【池原照雄の単眼複眼】ホンダ、「600万台」の旗を掲げる意味

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ホンダの伊東孝紳社長会見(12年9月21日)
ホンダの伊東孝紳社長会見(12年9月21日) 全 3 枚 拡大写真

中長期の目標明示は05年以来

ホンダが次の3か年計画(2014~16年度)の最終年度に4輪車の世界販売を600万台以上とする目標を打ち出した。12年度の計画である430万台(グループ販売ベース)から、4年間で4割の上乗せを図る意欲的な数字だ。伊東孝紳社長が9月21日の記者会見で公表し、併せて2輪車は2500万台以上(12年度計画比1.5倍)、汎用製品は800万台以上(同27%増)とする方針を示した。

ホンダが3事業部門の中長期の販売目標を経営公約的に示すのは珍しい。前回は05年に遡る。当時の福井威夫社長が、3か年計画の最終年度にあたる07年度の4輪世界販売を「400万台程度」と公表した。成長力の具体化を求める外部の声に応える狙いもあった。

ただ、福井社長は400万台を「イメージしている数字」とし、今回ほど強いトーンでは示さなかった。それでも北米市場の好調や中国販売の順調な拡大などにより、07年度の実績は393万台と、おおむね達成した。

N BOXの成功を攻めのモメンタムに

この期の連結業績は期中の平均為替レートが1ドル114円の円安だったこともあり、営業利益は9531億円と過去最高を記録している。以降、08年秋にはリーマン・ショック、その後の円高進行、東日本大震災やタイの洪水で、4輪販売台数、業績ともピークの07年度には及んでいない。

リーマン後の09年に就任し、相次ぐ危機と格闘してきた伊東社長が、この時期に思い切った数値を提示したのは「攻めに転じる段階に入ることができた」との判断による。その象徴のひとつが、軽自動車『N BOX』シリーズの躍進だ。軽のテコ入れは伊東社長が就任時から取り組んできたものだが、開発と営業の息がぴったり合った製品に仕上がった。

ホンダは「困った時の2輪」(池史彦専務)というように、リーマン後も世界トップの2輪事業が4輪の落ち込みを補って、赤字は回避した。その分、創業期以来の営業赤字に転落したトヨタ自動車に比べると、この間の会社総体としての危機意識は希薄に見えた。

目標達成の07年度より格段に厳しい経営環境

10年夏には伊東社長が約2か月にわたって管理職を中心とした従業員と直接対話し、このままだと「ホンダの将来はない」と強く訴える場面もあった。そうした意識のスリ合わせが、大震災やタイ洪水からの順調な回復にもつながったといえる。

伊東社長は今回の「600万台」などの数値目標公表は「社内や関連企業に向けた決起集会的な意味合いもある」と、話す。ここでもう一度社内を引き締め、16年度に向けてベクトルをきっちり合わせたいということだろう。もっとも、日米欧の成熟市場、それ以外の新興国市場でそれぞれ300万台に定めた目標値のハードルは高い。

成熟市場は12年度の販売計画に対して12%の拡大となるのに対し、新興国は同年度の162万台から85%増の300万台へと、大きな伸びを背負う。07年度に「400万台程度」という目標をほぼ達成した当時に比べれば、大幅な円高や新興国市場での競争激化など、経営環境は段違いに厳しさを増している。だからこそ、「600万台」という攻めの旗を、社内外から見える所に掲げる意味がある。

《池原照雄》

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