【池原照雄の単眼複眼】タイ製コンパクトカーが日本になだれ込む

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輸出主体の新たな生産集積地に

内外の自動車メーカーがタイでの生産拡充に動いている。同国政府による「エコカープロジェクト」により、輸出を主体としたコンパクトカーの新たな生産集積地となりつつあるのだ。

日産自動車は13日、日本市場での主力車種『マーチ』の新型モデルをタイ製に切り替え、日本国内で売り出した。マーチは1982年に初代モデルを投入以来、同社を代表するコンパクトカーとして根強い人気をもっており、ここ10年間で平均年7万台が日本で販売された。

国内向けは一貫して追浜工場(神奈川県横須賀市)で生産してきたが、輸出向け車両の為替リスクなどを「慎重に検討した」(志賀俊之COO)結果、3年前に海外移管を決断した。タイ工場では今年度9万台を生産する計画であり、そのうち7万台を日本や豪州、東南アジアなどに輸出する。

◆政府の「エコカープロジェクト」が後押し

タイ製乗用車の日本市場投入では、ホンダが2002年から約5年間、『フィットアリア』を累計約4万台輸入した実績があるが、日産のマーチは量的にこれを大きく上回ることになる。日産がタイへの移管を決めた大きな背景には、同国政府が輸出振興や環境対策のために07年に打ち出した「エコカープロジェクト」があった。

1リットル当たりの燃費が20km以上の低価格小型車で、生産開始から5年目までに年10万台を量産するなどの基準を満たした小型車をエコカーと認定するものだ。排気量はガソリン車で1300cc以下、ディーゼル車で1400cc以下が対象であり、排ガスは現行の欧州規制への適合が義務づけられる。

エコカープロジェクトに認定されると事業税の免除など、優遇措置が受けられる。一方で、ASEAN(東南アジア諸国連合)のうちタイ、シンガポール、マレーシアなど6か国は今年1月に自由貿易協定(AFTA)をスタートさせた。各国間の完成車は関税が撤廃され、域内では輸出しやすい環境も整った。

タイには国を2分する政治的な対立がリスクとして存在するものの、自動車産業の従業員の技能は高い。また、日本企業が早くから進出しているため、自動車部品産業の集積もASEANのなかでは1歩リードしている。

◆ホンダ、三菱、スズキも相次いで生産

そうした産業基盤に政府のエコカー優遇策、AFTA発足が重なり、日本メーカーを中心に一段と自動車産業の集積が加速する状況となってきた。三菱自動車工業はこのほど、現有のタイ工場と同じ年20万台規模の能力をもつ新工場を2011年末に稼働させる計画を明らかにした。

開発中の「グローバルスモール」を生産、うち7割程度は東南アジアや日欧などへ輸出する見通しだ。ホンダは、11年にまずインドで生産する「ニュースモールコンセプト」を同年中にはタイ工場でも生産する方針を決めている。

スズキはエコカープロジェクトとして計画していた新工場の建設を、リーマンショック後に一時凍結したものの、昨年11月に着工した。12年3月に稼働させ、1300cc級のモデルを生産する。

日本市場では早晩、国内外のメーカーを問わず「メイド・イン・タイランド」のコンパクトカーが幅をきかす時代がやって来る。マーチは、その走りに過ぎない。

《池原照雄》

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