バッテリー技術・環境規制・地政学が同時多発的に動く現在、バッテリー産業の構造変化を10年単位で俯瞰することこそが企業戦略の核心である。
2026年6月18日に開催されるオンラインセミナー『「電池戦争2036」10年後の産業地図-技術・地政学・規制が同時に書き換える世界-』に登壇する KPMGコンサルティング株式会社 プリンシパルの轟木光氏に聞いた。
バッテリーの多様化が始まった
2025年は、多くの国でBEV販売シェアが微増・微減にとどまった。こうした数字を根拠に、BEV市場の成長鈍化を指摘する声もある。しかしながら KPMGコンサルティング株式会社 プリンシパルの轟木光氏の見立ては異なる。
「今後BEVは、エンジンやハイブリッドとの選択肢の中で、用途や嗜好に応じて選ばれる構図が定着していくでしょう。その中でBEVも徐々に伸びていく。これは産業として正常な進化の過程だと考えます」
BEV市場の正常進化を裏付けるもう一つの根拠として、轟木氏が注目するのが電池技術の多様化である。LFPかNCMか、という単純な二択は終わり、用途や要求仕様に応じたバッテリーの電池の使い分けが進んでいくという。
「ハイブリッドが普及する段階で、燃費型なのかパワー型なのかといった形でポートフォリオが広がりました。まさに今、BEVのバッテリーで同じことが起きています」
轟木氏は、多様化するバッテリーを大きく三つのクラスターに分類する。

1.高性能型
NCM(ニッケル・コバルト・マンガン三元系)が主力。今後半固体・凝集態・全固体電池へと移行が進む可能性もある。エネルギー密度が高く急速充放電にも対応しており、ラグジュアリーカーや長距離に対応したBEV、およびPHEV/REEVにも適した領域だ。
2.量販主流型
これをLFPが担う。バイポーラ構造、超急速充電対応などバリエーションが広がっているが、コアとなるのはコストを抑えながら実用的な航続距離を実現するLFPだ。「現段階のBEVの主流は、まさにこのLFPです。量販から一部の上位グレードまでをしっかりカバーしていく電池界の標準電池と言えます」
3.コスト・特定用途型
これにあたるのが、定置用LFPや、市販が始まったばかりのナトリウムイオン電池だ。エネルギー密度・充電性能は上位帯には劣るものの、将来的なコストメリットが期待される。商用車・短距離配送、低価格帯BEV、さらには12V系の鉛蓄電池の代替領域まで用途が想定される。
「これからは、バッテリーはこれだけやればいい、というわけではありません。用途・市場・規制が何を求めているかによって、それぞれ使い分けていく。それぞれに強みを持つ会社・サプライヤーが強力に進めていく。そういうポートフォリオがまさに今、生まれようとしています」
中国GB38031-2025を土台として考える
電池を語るうえで轟木氏がもう一つの軸として強調するのが、規制の動向だ。BEVバッテリーを巡る規制は中国・欧州・米国・日本でそれぞれ異なるが、どの点に注目すればいいのか。

轟木氏がまず挙げるのが、中国の新規格 GB38031-2025 である。2026年7月から施行される。熱暴走・熱拡散、すなわち発火・爆発を起こさないことが最も厳しく問われる領域であり、現時点で、熱暴走・熱拡散に関する要求が非常に厳しい規制の一つとして、中国の新規格GB38031-2025が注目されている。
「車体下面からの突き上げがあっても爆発させない、熱暴走が起きても拡散させない。これが電池の最も根本的な安全要件です。その厳しさで言えば、今は中国基準は非常に厳しい水準にある。熱暴走・熱拡散という点でこれを土台にすべきだと考えます」
また、2025年に公布されたGB 29743.2-2025では、EV用冷却液に関する技術要求が示され、低電気伝導性を備えた冷却材への対応が重要になっている。
「去年、冷却材市場が急に盛り上がったのはまさにこれが理由です。低導電性材を使わなければならなくなり、コスト構造も変わりました。これらの規制に最も適合しやすい電池はLFPであり、一方で、NCMでは安全対策や熱管理の設計負荷が相対的に高まる可能性があり、規制対応コストを含めた検討がより重要になると見ています」
轟木氏は GB38031-2025 を単なる安全基準としてではなく、産業政策・競争戦略の文脈で解読する。
「昨年発表され、2026年3月に採択された中国の第15次5カ年計画では、『量から質へ』という明確なメッセージが出されました。中国の自動車会社が世界市場で競争力を持つためには、安全性を含む品質を担保しなければならない。その意思がこの基準に明確に表れています」

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