【特集クルマと震災】法人需要急増でレンタカーが足りない!

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津波が直撃した仙台空港。数店舗あったレンタカー店はマツダレンタカーの店舗と日産レンタカーの看板を残し全て流された
津波が直撃した仙台空港。数店舗あったレンタカー店はマツダレンタカーの店舗と日産レンタカーの看板を残し全て流された 全 30 枚 拡大写真

震災により多くの車両が被災した。その数は宮城県内だけで15万台にものぼると見られている。移動の足を失った被災地の住民たちは、安価ですぐに使用できる中古車を求めた。いっぽうで、車両を失った企業はその足としてレンタカーを求めた。

◆レンタカー店舗が集まる仙台空港を津波が直撃

海岸から1kmほどしか離れていない仙台空港。滑走路は水没。ターミナルビルも1階は完全に水没するなど甚大な被害を受けた。5月9日時点で国際線は停止。現在では国内線は全日本空輸で平常時1日30便のところ、5便に留めて運行するなど、震災の爪あとが深く残る。

空港に隣接するレンタカー各店も多大な被害を受けた。ニッポンレンタカーやオリックスレンタカーは津波で店舗そのものを失い、日産レンタカーは看板のみが残った。そうしたなか、隣接する飲食店が盾となったためか、奇跡的に店舗が残ったのがマツダレンタカー仙台空港店だ。

地震直後、マツダレンタカー仙台空港店には3人のスタッフがいた。大津波警報が発令され、3人のスタッフと当時来店していた客は空港内に避難した。スタッフの1人は、「地震から津波到達までの時間は30~40分ほどでした。警察などの呼びかけに従い、空港ターミナルに避難しました」と当時を振り返る。そのターミナルも1階ロビーは水没してしまい、近隣住民や従業員などとともに屋上まで非難する必要があった。孤立してしまったターミナルビルは、自衛隊の救援もなかなかたどり着くことが出来ず、空港の会議室やロビーに寝泊まりする日が続いた。地震から3日目の朝にようやく空港から出ることができたという。

マツダレンタカー仙台空港店のすぐ近くには、津波に流されたトラックの荷台が横たわる。店舗内の壁は津波によって破壊された。レンタカー車両も全て津波の犠牲となったが、震災から2か月、10数台のレンタカー車両を確保し、5月9日に営業を再開した。

マツダレンタカー仙台空港店の柳田昌信店長は「電話もつながるようになり、外部からの連絡も受けることができるようになった。空港の稼働率が上がれば需要も増える。顧客の需要に合わせて車両を増やしていきたい」と復興に向けて意欲をみせた。

津波の被害を受けなかった内陸の他社店舗でも、2度の大きな地震の影響で店舗や車両に被害があった。さらに震災後は燃料の供給が不十分だったこともあり、各社が営業を再開し始めるには2週間ほどの時間を要した。再開後も給油制限があったため、燃料を満タンにできない旨を了解してもらった上で貸し出しをおこなうなど対応をおこなった。

◆法人需要の急増で、震災前以上のレンタカーが稼働

震災では多くの車両が失われたため、レンタカー需要は拡大した。しかし多くのレンタカー車両が被害を受け、その数は大幅に減少。各社は他地域から車両の補充をおこない、震災前を大きく上回る台数を確保しこれに対応する。マツダレンタカーでは宮城県内の各店舗に平常時合計約700台の車両を用意しているが、需要の拡大に併せて同社は県外から車両を集め、現在は約1200台が稼働している状態だという。

レンタカーを求めたのは主に法人だった。特に仙台の中心部にほど近い店舗では、近隣の大手企業から大量の注文があった。移動用の車両を失った企業が、10~20台という単位でレンタカーを必要とした。一度に大人数を載せることができるバンやワゴン、物資を大量に積載できるトラックに需要が集まった。加えて「とにかく足を確保したい」という要望も多かったという。

「ガソリンさえ入っていれば車種は問わない、というお客さまも多くいらっしゃいます。震災直後、ガスの修復工事など復旧にあたる企業様にご利用頂いた際は、ガス管の破損状況などを確認するため、小道に入る必要があることから小型車をご希望されていました」(仙台市内中心部のレンタカー店舗)。

「県外から車両の補充はおこなっているが、今でもすべての車型が足りない」と状況を話すのは、日産レンタカー花京院店の佐藤武憲店長だ。同社では仙台近郊の店舗のうち、看板のみ残った仙台空港店を含め2店舗が津波の被害に遭った。「津波によりレンタカー車両が流されたうえに、長期の貸し出しの増加などが要因でレンタカーの需要に車両台数が追いつかない状態」(同氏)という。仙台近郊の日産レンタカー各店舗でもGW前に合計200~300台を確保したというが、GW開けにはさらに合計100~200台のレンタカー車両が配置されることになるという。

◆ガソリン不足でEVを病院にレンタル

燃料供給がひっ迫した被災地で活躍し得るのはエコカーだ。ただ需要の急増にともない車種は選べない状態。『プリウス』などハイブリッド車を取り扱う店舗では、「プリウスを借りることが出来た人は非常に幸運。燃費がいいためレンタル後1回も給油せずに返却することができたという声も届いている」と話す。

ハイブリッド車と並び、今回の震災で非常時の可能性を見せたのが電気自動車(EV)だ。燃料が不足する中、比較的早期に回復した電気を動力源とするEVは、被災した地域の住民や自治体からメーカーに直接、貸し出しの要望が寄せられたという。

EV『リーフ』のレンタルをおこなう日産レンタカー花京院店の佐藤店長は、「仙台駅周辺では震災翌日の3月12日から電気が回復、東北電力や近隣の病院などで利用頂いた」としており、ガソリン不足のなかでその特徴を最大限発揮したようだ。

ただ、電力不足の懸念が広がっている現在は「EVの立場が難しくなる可能性もある」(同氏)とみている。節電の必要性が高まり「電気を使うからリーフには乗らない、というように単純なイメージで乗られなくなるのが怖い」(同氏)という。

震災を経て、省エネルギーの意識が高まっているが、一方でエコの概念は優先順位を落としている。佐藤店長は「環境に優しいエコの重要度が低下することは今後のEVの利用に向けての懸念材料。また仙台近辺では現在、急速充電器を設置しているのは日産ディーラーの2店舗のみ。首都圏とは異なるアプローチをしていかなければ」と話した。

《土屋篤司》

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