【池原照雄の単眼複眼】日産、優れもの超ハイテン材で車体軽量化を加速

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日産、既存生産設備で世界初の超ハイテン材を実用化
日産、既存生産設備で世界初の超ハイテン材を実用化 全 3 枚 拡大写真

素材開発と生産技術を高次元で融合

日産自動車が車体軽量化の一環として、世界で初めてという成形性の高い超ハイテン材(高張力鋼板)を今夏から高級乗用車に採用する。新日鉄住金および神戸製鋼所と共同開発を進めてきたもので、強度や成形性のみならず、コストも割安という優れもの。素材開発と生産技術を高い次元で融合した世界に誇れるメード・バイ・ジャパンとなろう。

ハイテン材は自動車ボディーの主材料である鋼板の引張強度を高めたもので、同じ強度だと板厚を薄くできるので、軽量化やデザインの自由度向上などにつながる。一般的に、引張強度が440MPa(メガパスカル)級以上の鋼板はハイテン、さらに強度を高めた780MPa級以上のものは超ハイテンと呼ばれることが多い。

今回、鉄鋼2社と日産が実用化した超ハイテンは1.2GPa(ギガパスカル)なので、最も強度の低いハイテンの3倍近い強度をもつ。使用部位などを考えずに単純化すれば、鋼板の厚さは3分の1程度へと薄くでき、重量も同様の比率で軽くできる。

「高延性」で既存設備を使えるように

ところが、いいところばかりでなく、強度を追求すれば「延性」、すなわち素材としての粘りは低下する。パンチ力はあるが打たれ弱いボクサーのように、強さともろさが同居する。自動車の場合は、プレス加工によって成形するので、延性が低いと割れが生じやすく、自ずと使途も限られていた。

そうした難点をカバーするため、鋼板を高温に熱したうえで加工して割れを防ぎ、超ハイテン並みの強度を確保する工法も生まれた。ホットプレスというもので、これに使う鋼板は「ホットスタンプ材」と呼ばれる。たとえばトヨタ自動車が2代目『プリウス』(2003年)の一部骨格部品からホットプレスを採用したように、世界の主要自動車メーカーは、ほとんど経験している工法でもある。

当然のことながらホットプレスには追加の設備や工程が必要となる。日産と鉄鋼2社による超ハイテンは、素材の組成を改良することで「延性」を高め、既存のプレス機械を使い従来どおり“常温”でのプレス加工ができるようにした。

超ハイテンにはプレス加工後に「スプリングバック」が大きく出るという難点もある。これは成形しても、形状が元に戻ろうとするもので、カールさせた髪が時間ととともに真っ直ぐに戻っていくような現象だ。日産はこれに対しては、予めスプリングバックを考慮した精度の高い金型を設計する技術でカバーするようにした。

従来品より確実に安くできる

さらにプレス加工した超ハイテン部品をスポット溶接する際も、溶接の圧力や通電時間を制御することで、通常の溶接機が使えるようにした。ハイテン材は強度が高まるに連れ、コストは高くなる。だが、この超ハイテンは板厚を薄くしたうえで既存設備が使えるため、「従来のハイテン材よりは確実にコストを下げることができる」(車体技術開発部の鈴木伸典部長)という。

日産は今回実用化した超ハイテンを、夏に北米に投入するインフィニティ『Q50』(次期スカイライン)に初採用し、順次拡大する。コストの優位性を生かし、「高級車だけでなく全てのモデルに採用する」(鈴木氏)方針で、現状では9%となっている車体の超ハイテン比率(重量比ベース平均値)を17年以降は25%まで高める目標を掲げた。車体としては15%の軽量化を図り、燃費性能の向上につなげていく。

《池原照雄》

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