【トヨタ SAI 試乗】乗り心地の大幅改善で魅力アップ、試乗燃費は16.7km/リットル…井元康一郎

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トヨタ SAI S “Cパッケージ”
トヨタ SAI S “Cパッケージ” 全 6 枚 拡大写真

エクステリア、インテリア、シャーシなど、多くの部分が大変更を受けたトヨタ自動車のハイブリッドセダン『SAI』のマイナーチェンジモデルに試乗する機会を得た。筆者はマイチェン前の旧型でロングドライブをした経験があったので、新旧の比較を交えながらレポートしたい。

◆マイナーチェンジでキャラクター大変更

SAIはハイブリッドカーのベストセラーモデル『プリウス』より1クラス上にポジショニングされた、ハイブリッド専用のミドルクラスセダンとして09年末に発売された。独立したトランクルームを持つセダンパッケージだが、ボディフォルムはプリウスと同様、空力特性重視の卵型。飾りの少ないプレーンな外観、ボタン類を極力減らした未来志向のインターフェースなど、知性を前面に押し出したキャラクター付けがなされていた。

が、そのキャラクターの受けは良くなく、販売は低迷。そこでトヨタは今年9月のマイナーチェンジでコンセプトをガラリと変え、攻撃的なフロントマスク、カラーステッチやソフトパッドを多用したインテリアなどを持つ、マイチェン前とは真逆のキャラクターを与えてきた。

意匠性だけでなく操縦安定性や乗り心地の向上を目的とした車体・シャーシ側の設計変更も大規模。溶接箇所を増やしてボディシェルの強度を上げ、ヤマハ発動機が考案したショックアブゾーバーとストラットタワーバーの機能を併せ持つというイメージの新しい揺動抑制装置「パフォーマンスダンパー」を採用するなど、不人気モデルのテコ入れとしては異例なほどに力が入っている。

改良版SAIの試乗会が行われたのは横浜のみなとみらい地区。この界隈ではホンダも新型『フィット』の試乗会を行っていたため、それとほぼ同じコース、同じ距離を走らせてみた。

◆乗り心地とハンドリングが大きく洗練

旧型から大幅に向上した部分としてまず挙げられるのは乗り心地。SAIはボディサイズはDセグメントだが、プラットホームはCセグメントの『オーリス』と共通。旧型ではそれが少なからずネガティブに作用していて、きれいな舗装ではそこそこの滑らかさがあるものの、舗装がちょっと荒れていたり、路盤の継ぎ目が連続するような場所だと、とたんにガタンガタンとサスペンションが暴れるような動きになってしまうなど決して上質とは言えない乗り心地で、せっかくのハイブリッド専用セダンの商品力を少なからず損なう要因となっていた。

新型の揺動・振動吸収性性能は、その旧型から大幅に改善されていた。路面のざらつきをタイヤが拾う時の共振のような微振動から小さなギャップを踏んだ時の突き上げ、ゼブラ状の減速舗装部分を通過するさいのサスペンションへの連続入力など、さまざまな項目で性能向上がみられた。

ハンドリングも、あくまで試乗時のドライ路面での話ではあるが、高速道路ランプのコーナーでボディがロールしてから戻る動きが素直になり、旧型では頑固だったアンダーステアもかなり弱められた。これなら長距離ドライブで山岳路などを走るときもストレスを覚える局面はそれほど多くはないだろう。

◆レクサス HS250hよりも好印象

弱点として残っているのは路面のアンジュレーション(うねり)の吸収で、凹凸の幅が大きくなると揺すられ感が強まり、その収束もあまり良くない。伸びたサスペンションが縮むさいに、ふわりと受け止めるような動きをもっと良くできれば不正路面の凹凸を舐めるような走りの上質感が出るのにと、惜しく感じられた。また、高速道路の床板の継ぎ目など大きめのギャップを踏んだりすると、とたんにバタンと低質な衝撃が起きてしまう。

が、ボディも強化されているとはいえ、もともと1.6トン弱のセダンを作るには少々荷が重いCセグメントのプラットホームを使っていることを思えば大いに頑張ったほうだ。旧型とは比べるべくもないし、内外のライバルと比べてもクラス最良ではないがアベレージよりはずっといい。同じプラットホームを使う兄弟モデルで、SAIに先立って大規模マイナーチェンジが施されたレクサス『HS250h』が、動きのシャープさを出そうとしたためか、揺すられ感や突き上げ感が強めに出ていたのに比べればはるかに好感が持てた。

一方、旧型の美点であった静粛性の高さはマイナーチェンジでさらに強化された。とくに素晴らしいのは、タイヤノイズのなかでも「サーッ」というホワイトノイズのような比較的周波数の高い騒音のシャットアウトぶり。少なくとも市街地やクルーズ速度の遅い首都高速では、体感的にはクラウンより静かであった。

◆ハイブリッドパワートレーンの静粛性とスムーズさはトヨタ随一

もうひとつの美点はパワートレインからのノイズの低さとスムーズさ。もともとSAIのパワートレインは騒音・振動の面では旧型時代から傑出したレベルにあった。数あるトヨタのハイブリッドパワートレインのなかでも不動のナンバーワンで、『クラウン』やレクサス『IS300h』に搭載される最新のものも、SAIに比べれば騒々しく感じられるほどで、とくにアクセル開度が小さい時にはエンジンがかかってるのかモーターのみの走行なのか、走行音にかき消されてよくわからないくらいの静粛性だった。

新型ではその静粛性がさらに向上している。とりわけタウンスピードではカーオーディオのボリュームをみだりに上げずとも、部屋にいるかのように音楽を聴くことができるくらいの静けさ。また、そのカーステレオのサウンドチューニングも自然で、マークレビンソンのエンブレムをつけた『レクサスIS300h』のオーディオよりずっとよかった。

◆参考試乗燃費は16.7km/リットル

おしまいに燃費。試乗ルートはみなとみらい地区の一般道7.1km、首都高速道路3.5kmの合計10.6km。1名乗車、暖気ずみ、エアコン25度、ドライブモードはノーマル(他にEV、エコ、および新設のスポーツがあり)、バッテリー残量は上から3目盛目という条件で走った。

当日はフィットの試乗会のときに比べると道が空いていて、平均車速も23.6km/hと都市走行としては十分。とくにエコランはせず、スロットルの踏みすぎによるオーバーシュートと減速エネルギー回生に少し注意を払いながらごく普通に走った結果、オンボードコンピュータの燃費計の数値は16.7km/リットルとなった。これまでの運転経験から推測すれば、現行『カムリ』には負けるものの旧型SAIは確実に上回るといったところか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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