「水性塗料がボディショップの企業価値を向上する」…BASFコーティングスジャパン 執行役員 久保田克彦氏

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執行役員 自動車補修・車輌塗料本部長
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現在、ヨーロッパでは光化学スモッグの原因とされているVOC(揮発性有機化合物)削減に向けた規制が設けられ、新車塗装のみならず補修部門においても水性塗料への移行がほぼ完了している。しかし、日本市場における水性塗料の比率は1割以下と、依然として有機溶剤塗料が大半を占めている。

世界最大の化学メーカーBASFの傘下であるBASFコーティングスAG、そしてその日本法人であるBASFコーティングスジャパンは、「R-M」というブランド名で欧米のみならず日本においても展開している。そのR-Mの水性塗料は「オニキスHD」の名称で取り扱っている。今回、フランスのクレルモンで実施されたベストペインターコンテストへの参加は、日本での水性塗料をより積極的に展開していくという意思表示でもあった。

2009年暮れに実施した日本大会と、そこで優勝し日本代表に選ばれた永塚伸洋さん(ホンダボディサービス栃木)を送り出すために取り組んだこれまでの経緯と、水性塗料の普及に向けて目指している戦略について、BASFコーティングスジャパン執行役員で自動車補修・車輌塗料本部長を務める久保田克彦氏に伺った。

●足かけ10年で育ててきたベストペインターコンテスト

----:まず、ベストペインターコンテストの歴史について伺いたいのですが

久保田:ベストペインターコンテストは2010年で10回目。隔年で開催されていますので、かれこれ10年以上の歴史があります。補修塗装業界でこれほど大々的なイベントは珍しく、R-Mブランドが欧州においてプレミアムブランドとして根付いていることを内外にアピールする絶好のイベントと位置づけています。

前回の第9回までは、欧州圏の参加国でしたが、節目でもある10回目の大会では、日本を含めたアジア・中東圏の参加国も合わせて、合計17カ国の参加となりました。日本では2008年の段階から参加へ向けた取り組みを始め、2009年12月に国内大会を開催しました。予選会には総勢50名の方に参加していただきまして、決勝大会では8名のなかから日本代表が決まったという経緯があります。

----:欧州での大会では見事に永塚さんが優勝されましたね。本大会については後ほどお伺いするとして、現在、ヨーロッパでR-Mブランドが展開しているのは水性塗料の「オニキス」のみなのでしょうか?

久保田:基本的にはそうです。ヨーロッパでは2007年から規制により、水性塗料しか販売できなくなりました。

----:日本市場において、BASFコーティングスの軸足は自社ユーザーの塗料を水性化していきたいのか、他社からの置き換えになるのか、どちらになるのでしょうか?

久保田:当社のシェア拡大の余地を考えれば、他社からの置き換えが第一です。欧州においても、他社に先駆けて投入された「オニキス」は水性塗料のパイオニア的な存在だったんですね。日本においても現在展開している「オニキスHD」は第2世代の製品です。

----:ヨーロッパにおいてもパイオニアであったし、日本においてもパイオニアでありたいということですね。

久保田:どこかの企業が進んで引っ張らないと市場は変わりません。

●日本での水性塗料の普及は10%未満

----:ヨーロッパにおいては全面的に水性塗料に置き換わっている状況に対して、日本での水性塗料のシェアは10%未満ということですが、VOCの削減について行政面からのバックアップはあるのでしょうか?

久保田:現在、環境対策というとCO2削減のほうに注目がいってしまうんですね。VOCの削減も、クリーニング業界、建築等の塗装業界など、様々な業種でおこなわれていますが、もう一度、板金塗装の分野でのVOC削減にも注目してもらうために、現在、地方自治体の環境部署などと一緒になって取り組んでいて、認知を広げる啓蒙活動などのバックアップをしてもらっている段階です。

----:企業の自主的な取り組みに頼っている状況なのですね。今後、VOC削減が全国的に広がるにはどういった支援が必要になるのでしょうか?

久保田:塗料の中でエコマークを取得しているのは水性塗料だけなのです。エコマークを使ったサービスなどに、行政からの優遇処置があればユーザーさんもより導入がしやすくなるかと思います。

----:塗料の水性化を目指しながらシェアアップも狙うとおっしゃいましたが、水性塗料を導入するユーザーに関して、BASFコーティングスジャパンとしての取り組みはどういったものがあるのでしょうか?

久保田:板金塗装業社にとって、塗料を替えるというのは大きな変化です。設備を一部変更する必要がでてきますし、技術者の再教育も必要です。会社の経営変革に関わってくることなので、我々も一緒になってマネージメント等のサポートをして、ボディショップの価値を高める提案をしております。

----:具体的にはどのような活動でしょうか。

久保田:今回、日本代表として選ばれた永塚さんが所属するホンダボディサービス栃木さんを例にお話ししましょう。同社では、オペレーションのプロセスを効率化したり、安全面や環境面を向上させたことにより、全国から多くの方々が見学や研修のために訪れます。業界内のみならず、地域の小学校や自治会も含まれます。100%水性塗料を使って作業が行われていることが、新聞紙上などでも取り上げられるようになりました。

----:見学の対象となるようなモデル店舗は、業界からなどからの注目も集まり、R-Mブランドにもボディショップのオーナーにとっても非常にプラスアルファの価値となる訳ですね。

久保田:そうです。そこで我々が目指しているのが“プレミアムモデル工場”という戦略です。100%水性塗料に置き換えたモデル工場で、効率的なオペレーションで作業がおこなわれている。環境に配慮した企業として注目が集まることで、現場の技術者さんのモチベーションも高まりますし、同業他社に対する意識付けにもなります。ユーザーさんの企業価値を高めることで、R-Mブランドへの評価に対する波及効果が確実にあります。

●BtoCビジネスの成功はブランド価値と流通

久保田:補修塗料を提供するビジネスでは、ブランド価値を構築すること、そしてディストリビューション(流通)をおさえる、ということが不可欠な要因です。このうち流通については後発かつ外資である当社は厳しい面があります。流通を変えない限りマーケットシェアは伸びないのです。したがって、ディストリビューションの最適化を視野に入れて販売店との信頼関係を再構築するというのは重要な活動のひとつです。

----:もうひとつのブランド構築という面ではいかがでしょうか。

久保田:補修塗装業者、つまりわれわれにとってのお客様のほうから水性塗料を使いたい、オニキスを使いたいという声が出てくるように取り組んでいる状況です。そのブランド構築のひとつの手段が、先ほど挙げた“プレミアムモデル工場”の狙いの真意です。そして、技術者を養成するためのプログラムの提供も当社がサポートさせていただいています。

●モデル店舗システムで板金塗装のプロセスを改善

久保田:アフターセールスの中で、整備とか車検はメカニックをトレーニングするなどメーカーの管理が進んでいますが、板金塗装の分野では昔ながらの技術が各工場で伝承されておこなわれていることが多いのです。

----:BASFコーティングスジャパンには、板金塗装に関するプロセス管理のノウハウを提供されているのでしょうか。

久保田:各ペイントメーカーは、それぞれ塗装技術者のためのトレーニングセンターを持っています。そこでは塗料のパフォーマンスを最大限に引き出すプログラムを提供しています。当社も例外ではありません。

しかし、トレーニングセンターと実際の作業現場は、やはり環境が違う訳で、トレーニングを受けても、どうやったら自分の環境下でパフォーマンスを最大化したらいいのか悩まれてしまい、通常の作業はこれまで通り続けてしまうといったケースが多々あるのです。

----:結果的に、「現場のことは現場で学べ」ということになってしまうわけですね。

久保田:そこで今回のコンテストを通じて、現場の環境でトレーニングプログラムを実施してみようということで、永塚さんのトレーニングと合わせて、トレーナーを派遣しホンダボディサービス栃木さんの他の技術者に対してもトレーニングを実施させていただきました。

塗料メーカーのサービスマンが、現場に行ってアドバイスするということはこれまでもありましたが、今回はさらに一歩踏み込んで、現場の工程管理や各技術者の技量をきちっと査定して、改善点を提案しております。技術的なギャップがある場合は、トレーニングセンターに来ていただいて指導しております。

----:現場、経営、塗料メーカーが、それぞれ立ち会ってプロセスを構築したモデル店舗の成功例がホンダボディショップ栃木で、その成果として永塚さんのようなスキルを持った人が生まれてきたということでしょうか。

久保田:ホンダサービス栃木さんがもともと持っていた工程管理や、スキルアップの取り組みに我々が1年間お手伝いさせていただいた結果だと思っています。

●世界水準のトレーニングを提供したい

----:今回、日本から代表として選ばれた永塚伸洋さんが見事優勝されましたね。初出場国にもかかわらずの優勝は快挙と思いますが、実際に競技の現場をご覧になっていた久保田さんはこの結果を予想されていましたか。

久保田:トレーナーなど、当社のスタッフとしては3位圏内に入ることができるようなトレーニングはやってきたという自負は確かにありました。永塚さんも自信をもっていましたし。競技の現場を見ていて永塚さんが印象深かったのは、その塗装技術もさることながら、競技に対して真摯に取り組む姿勢でした。この結果には、あらゆる競技において真面目に取り組む姿勢が審査員に評価してもらえたこともあるのではないかと考えています。この優勝は、日本人の勤勉さが発揮された例ではないでしょうか。

----:これまで欧州圏の代表のみでの開催だったものが、アジア圏を含む世界大会として位置づけられたこの大会で、日本代表が優勝したということのインパクトは欧州の代表や、現地のBASFコーティングスのスタッフにもインパクトを与えたのではないですか。

久保田:今回永塚さんが優勝できたということで、ある意味で日本の技術の高さが証明されたことになります。BASFコーティングスジャパンが実施してきたトレーニングが正しいと証明されたということです。われわれとしては、この世界標準のトレーニングを日本のオニキスを使用されているボディショップにも提供させていただきたいと考えています。そして、若手の才能のあるペインターを発掘して次回の大会につなげていければ、と。

----:そこで先ほどの“プレミアムモデル工場”の話とつながってくるわけですね。

久保田:はい。基本的に、ベストペインターコンテストの参加資格は、モデル工場を目指して当社の水性塗料を積極的に利用するボディショップの技術者を対象とさせていただこうと考えています。次回大会に向けては、2011年の頭から十分準備をして、予選会をきちっとおこなって、日本大会そして世界大会へとつなげていきたい、と。

ベストペインターコンテストは、そもそも“若手の登竜門”という位置づけの大会です。次回は20代を中心とした若手技術者の発掘をメインに据えていきたいと思っています。まずは通常のオニキスのトレーニングプログラムにきていただいて、それからペインターコンテストに向けてどのような技術が必要かというのを紹介させていただきます。2年後に第二・第三の永塚さんが生まれてくることを願っています。

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