走り出してまず感じたのは、その静かさだ。ノイズが抑えられているのではなく、明らかにノイズが少ない感じ。タイヤから発するノイズの量が少なくなっているような印象を受ける。
それともう一つ。滑らかでフラットなライド感が印象的だ。スーッと滑るように…という表現が妥当かどうかわからないが、そんな感覚なのだ。いかにも上質な乗り味で、クルマが1ランクグレードアップしたように感じる。
単純にソフトな乗り心地のタイヤ、というわけではない。むしろタイヤのダンピングと呼ばれる張りはしっかりあって、適度に足元が引き締まっている感覚がある。
一般道では、メルセデスベンツ『E250』+245/45R17に試乗したが、フラットなライド感が上質な乗り味に、またタイヤのグリップ感が作り出す安定感がよい意味で落ち着きにつながっており、まるで『E350』に乗っているような感覚さえ覚えた。
そうした乗り味の部分に慣れてくると、次に感じられるのが足元のしっかり感だ。ガチッとグリップする…というほど強力なグリップ感はないのだが、しっかりとタイヤが路面をとらえている安心感があり、ハンドルを切り出すとコシの強さを感じさせる踏ん張り感を見せてくれる。
『アルファード』にも試乗することができた。こちらはインチアップサイズで、245/40R19との組み合わせだった。多少タイヤ+ホイールの重さからくるバタつきは感じられたものの、基本的には乗り心地がよく、室内の騒がしさもなかった。純正サイズと比べロードインデックスが高くなっているので、単純に車重の重いクルマとのVE303のマッチングは語れないが、フロント足元はもちろんのこと、静かさという点ではリヤホイールアーチからの透過音が少なく静粛性はかなり高い。ただし、他の風切音が聞こえてくるけれど…。
テストコースでは『クラウンロイヤル』でVE302と新型の VE303を215/60R16サイズで比較試乗することができた。
印象はVE303のほうが1ランク上質な乗り味。ただし、タイヤの路面への当たりのソフトさという点ではVE302も悪くなかった。比べるとVE303はVE302よりもダンピングの効いた、言い換えるとタイヤのたわみ感に張りがあって、40km/h内外といった速域の低いところではVE302の印象のほうがいい場面もあった。ただそれ以上の速域になるとVE303のほうが滑らかにタイヤが転がっていく感覚がある。また操縦安定性の面でもケース剛性の高さが操縦性の良さにつながっている。
さらに、このクラウンロイヤルでスキッドパッドで走り比べることもできた。その差はちょっと驚くくらい明確だった。速度にして6~7km/hくらい。半径25mの定常円でこの速度差はかなり大きい。見た目の旋回スピードでも明らかに違いがある。
興味深いのは。VE303は、より粘ってグリップしているという感覚がほとんどないのだ。一つには、タイヤの変形量がVE302よりも少ないので、クルマの相対的なロール量が少なくなっていることが挙げられる。それから旋回中の接地面積に違いがあり、その差からくる安定感の違いで、むしろ速度の速いVE303のほうが安定しているように感じた。
ただしウエット路面ではグリップが良いぶん、滑り出しの速度が速くなる。グリップがよく旋回スピードが上がれば致し方ないことなのだが、できればグリップの限界領域挙動がもう少し穏やかになるといいと思う。滑り出してしまえば逆にコントロール性はよい。
ついでにもう一つ。VE303の優れた点はその走り出しの軽さだ。転がり抵抗が少ない分走り出しが明らかに軽い。特に停止状態から走り出す時の動き出しにモタッとした重さがない。燃費の面でも貢献してくれるはずが、走りのテイストとして、感覚的に軽やかで心地いい。
トレッドデザインは縦溝ばかりが目立って、のっぺりした印象を受けなくもない。けれども実はこのトレッドデザインには静かに走るための機能が満載しているのだ。その性能は乗ればわかる。軸足がコンフォートなので、スポーツ志向の強いドライバーやドライビングには向かないが、プレミアムセダンのコンフォータブルなキャラクターをもう少し強調したいという人に合うはずだ。