【カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS】「カタログに書ききれなかった追加機能は山ほどある」…インタビュー後編

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カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS VH9CS/VH09は1DIN+1DINのモデル。ZHシリーズは2DINのビルトインタイプとなる
カロッツェリア サイバーナビ AVIC-VH09CS VH9CS/VH09は1DIN+1DINのモデル。ZHシリーズは2DINのビルトインタイプとなる 全 18 枚 拡大写真

2011年夏、カロッツェリアのハイエンドカーナビ『サイバーナビ』が大きく生まれ変わった。企画を統括したパイオニア カー市販事業部 マルチメディア事業企画部 枝久保隆之氏、ソフトウェアを担当した島村哲郎氏、ハードウェアを担当した佐藤智彦氏の3氏へのインタビュー後編をお届けする。

◆妻にも初めて誉められた

----:ソフトウェア担当の島村さんがハードウェア担当の開発陣に求めたのはどういったものなのでしょうか。

島村:主に画像認識の部分です。今回は複眼でなく、単眼カメラで前走車との距離を測っていることもあり、検出率が重要になってきます。それにはソフトとして認識率を上げていくことも重要ですが、カメラを含めたハードに依存した部分も大きいのです。今回は単眼のカメラで前走車との距離を測り、車線検知を行い、さらには信号の変化も検知しています。さらにいえば走行中の前走車検知と、停止時の前走車検知は異なるアルゴリズムです。ソフトによるチューニングとハードウェア(カメラ)側とのすりあわせも大きなチャレンジでした。

----:今回は単眼カメラの採用ですが、アイサイトのような複眼カメラの採用は視野になかったのでしょうか?

枝久保:元から単眼で開発が始まっていましたし、コストの面でも複眼は不利です。自動車メーカーであれば取り付け位置を含めて開発を進め、精度を上げていくことも可能でしょうが、市販品と言うこともあり様々なクルマに様々な人が取り付ける汎用性を考慮する必要があります。複眼ですと両カメラの位置を離さないといけないのですが、車種ごとに取り付け可能位置も変わってきます。となると一気に敷居が高くなってしまいます。

----:なるほど。ソフトウェアそのもので大変だったところは?

島村:アルゴリズムです。前走車検知もそうですし、信号もそう。認識してくれないと始まらないので、特に力を入れています。信号検知は赤から青の変化を捉えてドライバーに注意を促すものです。単純なようにも思えますが、信号機には横型もあれば縦型もある。光源も電球とLEDが混在している。天候や時間帯でも見え方が変わってきますし、様々なシーンを想定しなければいけません。車線検知も、簡単なようで意外に難しいのです。路面にある制限速度表記とか、方面別の地名表示とか、あるいは車線も様々な種類があり、誤認識をなくすためのチューニングが大変でした。

----:例えばポリゴンで形成された立体映像を表示するモードがあり、サイバーナビでも「ドライバーズビュー」として採用されていますが、ARスカウターモードというのはそれらと比べても見やすいものなのでしょうか?

島村:従来はナビゲーションが作り出した描画物を現実世界に頭の中で変換する必要がありましたが、ARスカウターモードは現実世界そのものを使うため変換の必要がありません。私ごとですが、私の妻は地図を見るのが苦手で、カーナビの画面に従って運転するのも一苦労なのです。ところが今回のARスカウターモードは「見やすい」と言われました。今まで私が手がけた製品で誉められたことなんて一度もなかったのでビックリしましたね(笑)。

◆将来の地図づくりにも重要な意義を持つロードクリエイター

----:今年のサイバーの紹介をしようとすると、どうしてもARスカウターモードのような“飛び道具”が目立ってしまいますが、基本のナビ機能もしっかりと手が加えられていますね。

枝久保:地図の表記フォントにはヒラギノを採用して、従来よりも見やすさに配慮しています。また「ロードクリエイター」という機能を実装しており、地図上に道がなくとも、1度通るとそこに道が形成させ、ルート設定にも用いることができます。

----:ロードクリエイターで形成された地図はスマートループのサーバーにはアップされないのですか?

枝久保:情報のアップロード自体はしているのですが、ロードクリエイターが形成した道路は共有されず、他のユーザーが使うことはできません。ただし、「ここに道ができた可能性がある」ということは地図メーカー側でも参考情報として把握できるので、しかるべき現地調査が行われた後の地図更新でそれが載ることになります。

----:ARスカウターモードで、ルート誘導のラインを上空に置いている理由は。

島村:「見やすさ」です。路上にラインを引いてしまうと、前走車などに重なってしまって見難くなってしまうのです。空に置くことで目的地の方向であるとか距離感までもが一目瞭然となります。こうしたインターフェースの研究に費やした3年間でもあったわけです。

----:ARスカウターモードも今なら自慢できますよね。そのあたりの見えない対費用効果は大きい。動いているだけで驚きを与える車載機なんて、ここ数年は無かったですからね。最近だとiPhone/iPad以来の衝撃といってもいいのでは。

枝久保:カーナビというものが出てきた時期であるとか、あるいは車内でDVDが見られるようになった時期であるとか、それに匹敵する感じかも知れませんね。

◆スマートループ拡大を狙って通信モジュール同梱

----:VH09CSとZH09CSでは通信モジュールをセットするだけでなく、3年間の通信費も本体料金に込み、というのは思い切りましたね。

枝久保:「通信モジュールは別売でもいいのでは」という声もありましたが、サイバーナビの世界観を構築するという意味で同梱モデルは必要でした。ユーザーとしては、「スマートループを使いたいけど、通信契約と月額通信料負担が…」という問題がつきまとっていましたので、今回のモジュール同梱モデルでは、通信料を製品に含んでいますので、通信料を気にすることなくサイバーナビのフル機能を使うことができます。

----:ドコモと組むことになったいきさつは。

枝久保:ナビクレイドルを活用したドライブネットのスマートフォンリンクで、ドコモさんと協業しており、その経緯でかなりいいご提案をいただいたということです。

----:斬新な新機能の採用もそうなのですが、それ以上に驚いたのは価格です。20万円台後半という価格設定が実に絶妙で、高機能でありながらメーカーオプション(MOP)の純正ナビより安いということですね。ディーラーオプション(DOP)の純正ナビよりは高くなるけど、それは高機能だから納得できる。FOPより高いと、それは特別な人が買うものになってしまうけど、FOPよりも安ければそれは普通の人でも候補に入ってきます。

◆地図更新も3年間追加料金なし

----:今回のモデルではブレインユニットが廃止されました。

枝久保:ブレインユニットは2004年モデルから採用してきました。「クルマでも、家でも、同じ頭脳をもってナビ機能を使う」ということがテーマで、地図更新は家庭内にユニットを持ち込んで…という方法で行っていましたが、大容量メディア(SDHCカード)が登場したことで、HDDを内包したユニットを家に持って帰って作業する必要が無くなったことから、今回のモデルでは廃止しました。

島村:以前はブレインユニットがないと家では何もできなかったのですが、今はSDHCカードさえあれば思い立ったときにルート設定などもできますし、クルマにはカードを持ち込むだけで済みます。

----:地図更新も3年間追加料金なしなのですね。

枝久保:差分更新は通信モジュールを使ってのダウンロードで行えます。全更新はSDHCカードにパソコン経由でデータをコピーして実施します。ナビを使わない状態で約100分。今回はナビを使った状態でのバックグラウンド更新も可能となり、その場合は400分程度の所要時間を想定しています。

音質とUIもイチから見直し、カロッツェリアxの技術者も

----:見た目の派手さではなく、使ってみないとわからないという機能で、これは「推しだ」というものはありますか?

枝久保:オーディオ面が実はすごいのです。自分は以前オーディオ担当でしたが今回のサイバーで、やりたかったことは全部やりました。素材や部品の吟味から回路設計までカロッツェリアxのエンジニアに担当してもらいましたから。音質という意味でも最高の一台です。

島村:UIですね。まず、今回セントラルメニューという新しいメニューを採用しています。いままで別だったナビメニューとAVメニューの行き来が同じ画面内でワンタッチでできるようになっただけでなく、これを押すと何が起こるのか?といった操作の先が見通せるため迷うことなく安心して操作ができます。何かしたいときはメニューキーを押すだけで済みます。

枝久保:メニュー画面がむずかしいという声もありましたが、今回はそこにも手を入れました。

島村:操作フローというものを見直しています。例えば「ユーザーがどういう発想で操作をするのか」というところから開発を始めました。機能が増えると操作も複雑になりがちですが、「サイバーナビだから操作が難しい」とか「マニアックでいい」というのは許されませんから。

----:スマートフォンが世に出てきてから、新しいUIの提案というものが少なからずあったと思うのですが、新UIではスマートフォンに影響を受けたということはあったのでしょうか?

島村:スマートフォンは手に持って操作するものであり、カーナビは据え置き状態で操作するものです。スマートフォンにはスマートフォンに向いた操作感があると思いますが、一方で車載には車載ならではの操作感が要求されます。

----:具体的には?

島村:ナビの画面は離れたところにあり、手のアクションも限られています。小さなアイコンにタッチするのが難しい状況もあるので、例えば施設一覧のリストスクロールでは、手を画面内で動かすことがなく、一つのボタンで次の施設を表示できるよう配慮しています。

----:スマートフォン全盛の時代だからこそ、車載機の使い勝手とは何かが求められるというわけですね。

◆カタログに書ききれなかった追加機能は山ほどある

島村:加えてマルチ検索も使いやすくなりました。ローカルのデータベースだけではなく、モジュールを接続していればバックグラウンドで通信を使った検索も行います。あと、今回はボイスコマンドサーチ…音声認識も今までとはガラリと変えてみました。音声認識する時間を長めにとっていて、その間にユーザーが話したコマンドはすべて拾っています。候補を出すので言い直すことも可能ですし、認識時間中に新たなコマンドを命じることも可能です。

----:今までは認識せずにエラーが出ると「もういいや」となりましたが、これだと使いやすいですね。

島村:まさにそこが音声認識のハードルの高さだったのですが、この方法なら「もういいや」にならない。コマンドの候補も表示されるので、ユーザーも次にはそのコマンドを使ってみようという気持ちになってきます。音声認識に限らず、世の中的に「これは使いにくい」と思われている機能があったとしても、新しいことはどんどんやって、違う角度から眺めて改良に挑んでいかないと、その分野の発展というのは止まってしまいますので。次につなげていくためには、こういう新しい取り組みが必要です。

----:考える価値はあるということですね。あきらめ、そこで止めてしまうのか。「何とかできるはずだ」と考えて次につなげるのとでは全然違いますからね。執念が違うというか、そこをサイバーナビのオーナーたちが受け入れて、高いお金を払って育ててきたというのがあるんでしょうね。

枝久保:今回のサイバーナビはいままで以上に、多くのお客様の手に届くような価格を目指しました。それも「安かろう悪かろう」ではなく、そこはパイオニアとして情熱を注ぎ込んでいます。音声認識もそうですが、商品カタログで詳しく紹介しきれなかった、隠れた追加機能が多いのもサイバーナビの特長なのです。

《聞き手 三浦和也》

《石田真一》

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