【パリ新交通システム2012】パリで進む脱自動車

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トラムウェイ(T3)
トラムウェイ(T3) 全 30 枚 拡大写真

欧州を代表する都市パリ。いまパリにおいて脱自動車が加速している。

2008年、本誌ではパリのカーシェアリングシステム事業者や自転車レンタル事業者などを取材した。当時からすでにパリでは、自動車の利用形態の変化がビジネスレベルで起こっていた。2012年のパリでは、都市の新しいモビリティ(移動方法)に対する模索が続き、一部では実際に稼働が始まっている。

環境破壊を憂慮するパリ市民

ディーゼル車の利用比率が高い欧州。パリも例外無く一定数のディーゼル車を抱える。

パリで20年以上の生活経験があり、日本人向け情報メディア『OVNI』の編集に携わる佐藤真氏は「パリ市民はパリのクルマの排気ガスがいかに体に悪いか、パリの空気がいかに汚いかという事に対して憂慮しています。地面に近いと排ガスを吸ってしまうので、ベビーカートの子どもを乗せる部分の高さが近年、どんどん高くなっているという話などもあります」とパリ市民の環境意識の高まりを話す。

新車販売のディーゼル比率が5割を超えるとも言われるフランス。2009年のEURO5以降は、日米と同水準の厳しい規制値を採用しているため、新車に関しては環境負荷が比較的少ない。ただ、EURO5以前の規制は緩く、パリでは旧来のディーゼル車の多くが現役であることや、触媒なしの古いガソリン車の活用も少なくないことなどをパリ市民は理解しているという。

「郊外から帰ってくると、やはりパリ中心部は空気が汚いと感じます。また、NOxやCO2の排出量についてはメディアもよく取り上げますから、パリ市民に、環境意識が植え付けられているのでしょう」(佐藤氏)とする。

こうした市民の意識変化に伴い、パリのモビリティの変化は加速している。脱自動車という大きな方向性のもと、さまざまな新しい試みが実現している。

トラム拡張、一般自動車の利用抑制が進む

取り組みのひとつがパリを走る路面電車「トラムウェイ(トラム)」の拡張だ。主にパリ郊外を結ぶトラムはパリ交通公団がT1、T2、T3を、フランス国鉄がT4を運営している。トラムはそれぞれ、パリ中心部の外郭を覆うように整備され、中心部に張り巡らされたメトロ(地下鉄)と組み合わせることで交通網としての利便性を高めている。

今回はパリ市南部を横断するように線路が敷かれているT3に乗車した。

トラムの料金はバス、メトロと共通でエリア内は1.7ユーロ。乗車にはチケットを購入する必要がある。それ以外の乗車方法としてICカード「NAVIGO」も活用できる。T3は学園エリアから、中華街近辺を通過するルートをとる。学生も多く利用し、アジア人をはじめとする多様な人種で賑わう。線路には芝生が植えられ、周囲に対する環境や騒音への配慮が伺える。

T3は2006年に開通した。このトラムが走行するのはパリ南部の「マレショー大通り」。トラム用線路設置のため、従来最大で片側3車線あったマレショー大通りはひとつ車線を失うこととなった。

パリの脱自動車の施策がここにひとつ実現している。トラムを走らせ自動車用の車線を減らし、自動車の走行量を抑制するとともに路面電車の活用に結びつけるというもの。トラムの線路延長は目下進行中だ。

脱自動車は市民の要求

パリ市内ではトラム用線路のほか、歩道や自転車道、バス専用道の拡張により、一般自動車用の車線を減らすという施策が一貫して行なわれており、結果、自動車の走行量削減につなげている。

この方向性は、政治と密接に関係しているという。「パリ市民の中でも35〜40歳、子育て中の夫婦というのは強い存在感を示しています。彼らは子どものためにパリの環境が良くなる事を望んでいます。環境施策として自動車による公害の削減を打ち出す為政者が多く、近年継続されている方針です」(佐藤氏)という。

トラムの延長による車道の減少。それに伴うパリ市内からの自動車の閉め出し。日本においても、特に公共交通機関が発達した東京をはじめとする都市部では自動車離れが叫ばれて久しい。フランスの首都パリにおいては環境という切り口から、自動車と距離を置く。都市という単位で自動車離れが進行中であり、その取り組みが一つひとつ形になっている。

《まとめ・構成 土屋篤司》

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