【インタビュー】MotoGP優勝も「まだまだやれる」…本田技術研究所 二輪R&Dセンター鈴木哲夫常務執行役員 兼ホンダ・レーシング社長

自動車 ビジネス
本田技術研究所 二輪R&Dセンター鈴木哲夫常務執行役員 兼ホンダ・レーシング社長
本田技術研究所 二輪R&Dセンター鈴木哲夫常務執行役員 兼ホンダ・レーシング社長 全 6 枚 拡大写真
世界の二輪市場をけん引するホンダは、5年ぶりのMotoGPチャンピオンを獲得した。その要因について、ホンダ・レーシングの社長であり、ホンダの二輪の研究・開発部門を統括する本田技術研究所の鈴木哲夫常務にこの結果を分析してもらった。(インタビュー後編)

---:5年ぶりのMotoGPチャンピオン獲得となりました。勝因はエンジンの電子制御技術の進化と、ケーシー・ストーナーというライダーの存在の、両方にあるように思えますが。

鈴木氏:まずはこの場をお借りして応援していただいたファンの皆様、スポンサー様、協力メーカー様に御礼を申し上げます。この2年はF1の制御技術を二輪用として進化させるための2年でしたが、勝利の一因はケーシーの卓越したライディングスキルにあると思います。ライダーとしての能力はもちろんですが、電子制御の進化も彼の適切なアドバイスによるところが大きかったと言っても過言ではないでしょう。実は彼は、電子制御が明らかに入っている仕様にすると嫌がるライダーなので、彼が気づかないような微妙な制御を入れるようにしていました、その事が逆に、制御をより繊細で人間の感性に近いものとしたわけです。

鈴木氏:もうひとつは、昨年後半から投入したシームレスミッション(F1派生の技術。変速タイムラグ無し)の存在です。この二つの要素技術とケーシーのライディングスキル、さらにその他の多岐にわたる部位の進化・改良がうまく噛み合って来て、ようやく今年に花開いたというわけです。

---:気づかせない制御とは具体的にどのようなものでしょう。

鈴木氏:他のチームでも採用していると思いますが、たとえばジャイロセンサーがそのひとつです。これは二足歩行のロボット『ASIMO』で使用している技術です。これで、車体のロール角判定やピッチ角判定などを行い、エンジン制御にフィードバックしています。転倒しないように角度をセンシングしているASIMOと考え方は同じですが、バイクの場合はエンジンや路面反力による振動対策でより精度の高いものを使用しています。この技術は3〜4年前から導入していて、そういった意味では今年のMotoGPマシン、『RC212V』は、オールホンダの技術を結集していると言えます。とにかく、これまでは制御技術は遅れをとっていましたが、ようやく遅れを挽回しました。

---:それで2009年から活動休止したF1からスタッフを入れたわけですね。

鈴木氏:F1の制御系のメンバーを呼んで、「勝てるように制御系を一から見直してくれ」という話をしたわけです。どうしてF1の技術なのかというと、他チームの電子制御のロジックもF1界からの技術から来ているようだと推測したためです。ポイントになるのはタイヤのトラクション制御でしたが、四輪と二輪ではタイヤの使い方が全く異なり、最初は何をやってもダメで、試行錯誤を繰り返す中から徐々に解決策を見出していき、ありたき制御方法の一端が開発できた次第です。

---:F1からの技術を二輪にアジャストするのが難しかったという事ですね。

鈴木氏:ご存知のように四輪と二輪のサスペンション・セッティングはまったく違います。何しろF1は太いタイヤ2本で800馬力強、しかしMotoGPは、コーナーリング中はF1よりはるかに小さい接地面積で200数十馬力を一本のタイヤで受けます。「次元が違い過ぎる」とタイヤメーカーの方も言っているほどで、まだまだ我々の知らない難しい事が二輪には多い。それが制御技術の進化で徐々に分かって来たという段階です。

---:データの反映方法はどうなっているのですか。

鈴木氏:F1ではGPSによる予測制御が可能ですが、MotoGPではGPSが使用できないので、フィードバック制御にせざるを得ない。そこには、どうしてもタイムラグが生じます。そこで先ほどのジャイロセンサー等が効いてくるのです。MotoGPマシンは、エンジンの特性が完成車の随所に影響を及ぼします。一般にエンジンは直線のための物という認識ですが、MotoGPマシンでコーナーを意のままに曲がるためには、シャーシとともにエンジン特性が非常に効いてきます。これはもう10数年前からの傾向で、エンジン特性でマシンのキャラクターが大方決まってきます。それが、どんどんシビアになっているのが現状ですね。

---:ケーシー・ストーナー選手はどんなライダーなのでしょう。

鈴木氏:去年、最終戦の後で「明日から君の乗るマシンはこれだ」と彼に見せたら、再びHondaのレーシングマシンに乗れることを喜んでいました。(2006年からRC211Vを駆りLCR HondaチームからMotoGP初参戦)そして、テストでいきなりトップタイムを叩き出して彼は「これなら今季は勝てる」と思ったそうです。最初に乗ったそのテストライドの時に彼は「安心して速いライディングが可能だ」とコメントしていました。分析力がありメカニックに的確なアドバイスが出来るクレバーなライダーでHondaのマシンの良さを十分に発揮してくれるライダーだと思います。ホンダに乗ってもドゥカティに乗っていた時と同じインコースぎりぎりでリーンし、そこからアクセル全開で立ち上がり加速するというライディングスタイルは変わらず、フルバンクでフルカウンターを切って走っているので見ている側からすればヒヤヒヤものですが、「今シーズンは1度もリスクを冒さなかったが、最終戦バレンシアで初めてリスクを冒した」と言っていました。

---:1000ccになった来年モデル『RC213V』でもストーナーとペドロサは好調のようですね。今年の『212V』(800cc)と基本は変わらないと聞いていますが。

鈴木氏:考え方としては延長ですが、実際にはオールニューになっています。排気量が200cc増えても燃料タンク容量は同じ21Lなので、まず燃費の面が難しくなります。800ccでも余裕があったわけではありませんから。ただ、最終戦後のテストでは、来年のシーズンを見越した仕様でダニとケーシーがタイムでワン・ツーですので、大きく外しているような事はないと思います。

---:その点で、燃費制御等は市販車にも反映できそうに思えますが。

鈴木氏:確かに市販車の制御技術は今後も進化していくでしょう。今回「クロスツアラー」に搭載したトラクションコントロールシステムなどはレーシングマシンから応用できるものもあると思いますが、レースの世界は別格ですし、まだ毎レースごとにセッティングをしなければならないのが現状ですから、それをオートマティカリーに使える高度な技術が市販車には必要だと思います。まだまだ、やる事はたくさんあります。いずれにしてもお客様視点を第一に開発を進め、新たな感動を創造できるような二輪車の開発、そして高い技術と品質で、「乗って楽しい」「乗って便利な」二輪車を提案し、新たな市場創造に向かってチャレンジして参りますので、引き続きモータースポーツ活動とともに応援を宜しくお願いいたします。


インタビュアー
関谷守正|モビリティアナリスト
編集プロダクション、広告代理店を経て独立。モビリティ関連の広告制作、二輪誌やウェブサイトでの執筆・制作を中心に活動。

《関谷守正》

この記事の写真

/

写真ピックアップ

  • 『CBR650F/CB650F』とその開発陣
  • PCX (パールジャスミンホワイト)
  • ホンダ・CB1100 EX(E Package付き)
  • ホンダモーターサイクルアンドスクーターインディア
  • BMW X2 改良新型プロトタイプ(スクープ写真)
  • アルピナ B8グランクーペ 市販型プロトタイプ(スクープ写真)
  • ホンダ シビックタイプR 次期型予想CG
  • Lynk & Co 01 改良新型プロトタイプ(スクープ写真)

ピックアップ

Response.TV