大矢アキオの『ヴェローチェ!』…フランス騒然、シトロエンが工場閉鎖検討?

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PSAプジョーシトロエン・セベル・ノール工場
PSAプジョーシトロエン・セベル・ノール工場 全 8 枚 拡大写真
 あの歴史的シトロエン工場の運命

PSAプジョーシトロエンの工場閉鎖をめぐり、フランスが揺れている。問題の発端は2011年6月9日、フランス最大の労働組合CGTが、「国内2工場を閉鎖することを検討中である」とするPSAプジョーシトロエン内部文書を公表したためだ。

2工場とは、北部セベル・ノール工場と、パリ郊外のオルネー・スー・ボア工場。公表された文書によると、前者を2013年、後者を2014年に閉鎖する計画であるという。

セベル・ノール工場は北部ヴァレンシエンヌ近郊にある、伊フィアットとの合弁会社による工場。SevelとはSociete Europeenne de Vehicules Legers(ヨーロッパ小型車会社)の略。ミニバンおよび小型商用車の生産を目的に、1978年に設立された。セベルではフランス工場をセベル・ノール(Nord=北)、イタリア工場をセベル・スッド(Sud=南)と呼んでいる。

現在セベル・ノールでは、ワンボックスのプジョー『807』とその姉妹車シトロエン『C8』/フィアット『ウリッセ』/ランチア『フェドラ』、小型バンのプジョー『エクスパート』とその姉妹車シトロエン『ジャンピー』/フィアット『スクード』を生産している。

いっぽうのオルネー・スー・ボア工場はプジョー傘下入り前のシトロエンがイル・ド・フランス圏に計画し、1973年に創業した。当時欧州で最先端の自動車工場といわれた。敷地面積は200ヘクタールで、延べ17kmにわたる完成車輸送用鉄道線路も敷設されている。2000年には、歴史車コレクション「コンセルバトワール」を通常非公開ながら開館した。現在の生産車種は、2代目シトロエン『C3』である。

CGTの発表によると、これによってセベル・ノール約2700人、オルネー・スー・ボア約3500人の、計約6200人の従業員が失業する可能性がある。

今回CGTが公開した文書についてPSAプジョーシトロエンは、「欧州エリアの長期戦略として、2010年に検討されたものにすぎない」と発表。加えて、「オルネー・スー・ボア工場の閉鎖は、早急に検討すべき課題ではない。なぜなら2009年10月に市場投入した2代目シトロエンC3は、2010年に約31万台を販売し、シトロエンの最多販売車種だからである」と説明した。

しかし、PSAプジョーシトロエンの生産拠点ベースでの販売台数でみると、中国をはじめとする新興国が軒並み伸びているのに対して、欧州販売のみが落ち込んでいる。そのため、工場閉鎖計画に対する疑念はフランス労働界ではなかなか消えず、7月に主要労働組合が計画している全国統一ストライキの闘争テーマのひとつとして採り上げられる可能性は大だ。

ところでオルネー・スー・ボアは、シトロエンが創業地ジェベルから『DS』の生産ラインを移して操業開始した、もはや歴史的といってもよい工場である。シャルル・ドゴール空港からパリ市内に向かう際左手に見えるので、エールフランスのリムジンバスから見たことのある読者も多いと思う。

筆者自身も1980年代に初めてフランスに降り立ち、夜霧に包まれたCITROENの赤いネオンと黄色い構内照明、そして大量の『AX』を積んだ貨車が車窓から見えたときは感激したものだ。

仮に工場が閉鎖されると、そこはかとない寂しさを感じるだろう。あの晩初めてのフランスで迎えてくれたオルネー・スー・ボア工場の灯は、個人的にはリンドバーグの見たパリの灯に相当するからである。
大矢アキオの欧州通信『ヴェローチェ!』
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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