【ATTT12】ビジョン具体化へ、スタートラインに立つトヨタ…トヨタ自動車 友山茂樹常務役員

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トヨタメディアサービス(TMS)友山茂樹社長 基調講演のようす(ATTT12)
トヨタメディアサービス(TMS)友山茂樹社長 基調講演のようす(ATTT12) 全 6 枚 拡大写真

「カーテレマティクス(通信装置を用いた自動車の双方向コミュニケーションシステム)はクルマを素晴らしくするために、なくてはならないツールとなった。テレマティクスがクルマのセールスを左右すると言っても過言ではない」。

第3回国際自動車通信技術展(ATTT12)で行われたカンファレンスの壇上に立ったトヨタ自動車の友山茂樹常務役員は、こう切り出した。

友山氏はトヨタメディアサービス(TMS)の社長も務める。TMSは1996年に発足したトヨタ自動車傘下のITコミュニケーション会社。カーナビサービス「G-BOOK」などで知られる。友山氏はトヨタ自動車社長の豊田章男氏と並ぶ創設発起人だ。

トヨタのカーテレマティクスへの力の入れようは並々ならぬものがある。

スマートフォンで遠隔操作可能な機能は50項目

2012年1月に発売されたばかりのEセグメント高級車『レクサスGE』の「スマートG-Link」では、新たにスマートフォンとの強力な連携機能が実装された。ドアロックのオンオフ、オートヘッドライトの作動条件、車内のウェルカムランプの点灯パターンなど、実に50項目もの機能をスマートフォンから遠隔地で設定できるようになっている。

「車両状態をディーラーが遠隔監視することもでき、たとえばオーナーから『トランクが開かない』という連絡があった場合、トランク開閉のメインスイッチをディーラーが確認して、オフになっていれば『グローブボックスの中にスイッチがありますからオンにしてください』などと、その場で的確にアドバイスできるまでに進化しました」(友山氏)。

民生用カーナビが日本にお目見えしてから30年あまり、カーテレマティクスはここまで進化したかと思わされるが、友山氏は「まだまだ第1世代にすぎない」と言う。

高価なナビゲーションシステムから脱却

「カーテレマティクスの本当の進化はこれからです。高級車から価格の安いクルマまで広く普及させるためには、安価でなければいけない。我々は今後、高価なナビゲーションシステムからの脱却を目指します。車内にはカーナビの代わりにオンデマンドディスプレイを置き、スマートフォンの情報を表示させ、ナビゲーション、音楽、情報通信などはすべてスマホ側で対応するように変えていきます」。

スマートフォンを媒体としたコミュニケーションシステムは、もともとIT活用を得意とする欧米メーカーが先行して提唱してきたものだ。が、友山氏が語るトヨタの構想はさらに大胆なものだ。

マイクロソフト、セールスフォースとの提携の狙いは「第2世代カーテレマ」の実現

「スマートフォンなどIT分野の進化はとても早い。それに合わせて柔軟にリプログラミングを行えるようにし、スマートグリッドなど社会基盤との連携も強化します。そして、将来的には全世界で同時にサービスをスタートさせられるグローバル対応も目指します。当社はクラウドコンピューティングでマイクロソフトと、ソーシャルネットワークでセールスフォース・ドットコムと提携していますが、その狙いは第2世代カーテレマティクスなのです」。

力を入れている分野の一例として、今年デリバリーが始まったプラグインハイブリッドカー『プリウスPHV』や、まもなく市場投入されるとみられるEVとスマートグリッドとの連携を挙げた。

「クルマの電動化時代においては、電力需要のピークシフト(平準化)に自動車メーカーが積極関与すべき。いかに再生可能エネルギー由来の電力を効率的に使えるか、世界各地で実験中です。エネルギー需給管理システムと並んで重要になるのがテレマティクス、ソーシャルネットワークなのです」。

プリウスPHVを通じて、すでに1.5世代テレマティクスが運用されはじめているという。会場では友山氏の家族のプリウスPHVが今どこにあり、どういう充電状況か、また自宅での電力需要がどのように変化しているかをリアルタイムで確認するデモが行われた。

「スマホがあれば、世界のどこにいても自分の家やクルマの情報がわかる。今年のジュネーブショー(カンファレンス直前の3月9日にスイスで行われた)に行った時、スマホで車両のバッテリー残量情報を見て、家内に充電は大丈夫?と確認を取ったりしました。プラグインハイブリッドカーが来たとき、スマートグリッドも来るという感じです」。

ITによってクルマが馬に戻る

会場ではもうひとつ、プリウスPHVに採用された新しいコミュニケーションサービス「プリウスPHVクラウド」のデモも行われた。エコ運転支援、H2V(ホーム・ツー・ビークル)マネージャー、SNSトヨタフレンドの3要素からなるものだが、面白かったのは3番目。

iPhone用の自動会話エンジンで知られる「イナゴ」と共同開発したシステムを搭載しており、クルマがトヨタのCMに出てくるドラえもんのような意思を持った機械として対応するというイメージだ。会場で友山氏が「美味しいラーメン屋は?」「やっぱりお蕎麦がいい」などとクルマにおすすめスポットを質問すると、クルマが候補を答えてくれた。最後に「ちょっと意地悪してみましょうか」と、相手を罵倒するセリフを入れてみたら、これからもっと頑張るので暖かく見守って、といった健気な対応を示し、会場をわかせた。

「人間にとって最高の乗り物は馬だと言います。障害物は自分でよけるし、騎手が飛べと命じても危険と判断すれば飛ばない。これまでクルマはドライバーが一方的に走らせていましたが、ITによってクルマは再び馬に戻っていくのだと思います。そして、そのサービスもプル型からプッシュ型に変化し、ユーザーのニーズを先回りするものになるでしょう」。

壮大なビジョン実現へ…スタートラインに立ったトヨタ

トヨタのこれらのビジョンは、まだ始まったばかりだ。構想が大規模なことに加え、クルマとスマホの連携をはじめ、世界中の非自動車分野のエクセレントカンパニーとの協業を要する技術案件が多く、今後スムーズに物事が運ぶとは限らない。通信会社、端末メーカー、ソフトハウスなど、それぞれが主導権を取りたがることは明白だからだ。

実際、クルマとスマホの連携を簡素化すべく、OSへの連携機能の実装を呼びかけているが、今のところ協力を得られているのはノキア1社のみとのこと。しかし、大きな構想の実現はまず、素晴らしい夢を、現実ベースで語るところから始まる。そのスタートラインにすでにトヨタは立っていると実感させられる講演だった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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