【特集クルマと震災】仙台中央タクシー、震災2日後から人工透析患者を優先

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介護タクシーを業務の柱とする仙台中央タクシーは、震災の翌日から稼働を開始した。「ドライバーさん達の協力があったからこそ」業務課長は語る。
介護タクシーを業務の柱とする仙台中央タクシーは、震災の翌日から稼働を開始した。「ドライバーさん達の協力があったからこそ」業務課長は語る。 全 24 枚 拡大写真

タクシーはガソリンとも軽油とも違う、LPガスを燃料としている。仙台市の約3000台のタクシーへのLPガス供給は震災直後から4分の1ほどに減るが、「震災に強いのがタクシー。15日には7割、地震から10日後にはフル稼働できた」(仙台中央タクシー早坂健一業務課長)。

◆乗車料は後払い、避難者を西へ運ぶ

仙台市内を業務圏とする仙台中央タクシー。同社は小型タクシー96台、大型・福祉車両8台に加え、営業用を含めると130台近くを保有する。宮城野区にある事務所は海から6~7km離れており、地震後の津波の影響は受けずに済んだ。加えて幸運なことに地震発生当時、業務中だったタクシーも地震・津波の大きな影響を受けなかった。

そのため同社では、大地震の翌日3月12日には17台のタクシーを運行させ、タクシー走行の可・不可を把握するための防災マップの作成に取り組んだ。同社の事務所は仙台駅と、太平洋に面する仙台塩釜港のほぼ中間地点にある。事務所近くには仙台市の中心から東の多賀城市、北東の塩釜市へと続く国道45号線が走る。同社事務所から45号線を海方面に1.5kmほど行った福田町までは瓦礫が流れ着いており、福田町からさらに1kmほど海よりの高砂で45号線は通行止めとなっていた。

この45号線に沿って、海に近い多賀城市方面から多くの被災者が避難してきたという。がれきの残る中、同社では、45号線をメインに運行。被災者をタクシーで拾い、津波被害のない仙台市中心方面へ送り届けた。

同社の早坂健一業務課長は「津波の被害でずぶ濡れの人、泥まみれのお客様も多くいた。乗車されたお客様の中にはお金を持っていない方もいたが後払いをお願いし、数日中のうちに、ほぼすべてのお客様に乗車代金を支払っていただけた」という。観光難民となってしまった人たちもおり、タクシーを寝床として提供することもあった。

◆命つなぐ介護タクシーは地震2日後から機能

同社は人工透析が必要なユーザーを病院まで送り届ける「介護タクシー」としての業務を、通常業務の一つの柱として展開している。平常時は一日50人ほどの利用者がいるという。

13日には、そうした利用者を病院へ送り届けるという業務を優先して行った。この時、地震直後に急ピッチで作り上げた防災マップが生きた。地震や津波の影響で通行できない道路を把握し、人口透析を必要とするユーザーを病院までスムーズに搬送することが可能になった。

◆3班に分けて回転、ガス不足に対応

タクシーが稼働するために必要な資源は、人と車両と燃料だ。震災による車両の被害はなかったが、運転手の安否確認と稼働可能な人員の確保には苦慮したという。タクシーの燃料となるLPガスの需給バランスもガソリン同様、崩れていた。

ガスを積んだローリーは午前10時~11時頃スタンドに到着する。そのガスが13時頃には枯れた。午後にもガスは入ってくるが、夕方にはなくなっていたという。「通常の4分の1くらいのガスしか入ってこなかったのでは。仙台市には全体で約3000台のタクシーがあるので、それらの車両がこぞってガスを求めた」(同氏)という。

「保有車両のうち、ガソリン車は4台。あとはすべてLPガスを燃料としている。ガスを充填するために6時間ほど待つという状態だったので、保有車両を『介護タクシー』『通常顧客輸送タクシー』『ガス充填待ち』の3班に分けて回転させていた」(同氏)。この手法により、ガス不足の状況でも一定の稼働台数を維持した。「このサイクルが組めたのは運転手さんの結集した力があってこそ」(同氏)とも話す。「自分が何ができるかを運転手さん各自が考えて行動してくれた。結果、非常時の安定稼働につながった」(同氏)。

LPガスを満タンにすると約400km走行可能であり、同社タクシーは一日約100km走行するため、一度のガス充填で3日は稼働できるという。全体の台数がガソリン車と比べ少ないため、ガスの供給は3月20日頃には通常に近くなる。「震災に強いのがタクシー。地震から10日後には(タクシーを)フル稼働できた」と早坂課長は話す。

《土屋篤司》

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