【日産 ノート 試乗】まずまずの燃費性能と不十分な安全装備…松下宏

試乗記 国産車
日産・ノート
日産・ノート 全 10 枚 拡大写真

『ノート』は日産が世界戦略車として開発を進めたでコンパクトカーで、国内では『ティーダ』を統合するとともに、好調な売れ行きを続ける『フィット』に対抗するモデルとして開発が進められた。

外観デザインはボディサイドに明快なプレスラインを持つなど、近くで見るとほかのコンパクトカーとの違いがはっきり分かる。ただ、遠くを走るノートを見るとフィットと似たような感じで、余り個性が感じられなくなる。

インテリアはコンパクトカーらしいシンプルなもの。上級グレードのメダリストはピアノ調のパネルを採用するほか、本革巻きステアリングホイールを採用するなどして質感を高めている。

室内空間はけっこう広い。『マーチ』と同じプラットホームを採用しつつ、ホイールベースを延長して従来のノート並みにしたことが室内の広さにつながった。後席の空間は大人が足を組める広さだ。

ラゲッジスペースは特に広くはないが、まずまずの広さがあり、床面の高さを調整して搭載する荷物の量などに対応できる仕組み。ただ、トノカバーの設定がないのはやや残念なところ。

試乗したのは最上級グレードのメダリストとX DIG-Sの2車種で、どちらも基本メカニズムは共通。直列3気筒1.2リッター+スーパーチャージャー仕様のエンジンを搭載する。

両車の燃費はノートで最高の25.2km/リットルではなく24.0km/リットルの仕様。というのは、25.2km/リットルを達成しているのは全く売る気のないS DIG-Sと呼ぶグレードで、いわゆるオトリ商品。ノートの燃費の実力は24.0km/リットルと考えたら良い。

日産はクラス最高の燃費を強調するが、実際には『デミオ』のSKYACTIVには届いていない。デミオに勝ちたいがために売る気のないグレードを設定しただけで、このような羊頭狗肉(ようとうくにく)的な商法は今どき流行らない。決して燃費が悪いわけではないのだから、もっと堂々と商売したら良い。

ノートの搭載エンジンはほかに自然吸気仕様があるが、燃費が良いのはスーパーチャージャー仕様の方だ。なのにJC08モードのカタログ燃費を測定するときにはスーパーチャージャーは全く働いていないという。

だったら何でスーパーチャージャー仕様車の燃費が良くなるかといえば、スーパーチャージャー仕様のエンジンはミラーサイクルと呼ぶ圧縮比と膨張比の異なる仕様としているため。これによってエンジンの効率を上げている。

単純にミラーサイクルを採用するだけだと熱効率は良くなるがトルクが落ちるため、トルク不足を補うためにスーパーチャージャーを装着したわけ。ふだんはスーパーチャージャーは働かないが、スポーティな走りを楽しみたいときにはしっかり働く。でもそのときには燃費が悪くなる。

燃費と走りを両立させたのではなく、燃費の良い面と、走りの良い面のふたつき顔を持つエンジンと考えたら良い。

スーパーチャージャーを使わない状態での走りがどうかといえば、これがまずまずの実力でけっこう良かった。市街地を普通に走らせても、特にトルク不足を感じさせるようなシーンはなく、流れに乗って走れた。これはECOモードでも、ノーマルモードでも変わらない。

それでいて、アクセルを踏み込んでスーパーチャージャーが働く状態で走らせると、相当に元気の良い走りが可能である。

ふだんは燃費の良い走りをキープしておき、走りを楽しみたいときや加速が必要なシーンなどでスーパーチャージャーを効かせた走りをすれば良い。

東京から箱根までを往復したときの復路では、下り坂と高速道路中心ながら110kmの距離を走って24.8km/リットルの燃費が出た。

乗り心地や足回りは全体としてはまずまずといった感じで、普通の路面を走っているときには特に不満を感じない。でもマンホールのふたや、高速道路の継ぎ目部分など、少し出っ張りがあるところを越えていくときには、しっかり突き上げが入ってくる。余りこなれていない感じの足回りだ。

ノートで最も問題なのは、安全装備の仕様。というか、安全性に対する基本的な考え方だ。横滑り防止装置のVDC、後席中央のヘッドレストレイント、SRSサイド&カーテンエアバッグなどの設定に不満がある。

横滑り防止装置は一部のグレードにだけオプション設定にとどまっている。世界中で義務化が進む安全装備を、規制を受ける前のわずかな時間差を突いて滑り込みで省略してしまうのは、安全装備に対する露骨な手抜きであり、自動車メーカーとしてき安全に対する姿勢が問われるものだ。

後席中央については、義務化済みの3点式シートベルトは当然ながら装着しているが、ヘッドレストレイントについては義務化されていないのを良いことに装備していない。これもメーカーとしての姿勢を疑うしかない。

SRSサイド&カーテンエアバッグについては、上級車から順次標準装備化が進められている段階で、コンパクトカーでは標準装備するのはまだ例外的だが、ノートの一部グレードにだけオプションというのは、何とも物足りない設定である。

安全装備は、保安基準で決められたから設定するというものではなく、クルマの安全性を確保するためには何が必要かを考え、積極的に採用していくことで、結果としてそれが保安基準に採用されていくというくらいの志で採用して欲しい。

松下宏|自動車評論家
1951年群馬県前橋市生まれ。自動車業界誌記者、クルマ雑誌編集者を経てフリーランサーに。税金、保険、諸費用など、クルマとお金に関係する経済的な話に強いことで知られる。ほぼ毎日、ネット上に日記を執筆中。

《松下宏》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. BEVを2年間所有した、“リアルな”ランニングコストを大公開
  2. ベントレーの超高級住宅、最上階は「55億円」 クルマで61階の自宅まで
  3. 【ダイハツ ムーヴ 新型】「ポッキー入れ」にイルミネーション、軽自動車でも質感を“あきらめさせない”インテリアとは
  4. 日産の新型セダン『N7』、発売50日で受注2万台を突破
  5. メルセデスベンツの万能車『ウニモグ』がキャンピングカーに! 数日間の自給自足が可能
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 茨城県内4エリアでBYDの大型EVバス「K8 2.0」が運行開始
  2. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  3. 三菱が次世代SUVを初公開、『DSTコンセプト』市販版は年内デビューへ
  4. 独自工会、EV減速でPHEVに着目、CNモビリティ実現へ10項目計画発表
  5. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
ランキングをもっと見る