IAT(阿爾特中国汽車技術有限公司)は今回のショーで3台のコンセプトカーを披露した。小型ミニバンの「竹風」、タクシー用セダンの「易的」、クロスオーバークーペの「武峰II」。いずれもEVである。
「竹風」と「易的」は60kWモーターで前輪を駆動し、最高速度145km/h、一充電航続距離160kmという性能を持つ。前回08年北京ショーに出品した武峰を進化させた武峰IIは、60kWモーターで前輪を、40kwモーターで後輪を駆動し、最高速度250km/h、航続距離250kmを標榜する。
創業者で董事長(会長)の宣奇武(セン・キウ)氏は北京の精華大学を卒業して第一汽車で働いた後、九州大学大学院に留学して博士号を取り、三菱自動車に就職。開発部門で係長になっていた01年に独立し、愛知県岡崎でIATを創立した。
経営不振などで三菱を辞めていくエンジニアやデザイナーを組織化して、彼らのノウハウを中国の自動車メーカーに提供するのがIATの最初のビジネスだった。そこにあったのは「日本と中国の架け橋になりたい」という宣董事長の強い思いである。
事業がすぐに軌道に乗り、02年には北京で第2の創業。翌03年には早くも5つのプロジェクトを受注するなど、急成長を遂げてきた。今や700名余りの従業員を擁し、顧客リストには20以上の中国メーカーの名が並ぶ。
デザインから車体設計、シャシー設計、試作車まで手がけるのに加え、中国の自動車エンジニアリング会社としては唯一、エンジン・トランスミッションを自社開発できるのがIATの特徴だ。創業から10年足らずだが、すでに170以上のプロジェクトをこなしてきたという。
自動車市場の拡大にともない、どのメーカーも新車開発ラッシュが続いているが、人材やノウハウは不足がち。そこにIATのようなエンジニアリング会社が活躍する土壌が生まれたわけだが、それだけではない。まだ40代と若い宣董事長は「中国の自動車メーカーの経営陣にも私と同世代の人が増えてきて、いろいろなメーカーが仕事を発注してくれた」と振り返る。数多くのプロジェクトで蓄えたノウハウと同世代人脈が、IATの成長を加速させてきたようだ。
しかし宣董事長は、まだ満足していない。「エンジニアリング会社というビジネスモデルで10年やってきたが、社会のためにもっと役立つことをやりたい。日本には優れた技術を持つベンチャーがあるので、それと中国のマーケット、我々の設計能力を組み合わせれば、何か新しい展開ができるのではないか」。そんな思いを具体化させるのが、今回の北京ショーで発表された日本の3社と進めるEV技術の共同開発であり、3台のコンセプトカーなのである。