【フォード フォーカス 試乗】“ブランド”という色眼鏡なしでも良品…家村浩明

試乗記 輸入車
フォード・フォーカス「Sport」
フォード・フォーカス「Sport」 全 12 枚 拡大写真

ノーブランド(無印)にして上出来のもの(良品)という単語をつなげると、今日では、どうも商品名や企業名になってしまうらしい。

【画像全12枚】

ただ、こうした工業製品の評価というのは、普通の日本語としてずっと存在していたはず。これは見方を変えると、人はそれだけ、何かの“印”が付いているもの(ブランド)には弱いということであり、それは同時に、そうした“印”に囚われることなく、そこにある製品をそのまま評価するのは非常にむずかしいことを示しているのだろう。

もちろん、それならブラインド・テストをやってみればいいじゃないかというのは、その通りである。ただ、某TVおせち番組のように、牛肉であれば、数万円の肉とスーパーの安売り肉を目隠ししたタレントに食べさせることができるが、そういうテストがなかなかやりにくい商品のジャンルもある。そして、クルマはそのひとつではないかと思う。

…とはいえ、後席に目隠し状態で乗って、そのクルマの快適性や静粛性を比較するといったテストなら、メーカーはおそらくやっていそうだ。さらには、ステアリングを操作してのドライビング・フィール評価にしても、メーカーならテストコースを持っているから、その中で、目隠しされたテストドライバーが広場を走り回ることは不可能ではないはず。ただ、キャリアのあるクルマのテスターなら、車室内の匂いやシート、またステアリングホイールの感触などで、目隠しをされていても、その車種を特定してしまう(ブラインドにならない)ことがありそうだが。

さて、こんな“無印の良品”やブラインド・テストがふと気になったのは、フォードの『フォーカス』に乗ったからである。たとえば、VWの『ゴルフ』、またプジョーのコンパクト、あるいはスモール・ボルボなどであれば、車名(メーカー名)だけで、「ああ、あの…」というイメージが湧くと想像できる。さらにはその評価においても、すでに多くの人に共通したもの(多くはポジティブ、「コレはいいものですぜ!」)があり、また、そういう事情を称して、これを「ブランド」と呼ぶらしくもある。

しかし、フォーカス、またメーカーとしてのフォードでは、その種のイメージの喚起というのは、おそらく少ない。ただ、ここでの“イメージ”とは実は予断でもあるので、そういうものナシにクルマに試乗できるのは、むしろありがたいことではあるが。また、フォーカスの場合は、2005年に登場した旧型(2世代目)のあとに若干の空白時期もあり、さらにまっさらな状態で、この新型車に触れることにもなった。

走り出してすぐ体感するのは、静粛性にすぐれることと、そして乗り心地のしなやかさである。今回の試乗では、地方都市の街中や郊外の一般路など、時速60km以下で走る低速域での走行が多かったのだが、しばしば欧州車が苦手とすることがある、こうした“遅いとき”(サスがあまり動かない領域)の足の動き、そのときの乗り味で、このクルマは際立った滑らかさ示した。

今回導入される仕様は「スポーツ」のワングレードだが、スポーティモデルであるにも関わらず、ゴツゴツ感など、乗り心地での硬さの気配は皆無。乗り味をたとえて言えば、まあ上質のコットンか。シルクの華やかさはないが、日常使用であれば、マイルド感の奥に強さとタフネスさを内蔵した、こういうテイストの方が使いやすいし気軽でいい。

また、このしなやかさは、低速域での快適性を得意とする日本車にも負けていないもので、サイズがゆったりしたシートの、フトコロが深いというべき“支え具合”もまた、こうした乗り心地の現出に貢献している。日常的な使用には、ちょっとバケットの形状が深すぎるという感はあるが、これは「スポーツ」グレードなるがゆえのこだわりか。

しかし、こういう快適性にもすぐれた「スポーツ」を見せられると、そうではない普通のフォーカスというのはどんなクルマなのだろう?という興味が猛然と湧いてくる。乗り心地の柔らかさは、これに勝るのかもしれないし、バケットタイプでないシートがあるなら、それも体感したい。インポーターは当分、このワン・グレードだけを導入するようだが、これはちょっと遠慮深すぎると考える。より安価な仕様を…という意味でのインパクトも含め、もっと積極的なマーケット展開をしていいのではないかと思う。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナーリスト
1947年、長崎生まれ。カー雑誌やムックなどの編集を経て、1983年頃よりクルマ関連を中心に執筆活動をはじめる。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。
日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。
著書に『自動車コラム大全1984~1989』『最速GT-R物語』『プリウスという夢』(以上、双葉社)『ル・マンへ……』など。大久保力氏の著作『百年のマン島』(2008年・三栄書房)には編集者として関わった。

《家村浩明》

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