソーセージ工場を開設している。初代『ゴルフ』/『シロッコ』の登場年と同じだ。

現在その工場では20名規模の専属従業員が、燻製室ニ2時間入れたあと、45分蒸すという工程で、年間200万本のソーセージを生産している。

ソーセージは他のVW工場にも供給されており、全生産量の8割が社員食堂にまわされる。残り2割は、ウォルフスブルクにある常設パビリオン「アウトシュタット」のレストランで供されたり、スーパーマーケット「エデカ」を通じて販売されたりしている。

つまり“VWケチャップ”は、そのソーセージ用として誕生したものだ。製造はご存知・食品メーカーの「クラフト」が担当している。他の市販カリーヴルスト用ケチャップと同様、VWケチャップにも若干のカレーパウダーが配合されている。ただし、香辛料のブレンドは、あくまでも「VWのオリジナル」だそうである。


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日本メーカーも続け!

ちなみに近年VWは、欧州各国の自動車ショーでも、報道関係者招待日に、VWソーセージにケチャップをかけて、ジャーナリストたちにスナックとして振る舞っているのを目撃したことがある。

テヒノクラシカ会場に話を戻そう。例のVWカウンターでは、来場者が次々と「VWケチャップ」を買い求めていた。真っ昼間から、いい歳した親父が古いクルマなんか観に来ている罪滅ぼしとして、お母ちゃんに買って帰るのだろう。

そうした光景を見ているうち、ボクも買って帰りたくなった。しかし、すでに各ブースでもらったカタログや資料はボクのカバンの中で、はち切れそうになっていた。これにケチャップなんか買ったら、格安航空会社の辛い預け手荷物制限を超えてしまう危険があった。

泣く泣く会場を後にしようとしたボクを救ってくれたのは、カウンターのお姉さんのひとことだった。「あっちにある屋台で、カレーヴルスト食べられるわよ」。

彼女が指さす方角を見ると、前述のアウトシュタットの出張屋台ができていて、たくさんの人で賑わっている。列に並ぶこと約15分、ようやくボクの番がきた。大盛りを選んでも、ひと皿の値段は3.5ユーロ(440円)。子供の頃の晴海・東京モーターショー会場に始まり、イベント会場の妙に高い食堂に泣いてきたボクとしては、またまた国民的良心価格で感激した。

さて、気になる味は? ソーセージ自体は心地よい良い弾力があり肉質も味わいがある。ケチャップも「ハインツ」のバーベキューソースほどではないが、市販ケチャップに比べてコクが感じられる。ただし、その統合体であるカレーヴルストを評価するには、ボク自身の味覚修行がまだ足りないので、断定的発言はお許しいただこう。

それよりも、この愛すべきVW工場製食品で思ったことがある。ふたたび『フランクフルター・アルゲマイネ』によれば、ウォルフスブルクの従業員たちにとって、このカレーヴルストは同僚の誕生日祝いの定番メニューになっているという。また、彼らはそのケチャップを「ドイツで最高にうまいケチャップ」と言って憚らないらしい。

日本でも自動車産業に近い食品として、「トヨタ博物館カレー」、富士重工群馬製作所前の「スバル最中」などにちなんだものは、いくつかみられる。しかし、いわばサードパーティー製で、工場とは直接関係ない。それに対して、VWの社食用ソーセージとケチャップの市販は、開かれた企業イメージを演出するものとして、見事に機能している。

日本の自動車メーカーも、(もし、あればだが)自慢の社食メニューを市販してみることをお薦めする。幸い「アレが食べられる会社で働きたいッス」と就活学生に涙を流させる味なら、メーカー離れに歯止めをかけられる……、かもしれない。

喰いすぎ注意
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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