【池原照雄の単眼複眼】プリウスよりも優れた空力性能めざす…トヨタが新鋭風洞設備

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トヨタ自動車・大型送風機
トヨタ自動車・大型送風機 全 3 枚 拡大写真

直径9mのファンで時速250km走行を再現

トヨタ自動車が最新鋭の風洞実験棟を豊田市の本社テクニカルセンターに完成し、3月から運用を始めた。最高250km/hの走行が再現できるなど乗用車用の風洞設備としては世界トップクラスであり、燃費や走行安定性などを追求する車両開発のスピードアップにつなげていく。

トヨタは1969年に実車での実験が可能な風洞施設を導入していたが、全面的な刷新は今回が初めてとなった。250km/hの走行を再現するということは、これと同じ速度の風を起こす必要がある。このほど公開された設備は、専門メーカーである三菱重工メカトロシステムズの設計・製造によるもので、送風機の直径は9mに及ぶ。

ここで起こした風は、全長110mの建屋の中をUターンするように配置された風洞を通過して、実験車両にその風を当てる「吹出口」に至る。風洞の断面積は徐々に小さくなるように設計されている。風の通路を段々と狭めることで風速を高めるためであり、なぜ風洞実験設備がこれほど大掛かりな造りとなるのか、かねての疑問が解けた。実験車両が風と対峙する吹出口は幅7m・高さ4.5mと、そう大きくない。

タイヤを回し、路面も動く

この施設を最新鋭と評すことができるのは、高速の風をつくるだけでなく、車輪や車体の下部も実走行状態をシミュレーションできるからだ。つまり、想定速度に応じて車輪を回転させ、さらに「ムービングベルト」と呼ぶ車体下の道路に相当する部分は、走行速度(=風の速度)と同じ速さで車両の前方から後方へと流れ動く仕組みになっている。

近年では空気抵抗に配慮し、車体の床下構造もフラットにしているが、この風洞設備では車輪や路面の動きも再現できるので、より高精度な床下構造の分析が可能となった。車体の空気抵抗は走行速度の2乗に比例して大きくなり、100km/hで走る時の走行抵抗の約7割が空気抵抗だという。従って空気抵抗を低減することが、燃費性能の向上には極めて有効となる。

クルマの空気抵抗は、自動車メーカー各社が計測した「Cd」という系数で示され、このCd値が小さいほど抵抗は少ない。1980年代初頭にはセダンでCd値が0.3を切ると、「凄い空力性能」などと評されていたが、解析や造形技術の向上により、今日では0.2の半ばからさらに下をうかがう状況となっている。

ちなみにトヨタの現行モデルで、もっともCd値が小さいのは『プリウス』で0.25。次いでレクサス『LS』の0.26、『86』や『クラウン』の0.27などとなっている。施設を案内してくれたトヨタの性能実験部の担当者によると、先行開発中のモデルでは、プリウスを上回る(数値は小さい)データも出ているという。

風洞実験による解析は、燃費性能につながる空気抵抗の低減だけでなく、操縦性や走行安定性の向上、さらには風切り音の軽減など静粛性の向上にもつなげることができる。何より、そうしたクルマの基本性能を高めながら、魅力あるデザインと両立させるうえでも風洞実験設備は欠かせない。トヨタは4月から市場別など4ビジネスユニットによるスピーディーな事業推進に踏み出しており、この新鋭設備には大きな期待がかかっている。

《池原照雄》

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