乱立するスマートフォンの非正規修理店

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「iPhone修理ショップ新宿」で見せていただいたiPhone修理作業の現場。
「iPhone修理ショップ新宿」で見せていただいたiPhone修理作業の現場。 全 3 枚 拡大写真

■iPhoneの外装修理の現状

 スマートフォンにカバーを付けて利用しているユーザーも多いと思うが、筆者の場合、端末そのもののデザインや質感に魅せられてセレクトすることも多い。カバーをつけると肝心な端末デザインが隠れてしまうので、たいていは端末むき出しのまま使用している。そんなこともあって、端末を破損させてしまうことも少なくない。つい先日もiPhoneを胸ポケットに入れていて、かがんだ際に地面に落としてディスプレイを割ってしまった。

 iPhoneをはじめ、スマートフォンのディスプレイを破損してしまうケースは意外と多いようだ。iPhoneの場合は、アップルストアで修理対応してくれる。アップルストア店頭持ち込みのほか、宅配を使ってのオンライン修理も実施している。内容にもよるが、保証対象外修理となるため修理費用は機種により13,800~17,800円ほどかかるようだ。

 一方、都心部ではiPhoneの修理やカスタマイズを標榜するショップを多数見かけるようになった。破損したディスプレイの交換や、バッテリー交換、外装交換などをその場で対応してくれるようだ。これらのショップでの修理相場はアップルストアの半額程度。とはいえ、その交換パーツのクオリティはどの程度のものなのだろう。修理技術はどうなっているのだろうか。さらには、後述するがiPhone等の携帯電話端末はわが国では「無線局」として指定機関による認定・検定が行われており、非正規店で修理すること自体が法律に触れる行為に当たるのではないかという疑問もある。こうした疑問を解決すべく、iPhone修理・カスタマイズ店の激戦区と言われる東京・新宿にて、店頭を直撃してみた。

 快く取材に応じてくれたのは、西武新宿駅にほど近い、「iPhone修理ショップ新宿」(http://www.iphone919.jp/)だ。この店舗では、iPhone 4Sのガラス破損交換を8,000円で請け負ってくれるという。修理に使用するパーツは純正品もしくは純正品に限りなく近いクオリティのA級パーツを使用するという。修理時間は外装すべて交換する場合で40分程度。また、この店舗に限らず、正規修理店以外で修理を行った場合は今後アップルの保証適用外になることを明示していた。一方でこの店舗で修理完了後、この店舗で独自の保証を行なっており、3ヵ月以内に不良が生じた場合、この店舗で無償修理に応じるという。

 修理作業の裏側を拝見させていただいたが、専属のエンジニアが常駐し作業に対応していた。当然のことながら電子部品を扱うので静電気対策を講じ、また修理品は分解のついでにアルコールを染み込ませた綿棒で清掃まで行うなど(写真)、丁寧な作業をされていた。実際に、修理店によっては端末の見えない裏側の仕上げが雑なところも多いらしく、分解してみたらネジが無かったり、ベタベタと指紋だらけだったなどということも多いらしい。

 こうした非正規の修理・カスタマイズ店は、首都圏のターミナル駅周辺に続々と増え、その看板が目に飛び込んでくるようになった。iPhoneの登場以降このような修理店が増え、消費者側にも一般化し浸透してきたように感じる。しかし長年にわたって携帯電話サービスを傍観してきた身としては、端末をこんなに気軽に分解・改造してしまって果たして大丈夫なのかと危惧してしまう。

 というのは、かつてはキャリアショップ以外の店頭で携帯電話端末を分解するなどの行為は考えられないことだった。わが国においては携帯電話端末は「特定無線局」として財団法人電気通信端末機器審査協会(JATE)で認定を受け、さらに一般財団法人テレコムエンジニアリングセンター(TELEC)において電波法令の技術基準に適合していることの証明を受ける必要がある。業界では俗に、端末の「認定」「検定」というが、端末の外装交換は本来「認定」を受けた状態とは異なる部材に「改造」することになるため、電波法上では違法無線局とみなされ、下手をすれば「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処されかねない。海外では携帯電話の外装交換をしてくれるショップを多数見かけてきたが、わが国ではいわば「禁断」のビジネスとして、携帯電話業界関係者は手を出しては行けないものと認識され続けてきたのだった。

 前出のiPhone修理ショップ新宿をはじめ、iPhone修理を標榜する店舗等では、どうもiPhoneは無線局というよりもパソコンとして認識しており、パーツを組み上げ自作も可能なパソコンと同様、iPhoneに関しても外装や一部パーツを交換すること自体にあまり抵抗を持っていないようだ。

 では、こうした現状を、携帯電話業界側はどう見ているのだろう。

 まず、通信キャリアにコメントを求めたところ、「保証が効かなくなる上、品質も担保できなくなるので決してお勧めしない。ただし、iPhoneの場合は保守はアップルにお任せすることになり、店頭でも修理等はアップルストアを案内する形になっている。したがって、第三者が分解・修理することの是非に関しては、アップルの判断に任せる」(ソフトバンクモバイル広報)ということだった。一方、アップルはこうした非正規の修理店での修理・改造は「当然、保証対象外となるとして警鐘を鳴らしている。現時点では、こうした店舗を排除するという動きはないが、ユーザーからの問い合わせでトラブルも多いと聞いており、トラブルが続くようであれば何らかの対策を講じていかなくてはならないと考えている。何より修理に関してはアップルストアに足を運んでいただくか、Webから修理を依頼してほしい」(アップル広報)という。

 通信キャリア、端末メーカーのいずれも違法改造という認識までは至っていないようだが、いずれにしても保証が失効するような「グレー」なことであるという意識のようだ。

■今後修理・改造が合法化されるかは消費者次第?

 筆者が一番関心を持っていたのは、iPhoneの外装交換が「無線局の改造」に当たるのかどうかという点。単に保証が効かなくなるどころの話でなく、下手をすれば法的に罰せられる可能性もあるからだ。そこで、総務省で電波法、電気通信事業法、基準認証制度全般を所轄する総合通信基盤局電波部電波環境課に話を伺ってきた。

 まず、スマートフォン等の端末(=無線局)の状態だが、端末の技術基準適合認定(いわゆる認定)を受けた状態で使用しなくてはならないというのは大原則のようだ。ではその認定の内容なのだが、これに関しては端末メーカーが電気通信端末機器審査協会(JATE)に対して提出した申請資料次第となる。一般的に携帯電話等は外装も含めて一体的に「無線機」として認定を受けているのでその場合は外装交換はNGになる可能性がある。しかし最近では無線モジュール部分だけで認定を受けるケースもあり、もしiPhoneがこのような形で申請されていれば、外装交換自体は違法にはならなくなる(が、その可能性は低そうだ)。また、申請内容においては、各パーツ部材の材質や製造工場等も届け出るそうだ。たとえばiPhoneの外装を交換した場合で、仮にそれが正規品でなくても、純正部品を製造している工場が同素材のパーツを横流し(?)し、それを非認定の修理店で取り付けるといったケースもあるかもしれない(実態は不明だが)。その場合は、認定通りの端末になるので違法性はないという。

 では、街中に増えてきた、非正規の修理・カスタマイズ店をどうとらえるのか。じつは、この点に関して、意外な回答を得ることができた。

 総務省は本年4月より、電波の有効利用のための諸課題及び具体的方策について検討するため、総務副大臣の主催する「電波有効利用の促進に関する検討会」を開催している。たとえばスマートフォンによるデータ通信の混雑をどうするかといった課題や、大規模災害に強い通信システムはどうあるべきか、などといった諸課題を洗い出し、その具体的方策について検討しようという目的で行われている。その検討会の「中間とりまとめ」が8月24日に公表された。電波の有効利用や、周波数再編などの話題のほかに、「電波利用環境の変化に応じた規律の柔軟な見直し」という議論も進められてきた。その中で「グローバルな流通の促進と技術基準適合性の確保」という項目では、iPhoneの修理・カスタマイズに関わる話題も議論されているのだ。

 「中間とりまとめ」では修理やカスタマイズしたスマートフォンのことを「修理再生した無線設備」と呼んでおり、こうした端末が「米国では製造業者が自ら行うことはなく、第三者たる修理業者が、製造業者から委託を受けるか又は技術情報等の提供を受けながら修理を行っている。 」「米国では、第三者が修理再生した無線設備について、技術基準適合性が確認できる制度が導入されており、このため、修理再生した安価な携帯電話端末が市場に出回ることを通じて、携帯電話端末の多様性やグローバルな市場の拡大が図られている。」との意見を引用し、一方でわが国では「第三者たる修理業者が、自ら修理再生した携帯電話端末の無線設備について、技術基準適合性を確保するための手続が明確となっていない。 このように、修理再生された携帯電話端末の無線設備が市場で流通することで、再生製品の利用による資源の節約、製品寿命の長期化等の観点から環境問題に貢献するほか、消費者に安価な携帯電話端末の提供が可能となる等のメリットがあることから、第三者が独自に修理再生した無線設備に対しても、技術基準適合性を確認できるような仕組みの早急な検討が必要と考えられる。 」として、スマートフォンの修理・カスタマイズ事業の合法化に向けた検討が必要であるとの見解を示しているのである。(『電波有効利用の促進に関する検討会 中間とりまとめ』13ページ参照)

 また、米国における第三者による修理再生事業に関する情報として、6月5日に開催された「電波有効利用の促進に関する検討会 第4回会合」においてアシュリオン・ジャパン株式会社が報告を行なっている。これによると米国内のメーカー保証内修理が年間1,000~1,300万台に対し、メーカー保証外修理・再生は1,100~1,400万台あり、その保証外修理・再生は全てをメーカーではない外部の修理事業者が行なっており、その市場規模が年間1,000~1,400億円にも上っているという(写真)。つまり、わが国においては非正規のスマートフォンの修理店が乱立するようになってきたが、グレーなイメージが付きまとうこれらの修理店も、きちんと法整備し技術基準を担保できるようにすることで、それなりの市場規模の産業に成長し得ることも考えられるのだ。これは今後の検討会における議論次第ではあるが、修理再生事業者等がここで一致団結して国に要望をまとめていくことや、安価に修理やカスタマイズできるメリットを享受している消費者も意見を発していく必要がありそうだ。

 実際の資料は、以下を参照いただきたい。

●総務省報道資料 「電波有効利用の促進に関する検討会 中間とりまとめ」の公表及び意見募集の結果(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000070.html)
●「電波有効利用の促進に関する検討会 中間とりまとめ」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000173666.pdf)
●電波有効利用の促進に関する検討会(第4回会合)配布資料4-7「米国での端末修理再生事業の概要」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000163226.pdf)

 筆者の個人的見解を示させていただくと、こうしたスマートフォンの修理やカスタマイズは大いに歓迎したいと考えている。現在のわが国における携帯電話販売の仕組みでは、携帯電話やスマートフォンを購入すれば少なくとも2年間の利用が前提となってしまう。しかし、毎日持ち歩いて利用するこれら端末を2年も持たすのは正直厳しい。破損させてしまうこともあるし、そもそも飽きる。一方で、修理・カスタマイズ店に行くと、目移りするほど賑やかな交換用の外装が用意されており、カスタマイズすることで気分を変えてまたその端末を使い続けられる。

その一方で、非正規店で扱われる部材類の品質はまちまちだ。純正品に近いものもあれば、低品質ですぐに壊れそうなものまで幅広い。こうしたところで消費者がトラブルにあわないためにも、技術基準や部材品質の確保のための仕組みは必要と考えている。検討会における議論の進展を引き続き見守って行きたい。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第10回 乱立するスマートフォンの非正規修理店

《木暮祐一@RBB TODAY》

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