トヨタ自動車の生産・販売会社であるタイトヨタ(トヨタ・モーター・タイランド)の棚田京一社長は11月7日、バンコクの本社で日本人記者団と懇談し、タイ市場の今後の見通しやトヨタの事業戦略などを語った。発言要旨は次のとおり。
今年の総需要は最多の140万台に
---:今年の新車需要やトヨタの販売見通しは。
棚田:今年はあと2か月だが、多分140万台くらいまで伸びていくのだろうと見ている。(最高水準だった)昨年の約80万台から一気に60万台増える。今年に入って(大洪水からの)復興需要と、政府による税金の恩典を付けた購入奨励策が需要を喚起している。
国内生産も初めて200万台を突破し、恐らく230万台くらいになるのではないか。トヨタは10月までに43万台を売り切っている。今年は当社の設立50周年だが、それにふさわしい50万台までやることができそうだ。過去最多だった10年の36万5000台を、40万台も飛び超えて更新する。
---:政府の刺激策は2012年末の受注までが対象となる。13年以降の見通しは。
棚田:現状はメーカー各社とも生産が追いつかない状況にある。今年の受注分の納車は来年以降にズレ込むので、多分13年前半の生産は活況を呈すと思っている。後半は多少冷えてくると思うが、政府が今年4月から実施した最低賃金の引き上げが、現状の7県から来年には全土に広がる。所得増による販売への好影響も考えられるので、来年はそう減らないですむと見ている。
一方で、生産については輸出向けが各社とも不足しており、今年は230万台程度の生産のうち、輸出は90万台ほどにとどまる。従って13年の生産は増えるのだろうとの認識だ。
輸出基地になった時のバーツ高は警戒
---:洪水対策は進んでいるが、リスクがなくなったわけではない。それでもトヨタの生産は拡充するのか。
棚田:タイの自動車産業は十分なサプライチェーンもできており、今後生産が増えることはあっても減ることはない。洪水対策は進んでおり、安心感をもってビジネスをやれるだろうと思っている。
ひとつの懸念は、輸出基地になった時にバーツ高になって苦しむこと。1ドル30バーツを切るような通貨高が急速に進めばコスト高になる。先々考えていかねばならない課題だ。従って全部が全部、タイで増産ということでなく、インドネシアなど他のアジア諸国とどう役割分担するかを考えていくことになる。
---:タイでは失業率が1%を切っている。今後、人手不足が深刻になるのでは。
棚田:深刻というのは事実だ。ただ、一方でかつての日本のように1次産業から2次産業への労働力のシフトも起こっていくだろう。また、15年に予定されている「ASEANエコノミックコミュニティ」の実施により、加盟10か国間の規制緩和が進み、労働移動も促進される見込みだ。人手不足は他国からのサポートでも補うことになるだろう。
欧米や韓国メーカーは攻めにくいはず
---:東南アジア市場は日本勢が圧倒的に強いが、欧米や韓国メーカーの進出にはどう対応していくのか。
棚田:最近ではいすゞが能力を増強し、日産も20万台規模の増強を発表された。日本各社が工場を拡張するのは販売や輸出に自信をもっているからだ。タイでは新車販売の90%が日本車となっており、重要な拠点である。タイでは工場進出しないと販売は伸ばせない。欧米や韓国メーカーは、多分ここは攻めにくいと考えているだろう。
日本のライバル他社の能力増は、当社には大変だが、ある意味で日本メーカーの拡張は、他の外国メーカーを躊躇させる効果もある。日本車が頑張っていけば、欧米メーカーなどが工場を出す元気は出ないだろうと考えている。