【EVバッテリー レポート2011-12 vol.2】急速充電の課題を解決するバッテリー技術の可能性

エコカー EV
東芝のSCiBが搭載された三菱 i-MiEV M
東芝のSCiBが搭載された三菱 i-MiEV M 全 6 枚 拡大写真

世界初の量産乗用EV、三菱自動車『i-MiEV』が市場に投入され、世界的に“EV元年”と言われた2009年から、間もなく3年が経とうとしている。2012年以降は普及にさらにはずみがつくのではないかと期待する向きも多い。今後、EV市場はどのように発展していくのだろうか。

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EV普及の鍵を握る画期的な充電ソリューション

グローバル市場では今日、三菱に加えて日産自動車、テスラ、スマートなど複数メーカーがEVの市販を開始。ゼネラルモーターズの『シボレー・ボルト』のように純EVよりバッテリー搭載量を減らし、発電用エンジンで航続距離を補うレンジエクステンダーEV(E-REV)も登場するなど、EVは社会に少しずつ浸透しはじめている。

自動車メーカーの動向はどうか。2011年は、日産『リーフ』を初めとする市販EVが投入され、2012年以降も各メーカーがEVの市販時期を明言するなど、普及の度合いは加速することは予想される。また、経済産業省はクリーンエネルギー車の普及を目指す「次世代自動車戦略2010」で、2020年にEV、プラグインハイブリッドカーが乗用車の新車販売の15~20%、2030年には20~30%にまで引き上げるというビジョンを示している。「この普及率も画期的なイノベーションが登場することも織り込んだもの」(自動車部品メーカーのEVエンジニア)という声も散見されるが、この「画期的なイノベーション」とは、具体的にいえば、より実用に即した充電ソリューションの確立だろう。

アウディのEV戦略担当者、ハイコ・ゼーガッツ氏はこう指摘する。「EVが普通のクルマに置き換わっていくためには、まずはEVの性能や信頼性を上げながら、いかに安い価格で供給できるかがカギと言われていますが、クルマを良くすることは当たり前で、それだけでEVを普及させることはできない。肝心なのはやはりインフラです」。今後、EVの普及のカギとなるインフラ整備とはどうあるべきかということも、EVが増えるにつれてあらためて議論が巻き起こる可能性が高い。

◆インフラの整備は急速に進む

EVの充電インフラの主力として期待されているのは、EVオーナーの自宅の普通充電。ガレージに100ないし200ボルトの電力線を設けて、深夜電力を使って充電すれば走行コストも安くすむというのが、EVベンダーの主張だ。が、クルマは常に想定通りの使われ方をするわけではない。中長距離を安心して走れるといったニーズに応えるためには、急速充電器は必要不可欠なインフラなのだ。

政府は2010年のエネルギー基本計画に、2020年までに普通充電器200万基、急速充電器を5000基設置するという目標を盛り込んだ。また同年、自動車メーカー、電力会社、電設メーカーなどが急速充電の標準規格「CHAdeMO(チャデモ)」を作り、普及を目指している。12月時点でチャデモ充電器の設置数は800基。「関東エリアがうち300ヵ所以上を占めるなど偏ってはいるが、まだEVが走り始めたばかりで採算がとても合わない状況であることを考えると、立派な数字」(トヨタ自動車関係者)だ。2020年の設置目標5000台も、政府主導で採算性を考えずに取り組めば、十分達成可能と考えられる。

◆急速充電への対応にはバッテリー技術のブレークスルーが必要

もっとも、急速充電器を普通に使えるようになるには、クルマ側のさらなる技術革新が不可欠だ。さらに言えば、急速充電への対応だけでなく現状のバッテリー技術の課題となっている低温環境での性能維持や安全性・信頼性への配慮、いわゆる「電費」と呼ばれる実際の使用環境に即した性能改善といった点でもイノベーションが待たれている。

まず急速充電について見てみよう。現時点での急速充電のスピードは、30分で容量の80%程度というのが標準的なところ。充電速度が容量の3倍程度までは想定の範囲内というのがバッテリーメーカーの一般的な説明だが、「実際の使用では意外に劣化が早いケースも多く見られる」(バッテリーメーカー関係者)という現実がある。また、急速充電の30分という時間自体も「普通のクルマがガソリンを入れるのに比べるとあまりに時間がかかりすぎる。できるだけエンジン車に近づける技術を開発していかなければ」(前出の自動車部品メーカーのEVエンジニア)という。欧米でも急速充電の性能向上ニーズは高い。現状の性能ではEVはシティコミューター以上のものにならないと考えられているためだ。

短時間に極度の大電流を流す必要がある“超”急速充電を実現させるのは簡単ではないが、ソリューション技術の開発も徐々にではあるが進みはじめている。

その一例が、先頃発表されたi-MiEVの追加グレード「M」に搭載されている東芝製の「SCiB」。SCiBは、東芝が独自開発したリチウムイオン電池の名称だが、負極材にチタン酸リチウムを使用している点が大きな特徴だ。i-MiEVには10.5kWのSCiBが搭載されている。

東芝によればi-MiEVのMで「CHAdeMO方式の最大電流で充電した場合、15分でバッテリー容量の80%、10分で半分、5分で1/4程度の急速充電が可能」というスペックを公表している。これは、一般的なリチウムイオン電池と比較すると、約半分の時間で充電が可能というものだ。

またつい先日、鉄鋼メーカー大手のJFEが同じくSCiBを使い、実機テストで80%までの充電時間を8分にまで短縮させることに成功した。もちろん大電流を安全にクルマに送り込む方法などをさらに考えていく必要はあるものの、バッテリー性能によっては超急速充電が技術的に実現可能ということは立証された格好だ。

◆自動車に要求されるニーズを満たすバッテリー技術の進化とは

大電流を送り込む急速充電はバッテリーの消耗を早めるとも言われているが、EV用バッテリーは乾電池のように簡単に脱着できるものではなく、その利用期間は5年から10年とかなりの長期間が想定されている。たとえば、日産自動車の『リーフ』では、5年間でのバッテリー劣化を20%以下として保証しているが、前出のSCiBはこうした耐久性の面でも優れた性能を持つという。

SCiBは発熱が少ない上、繰り返し充電にも強く、一般的なリチウムイオン電池と比較して2.5倍以上(セル単体は4000回)のフル充放電の繰返し回数を可能としている。

また、自動車は寒冷地での使用にも耐えうる性能も要求される。この点、SCiBはマイナス30度でも十分な放電が可能な低温性能を持つ。同社の試験ではマイナス20度でも80%超の容積維持率を持ち、また、他社リチウムイオン電池が容積維持率40%程度に低下するマイナス30度の環境でも80%近い維持率を示している。バッテリーの性能を十分に発揮できない寒冷地ではこれまでEV使用が敬遠されがちだったが、SCiBは幅広い温度環境下での使用用途にも最適のバッテリーといえる。

◆改めて問われるバッテリーの安全性

そして自動車の利用において性能面にも増して重視されるのは安全性だ。1月5日、GMはバッテリー発火の恐れがあるとして、レンジエクステンダーEV「ボルト」8000台の自主回収・無償修理を発表した。側面衝突の実験後に発火するというもので、バッテリーの安全性が改めて問われる形になったが、この点についても、SCiBは内部でのショート(短絡)によるトラブルが起こりにくいという特性をもつという。 たとえば金属片がセルに突き刺さるなど、何らかの原因で強制的に内部ショートされた場合でも高温の発熱・発火・破裂の可能性はきわめて低い。

2012年以降、EVが普及技術になっていくためには、インフラばかりではなくEV自体の技術革新をさらに進めていく必要がある。ここで挙げたSCiBなどは急速充電を初めとするEVの課題を解決するひとつの有力な手段と考えられる。そこで本連載の第3回では、SCiBの開発エンジニアへのインタビューから、その技術の特徴とイノベーションの可能性についてさらに深掘りしていきたい。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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