【特集 クルマと震災 2012】震災1年…新車販売店、落ち着きは表面的

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トヨタカローラ宮城アムシス苦竹店(2012年2月)
トヨタカローラ宮城アムシス苦竹店(2012年2月) 全 24 枚 拡大写真

東日本大震災後の2011年5月、本誌では仙台を中心に取材を行い【特集クルマと震災】という形で記録した。震災から約1年となる2012年2月末、2011年5月に取材した方々を改めて訪問した。

2011年5月は新車がほとんどない状態

宮城県仙台市宮城野区にある新車ディーラー、トヨタカローラ宮城アムシス苦竹店。高橋浩店長は、この1年の同店舗での販売について、「2011年5月は新車がほとんどない状態でした。2011年4月の末にはスッカラカンでしたから。そのあと、全国のトヨタ販売店から車両をまわしてもらいました。本当にありがたかった。組織力を実感しました」と話した。

集中的に全国から新車を集めた結果、「前年比でいうと、この店舗のみで新車が3割増くらいで売れました」。

2011年5月には、“とにかく移動の足となるクルマが欲しい”という顧客の需要を満たすことに集中していた同店舗。2012年2月になると、住居や仕事などがある程度落ち着き、通常の生活ができるようになった顧客が来店。少しずつ震災以前の販売状況に戻ってきているという。

それでも今なお、被災車両からの買い替えユーザーの来店は続いている。「月に2、3台は被災車両の代替えで来店されるお客様がいます」とのことだ。

2011年8月ころ新車納車が始まった

「2011年の5、6月に新車受注が始まり、8月くらいから納車が始まりました。10台、20台という単位でメーカーから車両をまわしてもらいました」と振り返る高橋店長。2011年5〜8月は中古車とサービスをメインとして業務に取り組んでいた。「JAFの支援はとても助かりました。店舗裏にサービス用の駐車場があるのですが、それがいっぱいになり、処理していくことが大変でしたね」。

2011年夏頃まで同店舗では、震災の影響で発生した個別の事例ごとに判断・対応が続いた。「お客さまがいて、それをどう手助けできるか。当時来店されたのは、ほとんどが被災車両のユーザーさまでしたので、下取りできる車両はありませんでした。被災車両に対するサービス(修理・整備など)を行なうとともに、車検延長が3か月という特例も実施されましたので、それをどうこなしていくかということに懸命でした」。

2011年末に落ち着きを見せ始める

少しずつ落ち着きが取り戻せたのは、2011年末。「2012年の初売りはある程度のお客さまが来られましたね。通常は広告なども行なうのですが、被災した方々も多くいらっしゃいますので、控えめに取り組みました」。

じっくりクルマを選ぶ人が増えた

「震災直後から比べればじっくりクルマを選ぶ人が増えた」という。クルマを買おうと計画していたが、震災の影響で購入を控えていた顧客が、実際にクルマを買いに来ることも増えているよう。また、震災直後に「つなぎ」としてクルマを買った人が改めて新車を買いに来る場合もあるという。

販売動向については「当店はやはり『カローラ』が主力。ハイブリッド車は25%
くらい。軽はコンスタントに売れています。ワンボックス系もあるし、最近は『シエンタ』が伸びていますね。『フリードハイブリッド』が出たのがきっかけかもしれません」とのこと。「震災の影響は全く消えたということではないけれど、落ち着いて自分に合ったクルマ選びをする人は増えました」。

燃費重視を背にアクアの販売状況は…

震災直後に問題となったガソリン不足は記憶に新しい。現在燃費といえば、2011年末に発売された『アクア』のカタログデータは驚異的。だがその販売状況は高橋店長によると「『プリウス』の発売時ほど、熱狂的なものはない」とのこと。顧客は冷静に見ているようだ。

店舗での企画として、アクアの試乗時に燃費を計測し、競う“燃費ランキング”に取り組んでいる。「アクアの燃費ですが、寒さが影響して厳しいというのが現状です。暖房をしながらだとなかなか燃費が出ないので。お客さまにはそのあたりの説明が必要ですね。暖房は冷却水でやっているとか。もう少し暖かくなって5、6月にはアクアの燃費も良くなるでしょう」。

『86』は話題性あるが台数が稼げる車両ではないみている。4月には同店舗に86がやってくるが、店舗では建物を修理している最中で新装オープンは7月。その間、86をどのように展示するか。店舗にとっては腕の見せ所である。

仮設住宅の期限後に新たな需要見込む

2012年1月、同店舗では新車の販売が前年比約3割増と好調だった。販売の中心は新車で、中古車は1月、前年割れとなった。

一方で住宅、雇用の問題は今後解決すべき課題として残っているという。

「家、雇用を確保しないとクルマを買うということにはならない。建設業界なども含めて、被災者のニーズに供給が追いついていない、というところはあるみたいです」と高橋店長。「ディーラーに出向く人にはまだ余裕があります。余裕がない人は沢山います。実際、復興が進んでいるのは表面上で、少し掘るとまだまだ、大変な方は沢山います」。

震災前から震災を経てこれまで、仙台の中心部でクルマの販売を手がけてきた高橋店長は「完全復帰には時間がかかると思います。仮設住宅の期限が重要で、復興予算をとって住宅供給が始まった後に、クルマへの需要が発生するのではないかと考えています」と予測する。

クルマはライフライン

店舗では、引き続き震災の影響によるユーザーの需要動向には注意を払う考え。高橋店長は「震災を経て一年、クルマはライフラインだと改めて気づきました。家、仕事があってクルマ。まだまだ苦しい状況の方々も来店されますので、被災の度合いを含めてお客様の状況を従業員で共有しておかないといけません」と気を引き締めた。

《土屋篤司》

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