【プリウス vs フィットHV メカニズム比較】THS IIとIMAについておさらい

エコカー ハイブリッド
燃費比較の模様
燃費比較の模様 全 17 枚 拡大写真

10月に発売されたハイブリッドカーのニューカマー、ホンダ『フィット ハイブリッド(HV)』。普通車のハイブリッドカーとしては史上最安となる、159万円からという価格設定や、ノーマルフィットの最大の美点であるスペースユーティリティの良さをそのまま継承していることが奏功し、販売はまずまず順調な滑り出しを見せている。

そのフィットハイブリッドと、ハイブリッドカーの圧倒的ベストセラーモデルであるトヨタ『プリウス』を同時に走らせてみるという今回の企画。燃費はプリウスが27.5km/リッターを記録し、25.8km/リッターのフィットハイブリッドを僅差で抑えたが、両モデルの違いは燃費だけではない。乗り比べてみると、キャラクターの違いは結構大きいものに感じられた。

プリウスとフィットハイブリッドは同じハイブリッドカーだが、システムは大きく異なる。この機会に、仕組みについておさらいしておこう。まずはプリウスから。

◆電力を自由自在にこなせるTHS II

ハイブリッドには大きく分けて、エンジンを発電のみに使い、電気モーターで走る「シリーズハイブリッド」と、エンジンを走行主体に使い、モーターがそれをアシストする「パラレルハイブリッド」がある。

プリウスのハイブリッドシステム「THS II」は、その両方の特性を合わせ持つ、いわゆる「コンバインド(混合)ハイブリッド」だ。搭載されるモーターは、発電用と走行用の計2つ。エンジンのパワーは動力分割機構という装置を使って、直接車輪を駆動させる力と発電機を回して発電する力に適宜振り分けられる。

たとえばエンジンが出している力を全部で10とすると、うち9で車輪を回して1を発電に使ったり、反対に1で車輪を回して9を発電に…と自由自在。また、発電で得られた電力もバッテリーに溜めたり走行用モーターを回すのに直接使ったりと、これまた自由自在である。これらの振り分けの割合を変化させることで、エンジンのエネルギー効率を普通のクルマに比べてはるかに高い状態に保つことを可能としている。また、エンジンを完全に停止させ、モーターだけで走ることもできる。

◆小型軽量のIMAはエンジン側の制御で効率アップ

フィットハイブリッドのハイブリッドシステム「IMA(Integrated Motor Assist=統合モーターアシスト)」は、エンジンを走行に用い、モーターが適宜それを補助するというパラレルハイブリッド方式だ。パラレルハイブリッドにも大小いろいろなタイプがあるが、IMAはシステムとしてはミニマムに近い。

エンジンの出力軸に最高出力10kW=14馬力の小型モーター1個を直付けし、エンジンとモーターがそれぞれ発生する力の合計が総合出力となるしくみだ。このモーターは発電と走行の両方に使えるが、1個を状況によって適宜使い分けるため、発電とパワーアシストを同時に行うことはできない。

エンジンにモーターが固定されているため、エンジンの回転を完全に止め、モーターだけを使って走ることもできない。が、フィットハイブリッドの場合、エンジンの燃焼を全部止め、さらにバルブも全部閉めて空気を吸ったり吐いたりするのに伴うエネルギーロスを防止する機構が備えられており、モーターパワーだけで走るときにエンジンの空転に食われるエネルギーを最小限にとどめている。

◆THS IIとIMAの長所と短所

両モデルのシステムには、それぞれ長所と短所がある。

THSが優位に立つ点としてまず挙げられるのは、総合的なエネルギー効率の高さだ。エンジンのエネルギー効率の美味しいところを柔軟に使うことができるうえ、バッテリーが大きいために車輪でモーターを回し、その抵抗で減速する「回生ブレーキ」回収できる電力の量も大きい。フィットHVのIMAも、エンジンにある程度仕事をさせたほうが効率がいい場合はエンジンでモーターを回して発電しながら走ったりと、結構こまめに制御しているのだが、2モーター式に比べるとずっと単純だ。また、モーターやバッテリーが小さいために減速時に回収できる電力量も小さい。

動力性能の高さもTHS IIの特長。バッテリーとエンジンの合計出力の最大値はプリウスが136馬力、フィットハイブリッドが102馬力だが、違いは数値だけにとどまらない。走行用モーターと発電用モーターの両方を備えたプリウスは、モーターを使ったほうが効率が良い時にはエンジンパワーの大半を発電に使うという芸当ができる。パラレルハイブリッドであるIMAの場合、あくまで駆動力の主役はエンジンで、苦手なところをモーターが補助するにとどまる。

IMAの優位点は一にも二にもシンプルさだ。性能面ではTHS IIに劣るが、バッテリーや出力制御システムを含めたシステム全体の重量やサイズが小さく、コンパクトカーにも簡単に実装できるという強味がある。

モーターが1個であるため、インバーターも1個でOK。バッテリーは両モデルともニッケル水素電池だが、プリウスが容量6.5Ahのパナソニック製角型セルを168個積んでいるのに対し、インサイトは容量5.75Ahの三洋製円筒型セル84個。THS IIは3代目プリウスになってシステム容積が大幅に小型化されたが、それでもエンジン、ハイブリッドシステム、変速機または動力分割機構を含めたパワートレイン全体の重量増はIMAのほうがはるかに小さく、寸法もコンパクトだ。

実際、フィットハイブリッドは客室の広さがノーマルフィットと全く同じであるばかりでなく、ハイブリッドカーの泣き所となりやすい荷室についても床下のサブトランクが使えなくなっただけで、容量、使い勝手ともノーマルとほとんど変わらないというのは大きな美点だ。また、ハイブリッド化に伴う重量増加が小さいことは、走りに対する悪影響を最小限にとどめることにもつながる。

◆電気系統のコストをいかに安くできるかがカギ

システムの簡便さはコストの安さにも直結している。最大の違いは、現在でも自動車部品の基準で見れば泣くほど高いというバッテリーコスト。もちろん実際のコストを正確に知ることはできないが、バッテリーメーカーのエンジニアによれば、両者の価格には4倍近い開きがあるのではとのこと。また、インバーターや大電流を流せるハーネスのスペックも低くてすむ。

THS IIは変速機の代わりに動力分割機構が使われており、これはIMAに組み合わされるCVTに比べて価格が安いとみられているが、電気系統のコストの安さはその価格差を跳ね返して余りあるレベルなのだ。ただ、別の見方をすれば、電気部分のコストが技術革新によって劇的に下がれば、THS IIの価格も大幅に安くなる可能性を秘めているとも言える。

同じハイブリッドカーのカテゴリーに属するプリウスとフィットハイブリッドだが、モデルの特質にはこれだけ大きな違いがあるのだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 【スズキ ソリオ 新型試乗】乗り心地と静粛性はクラストップ、だが「損をしている」と思うのは…中村孝仁
  2. 世界最高級ピックアップトラック誕生!? トヨタ『センチュリーピックアップ』の可能性
  3. ついにハイブリッド化! 新型トヨタ『ランドクルーザー300』の発表にSNSでは「バク売れの予感」など話題に
  4. 日産 リーフ 新型を発表、第3世代は航続600km超のクロスオーバーEV
  5. 伝説のACコブラが復活、「GTロードスター」量産開始
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  2. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. 独自工会、EV減速でPHEVに着目、CNモビリティ実現へ10項目計画発表
  5. 三菱が次世代SUVを初公開、『DSTコンセプト』市販版は年内デビューへ
ランキングをもっと見る