これまで200系『ハイエース』のマイナーチェンジを担当した開発主査、包原氏に新しいハイエースの開発にまつわる様々な出来事を語ってもらったこのインタビューも、いよいよ今回で最終章。改めて開発主査である包原氏に、今回のハイエースマイナーチェンジの仕事を振り返ってもらうことにしよう。
今回のマイチェンで改善できなかったこと
少々意地悪な質問になるが、今回のマイナーチェンジでは改善できなかった部分などはあるのだろうか。
包原氏(以下敬称略):できなかったことと言えば、DXグレードの内容もより充実化させたかったですね。材料着色のバンパーでもスタイリッシュにしたい、という目的は達成できましたが、やはりコストが優先されるグレードなので、色々手を加えるのは難しかった。できれば乗り心地を改善したかったですね。
乗用車化進む?
ということは、4ナンバーのハイエースでも今後ますます乗用車的な快適志向を強めていくのだろうか。
包原:お客さまの指向として、乗用車に近い快適性を求める傾向があるのは事実ですね。でも本当にハイエースは色々な使われ方がされるので、判断が難しいです。ただ日本の都市部は道が狭い地域も多いですし、駐車場のスペースにも限りがある日本では4/5ナンバーのワンボックスは絶対に必要な存在なのです。
駐車場に停めても、両サイドには余裕もある。ハイエースは見た目のイメージからは信じられないほどコンパクトなのです。実はホイールベースも短くて、小回りも利く。それにフルキャブというレイアウトは、例えば北海道の冬道では、道路に出る際に雪の壁で視界を遮られても、ちょっと頭を出すだけで安全確認ができる。ハイエースを支持してくれるこうした意見は、全国を回ったからこそ得られたものでした。
これからのハイエース像
やはり4ナンバーのサイズに留まることは、ハイエースの絶対条件の一つだったのだ。ではマイナーチェンジという仕事を終えたばかりの包原氏であるが、これからハイエースはどうなっていくのか、この先のハイエース像を占ってもらうことにしよう。
包原:最大のスペース効率をもつ、というのはハイエースにとって使命だと思っています。これは荷物を運ぶ、人を運ぶクルマとして、間違いなく受け継がれていくものです。その上で、より人に優しい、働く元気を無駄遣いしない方向にしていく。それは交通事故の低減にもつながるでしょうし、仕事が終わってからの日々の充実にも余裕が生まれます。
そういう意味で人に優しいクルマになっていくのかなと。自分が手がけるなら、そういうクルマにしていきたいですね。ただ、何でもかんでも盛り込むようなことはできませんから、その辺りはバランスを見極めながら必要なものをしっかりと盛り込んでいくようなことをやっていきたいです。
それと絶対に外してはいけないのは、耐久性です。社内では「ハイエース品質」という言葉を使うのですが、通常の社内基準であるトヨタ品質とは違う見方をしている部分があるのです。一般的にはクルマは耐久消費財の部類に入りますが、社内ではハイエースは“生産財”と呼んでいます。ビジネスとして利益を生み出す、生産活動を行うためのクルマですね。ユーザーの生活に寄り添って将来を描いていくためのクルマですから、耐久性は本当に重要です。つまりスペース効率と耐久性という二本の柱は守りながら人に優しく、もちろん環境性能にも対応していく、そういうクルマでしょうね。
包原氏にみえたもの
「個人的にはユーザーが遊べるような、面白いバージョンが用意できるといいな、というのはありますね」とも語る包原氏。今回のハイエース開発を手がけて、見えてきたものがあると言う。
包原:世界中のユーザーから「作ってくれてありがとう」と言われるクルマは、他に例がないのではないかと。今回、ハイエースを手がけてみて、自分の世界と知識が広がりました。そしてクルマ作りは結局、スポーツカーも商用車でも同じだという考えに行き着きました。いいクルマを作るだけなのです。
トヨタの社内では次世代ハイエースの開発も既に始まっていることだろう。それとは違うのかもしれないが、包原氏が手がける、次なるクルマの登場も楽しみだ。